復讐編 6
埋まっている男の前に立つ。土に埋められ、掘り出されてまた埋められた男。今日は、雨が降っていたから水で洗われるかなと期待をしていたが、水を吸った土が跳ねたのか顔と髪の毛にまで泥が。ドロドロのぐっちゃぐちゃ。…吸血鬼的に脅しとこうかなと思ったが、しかし。
ここで吸わなきゃこれから先、血にお目にかかれる頻度は確実に減るだろうからちょっと汚くても我慢して栄養補給しておこうかな。
って思いましたが、泥と汗と鼻水と涙の組み合わせは、生理的に無理でした。完敗。
仕方がないので、私は、片手をにぎりました。
爪が、皮膚に刺さり、血が、手の平にたまる。
その血を男の頬にぬる。
私の血が、男の首筋を流れていく。生ぬるい血が滴り落ちる感覚に、男は息も忘れたように固まっていた。
顔を近づけて、目を覗きこむ。茶色の目には、私の紅い目が映る。
血だらけの指先を開き切ったまぶたにのせる。皮膚をつらぬいた爪先から血が流れる。その血は、まぶたから、眼球へ。
血が目を通って、涙のように頬を伝う。それでも男はまばたきもせずに、私を見つめ続ける。まるで魅入られたように。声を潜めてささやく。
「その血は、お前を見ている。」
「お前が、私に害をなそうとした時、私の血は毒となり、お前の顔半分を焼くだろう。」
「血は、洗い流そうが消える事は無い。お前が生きている限り永遠に続く、呪い。」
優しく頬を撫でながら、微笑む。言葉とは正反対に、慈愛を込めて。
血の入った目をまぶたの上から、そっとたどる。
「この目、私の血が入ったな。」
涙のように流れた血をこする。私の血を頬から耳まで伸ばした。耳を柔らかく血だらけの手の平で、包む。
「この耳も、私の血が入ったな。」
クスクスと笑う。
「どうなるかは、お楽しみだよ。」
男から、手を離す。男は、ただ、私を見つめ続ける。
縛られていた男も、呆然と私と幼馴染のやりとりを見つめていた。
縛られた男に、目線をやるとビクリと身体を震わせたものの、金縛りでもあったかのように動かない。
「かがんで?」
私の命令に逆らえないのか、それとも、この異様な空気に飲まれたのか、縛られた男は、片膝をついてかがむ。
私の血だらけの手が、男の首筋に触れる。私の噛んだ穴が、くっきりと残っている。
「お前も、同じ。私の血が、入っている。」
「どこから、破れるんだろうな。」
穴を指先でくすぐる。身体の震えは大きくなるのに、私の手から逃げようとしない。
その従順さを褒めるように、獲物に笑いかけた。
喰うのは、こちらだと、知らしめるように。




