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『銃声』

俺は残った対ナノマシン弾を、確実に、ひとりひとりにぶち込んでいった。


アサルトライフルを掃射してくる奴の胸に一発。

ショットガンを構えた奴の喉元に一発。

背中を見せて逃げ惑う奴の背後に一発。

次の獲物に照準を合わせ。


「これで4人目!」


カチッ。


弾切れだ。

俺はライフルを投げ捨てると、背負っていたショットガンを抜き放ち、もう一人のナノマシン兵の心臓を至近距離でぶち抜いた。


「アンナ! ナノマシン兵は全部片付けたよ!」

『裕! こっちにテロリストが……すぐ来て!』


「了解!」


無線の焦燥感に、俺の心臓が跳ねた。全速力でアンナのいる狙撃ポイントへと走る。


アンナの元に近づくと、そこではマフィアのボスが、文字通りテロリストを“引き裂いて”いた。


腕が飛び、脚が舞う。人間離れした膂力。

マフィアのボス側の戦況は、これで大丈夫そうだ。


だが、肝心のアンナは、生き残っていた一人のライフル持ちに追い詰められていた。


俺は走り込みながら、ショットガンでそいつの頭部を破壊した。

頭が半分吹き飛び、一度は倒れ込む敵。

だが、奴は首の肉を泡立たせながら、再び起き上がってきた。


(こいつもナノマシン兵か!)


俺がショットガンの次弾を装填しようとした、その一瞬。


敵のライフルが火を吹いた。


――ターーーンッ!


乾いた銃声と共に、アンナの身体が激しく弾かれた。


――倒れる前に一度俺を見た。まるで謝るかのように


「アンナぁぁぁ!!」


俺は雄叫びを上げ、敵にタックルをかまして押し倒した。

馬乗りになり、心臓目掛けて零距離から残りの散弾を全弾叩き込む。

肉片が飛び散り、今度こそ敵は沈黙した。


「アンナ! アンナ!」

俺は空のショットガンを捨て、駆け寄るとアンナの身体は激しく痙攣していた。


防弾ベストを貫通し、腹部を撃ち抜かれている。

対ナノマシン弾特有の、再生を阻害する黒い傷口。


「アンナ! 痛いけど、ごめんな……我慢しろよ!」


俺は震える手でナイフを抜き、彼女の銃創に突き立てた。

かつて葵が俺にしてくれたように、肉を抉り、中に潜んでいる対ナノマシン弾を無理やり掻き出す。


「……っ、ぁ、あぁあああ!!」

悲鳴を上げるアンナ。

カラン、と血に染まった弾丸が地面に落ちた。

これでいい。これで毒は消えた。

俺の時もこれで助かったんだ。

これで一安心――。


「……ごふっ!!」


だが、アンナはそのまま大量の鮮血を吐き出した。


「ごほっ! おえぇっ!」

アンナは再び大量の血を吐き出した。


「アンナ! アンナ!」


激しく肩を揺すったが、傷口が泡立つ気配はない。

再生が始まらない。


(どうすりゃいいんだ……俺の時は、弾さえ抜けば治ったじゃないか!)


俺より再生が弱いからか?


大量の返り血を浴びたボスが、戦火を割って駆け寄ってきた。

「どうした!? 対ナノマシン弾か!?」

「おかしいんだ! 弾を抜いても再生しない!」


「……チッ、内臓の損傷が酷すぎるか。馴染みの闇医者を紹介する。すぐ近くだ! おい、案内してやれ!」


ボスは手近な部下を呼び寄せ、顎で指示を出した。


俺はアンナを背負い、マフィアの部下の案内で走り出した。


「アンナ! 助かるからな! しっかりしろ!」

「裕……寒い……っ」


「怪我治ったら温かい物食べよう。な?」

「うん……痛いよぉ……」


背中越しに感じるアンナの身体は、驚くほど軽かった。

こんな小さな少女に、俺はずっと背中を預けていたのか……。

頼りきっていた自分が情けなくて、視界が滲む。


アンナの痙攣が強くなり、不意に温かい感触が俺の腰辺りに広がった――失禁だ。


「ごめんね……汚しちゃった……」

「大丈夫だよ! こんなもん、なんでもねぇよ!」


「裕ぁ……死んじゃったら……ごめんね……」

「許さん! ……絶対に許さん……!」


走りながら泣いていた。


「眠い……」

「絶対寝るな! 起きてろ! 俺を見ろ、アンナ!」


辿り着いたのは、何の変哲もない雑居ビルの地下だった。


重い防音扉を開けると、そこには外の喧騒からは想像もつかない、最新鋭の医療設備が整った施設が広がっていた。


奥から、白衣を着た初老の男が姿を現す。


「対ナノマシン弾だな?」

「先生! 助けてください、お願いします!」


「高いぞ? 払えるか?」

「払います! 一生かかってでも、臓器を売ってでも払います! だから、アンナを……!」


男は俺の血走った眼を見て、短く鼻を鳴らした。


「……わかった。外に出ていろ。ここからは私の仕事だ」


俺は無理やり手術室から押し出された。


扉が閉まった瞬間、――地上から凄まじい爆音が響いた。


何かがおかしい。

俺は本能的な恐怖に突き動かされ、地上へと続く階段を駆け上がった。

ビルの入り口。

瓦礫の山となった路地の中心に、奴はいた。


片手で重厚な迫撃砲を構え、無表情にこちらを見下ろす大男。


見た瞬間、俺は息ができなかった。


ワン……っ!」


中国最強の殺し屋が、絶望を連れてそこに立っていた。

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