疑問編 1
とりあえず、場所を勝手に借りた謝罪とお礼から。これは社会人としての礼儀でしょう。
「あの、すみませんでした。ちょっと休みたくて入らせていただきました。場所をお借りしてごめんなさい。ありがとうございました。では、失礼します。」
一息に言い切って、ぺこりと頭を下げて足速に立ち去ろうとする。けっこう全力で。私が逃げるようにスッタスッタと競歩なみに歩くのを見て、黒チーター君も私の後に続こうとする。が。
「いや、疲れているんでしょう?もうちょっと休んでいかない?」
黒チーター君の後ろ足を両手で掴んだ女の人。
「ワウ!?なっ!はっ離して!」
黒チーター君が焦った声を上げる。振り払おうともがくが一様女の人だし、危害も加えられていないせいか強く出られない。
「いや〜、肝試しじゃないみたいだし〜。珍しいお客さんだし〜。綺麗な銀色の髪に赤い瞳の子供なんて珍しいし〜?チーターの黒一色って言うのも珍しいし〜?チョピリ見せて欲しい〜!お願いぃ〜。」
黒チーター君の後ろ足に全身の力を込めるように張り付く。…黒チーター君のお尻にチューしそうな勢いだ。…黒チーター君がお尻にチューに赤くなったり青くなったりしている。…毛皮だから顔色わからないが。表情がそんな感じ。
「あー、ご飯あるよ〜!お腹空いてない?肉でも魚でも焼くよ〜!量はあるから気にしないで食べていいからね〜!」
黒チーター君の後ろ足のもがきが止まり、恐る恐る振り返る。黒チーター君のお腹からは、ギュルギュル楽器のように泣き喚く。…そうだよね。普通お腹空くよね。…私はちょこちょこ飲ませてもらったから忘れてた。あれ?黒チーター君、出会ってから何か食べていたかな?…うん、記憶にございませんな。
「うんうん!成長期だもんね〜!食べないと大きくなれないぞ〜。やっぱ肉?肉だよね〜!」
女の人の誘惑の言葉に、黒チーター君の腹の虫がグゥーと返事をする。口は離してと言う割に身体は正直者ですな。…私は、なんだか関わらない方がいいと警鐘を鳴らす本能に従いたいが、黒チーター君を置いていくわけにはいきません。
「あの、すみません。」
「何〜?」
「食事、おいくらですか?」
もらってきたコートに入っていたお金がある。世の中、タダより怖いものは無い。この女の人のキラキラ…ギラギラした目が、何を要求されるか分からなくて怯える。
値段を聞いた私に、にんまりと口角を上げたチェシャ猫みたいに笑う女の人。
「子供が遠慮なんてしなくていいよぅ。食べていって欲しい〜!」
…うっわ。うさんくさい。下心が透けて見える。
けど、黒チーター君の腹の虫が断る事を躊躇させる。…大音量で鳴いているので。黒チーター君は、強がって大丈夫だからと見え見えの嘘をつく。…それが余計にいたたまれない。
「…ご馳走になりたいです。」
私が消え入りそうな声で言うと。
「いっぱい食べて元気になってね〜。」
…いや、悪巧みしてます顔と優しいセリフがあってませんよ。…なんか、蜘蛛の糸に引っかかってしまったような気がする。
そこはかとない不安がよぎった私。
嬉々として、洞窟の奥に行く背中をながめた。




