『決着』
目一杯、奥までナイフを刺し込んだ。抵抗はもうない。だが王は動かない。倒れもしない。
(心臓だぞ?倒れろよ!)
俺は焦り、力任せに、その心臓から下に向けてナイフを引き裂こうとした時、鈍い音と共にナイフが折れた。
全力で力を込めていた反動で、俺はそのまま派手に地面へ転がった。
慌てて顔を上げると、まだ王はそこに立っている。
(まだ生きてる?!)
必死に転がって距離を取り腰の拳銃を抜いた。
――が、すぐに銃口を下ろした。
「……。?」
「ゆ、裕……? これって……」
アンナが呆然と呟く。
「……た、立ったまま死んでるみたい……」
最強と謳われた男は、心臓を貫かれ、頭を半分失いながらも、最後までその巨躯を地に伏せることはなかった。
俺たちは同時に深いため息をつき、その場にへたり込んだ。
「アンナ、ナイスショット」
「うん、…ナイスファイト」
「二人の勝ちだ。二人がかりだが、見事だったぞ。あの王を倒しちまうなんて」
ボスが血塗れの顔で笑った。
「ボス〜、ボロボロじゃん! どうしたのそれ」
「へっ! うるせぇ! だが王がナノマシン兵だったってことは、人間最強はやっぱり俺様かな!」
俺は立ち上がり、フラフラとボスに手を差し出した。
「あの時、ボスが来なかったらやられてた。ありがとう」
「警察がマフィアに感謝かよ」
ボスは俺の手を力強く握り返して立ち上がった。
手が潰れるかと思った。
なんて馬鹿力だ。
『ボス、テロリストを全滅させました(中国語)』
「よくやった。リーダーはいたか?(中国語)」
『いえ、ここにはいませんでした(中国語)』
「なんて?」
俺がアンナに聞くと、彼女は肩を貸りながら答えてくれた。
「テロリストは全滅したけど、リーダーはいなかったって……よいしょ」
アンナも何とか立ち上がる。
「てか、裕、ボロボロだよ! ひどい怪我……」
「なんか治んないんだ。すげー痛いし、骨もあちこち折れてるし……」
王との死闘でナノマシンが壊れたのかも……と不安になった。
「アンナはあのあとどうやって治ったの?」
「あのあとすぐに再生始まったんだよ。まだ傷治ってる途中みたい。むず痒い……」
「あ、じゃあ手術代払わなくていいか……あぶねー。臓器売るとか言っちゃったよ」
「うん、手術台に乗ってすぐ治り始めたからね。応急処置がよかったのかも、ありがとね」
「とにかく、後始末は俺たちに任せて、お前らは帰りな」
「とか言って、軍の武器をそのままパクる気でしょ?」
「バレたか!」
がはは、とボスが豪快に笑う。
俺は通信機を叩いた。
「高槻博士、女リーダーは取り逃がしましたが、テロリストは殲滅しました」
『わかった。二人とも戻ってきてくれ。あとの処理は私がやる』
「いえ、マフィアのボスが任せてほしいそうです」
『……そうか。わかった。任せよう』
こうして、戦場となった廃工場から硝煙が消えていった。
だが、あの女リーダーは、またしても闇の中へと姿を消した。
◇
「二人とも血塗れだね。それに裕くんに至ってはボコボコじゃないか」
基地に戻るなり、高槻博士が驚いていた。
「ええ……なんか、時間が経ったらどんどん腫れてきて」
なんか水木しげる大先生が書く妖怪みたいになっていた。
つるべ落としみたい。
「裕、大丈夫? 高槻、なんで裕の傷が治らないの?」
アンナが必死に食い下がる。
「ふむ、調べよう。こっちへ来て採血から始めようか」
◇
「コアのオーバーヒートだね。短時間に再生を繰り返しすぎて、ナノマシンの処理能力が限界を超えている。食事を摂って安静にしていれば戻るはずだよ」
検査結果を聞いて、俺は心底ホッとした。
「このまま治らないかと思いましたよ……」
「ここまで短期間で凄まじいダメージを負った検体は初めてだよ。いいデータが取れた。……ああ、もし治らなかったら再手術だから、そのつもりで」
「それ、麻酔効きますかね?」
「ダメージが治らないということは、解毒作用も低下しているはずだ。効きすぎるかもしれないね。君らナノマシン兵は終わった後、縫合しなくても勝手に塞がるから楽でいい」
「……楽とか言わないでください」
(やっぱ高槻だった!トカゲ野郎め!)
◇
「裕ー! 大丈夫だった?」
医務室の扉を開けると、アンナが床に座り込んで待っていた。
「うん。飯食って寝てれば治るってさ」
「うむ。二人には休暇を言い渡す。とりあえず3日だ。裕くんに変化がなかったら再手術を行う」
「あ! じゃあご飯行こ!」
「カレーライス食べたい」
「私もお腹空いちゃったー! いつも狙撃ばっかだから、再生って疲れるね!」
「……俺、再生する時あんまり疲れないんだけど。本来疲れるものなのか?」
「そうなんだ。やっぱり再生特化だからかな? 便利だね!」
「便利っていうか、不気味だけどな……。あ、王に打たれたところが熱持ってジンジンしてきた。早く行こうぜ」
この日はCoCo壱でカレーを食べた。
俺の頼んだ納豆カレーを見て、アンナが少し引いていた。美味しいからメニューにあるのに。
◇
その日の夜。泥のように眠ってしばらくした後、無事に再生が始まった。
だが、再生にも激しい痛みが伴う。折れた骨が内側から音を立てて繋がるたびに、俺はベッドの上で悶絶した。
◇
「あ、裕、無事に治ったねー!」
翌朝、アンナが顔を覗き込んできた。
「……ああ。夜中、治る時の痛みで目が覚めて、すっかり寝不足だわ」
「無事に治ったね。また採血させてくれ」
高槻に促され、俺はまた検査室へ向かう。
◇
「検査の結果だが、ナノマシンとの結合率が異常に高くなっていたよ。何か身体に変化はないかい?」
博士がデータを見つめながら問いかけてくる。
「そう言えば、勘が鋭くなったかもです」
「それは多分、死線を超えて現場に順応したからだね。他には?」
「うーん、身体能力が上がったかな、と」
「それは訓練の賜物だね。……他には?」
「わからないです」
「そうか。何か変化を感じたらすぐに教えてくれ」
結局、本気で心配しているわけじゃなく、俺を相変わらず実験動物にしか見てないんだな。
だから俺にトカゲ野郎って言われるんだよ




