逃亡編 間話
どうして、俺たちが森を追われなければならない。俺たちは、何もしていないのに。
ずっと、悔しさが消えない。あんな奴らを俺は仲間だって認めない。
「あなたが悪いわけじゃないわ。あなたは被害者なのだから。」
母さんはそう言って俺を抱きしめてくれた。優しく触れてくれた。父さんはくしゃくしゃと頭を撫でてくれた。元々無口な父さんだけど、大丈夫だと力強く言ってくれた言葉にどれほど励まされたか。
住み慣れた家を出て、人の多く暮らす町に初めてきた。いつも、人の町に行ける獣人は決まっていて、その獣人から甘いものとかお酒とか珍しいものとかを買っていた。
俺も行ってみたいと言ったら、変な帽子をかぶって変な色眼鏡をして人の町に行ってきたばかりの獣人は、俺の頭をデコピンしてきた。…めっちゃ痛かった。涙目になった俺を見て、このぐらいの痛みに慣れたら連れて行ってやると言われた。
あれは、危険だと教えてくれていたのかな。
今、その言葉を思い出している。知らなかった。人が俺たちの毛皮を欲しがるだなんて。変な帽子も色眼鏡も人の目を避けるためだったなんて。
何も知らなかった。だから、宿で人に話しかけれて帽子を取ってしまった。母さんも父さんも危険があるとは教えてくれていたのに。
こんな事になるなんて、思いもしなかった。
他の森に行く途中に、人の宿に入った。母さんの具合が悪くなって休ませるために。宿というものが初めてだし、村に宿なんて無かったし、こんなにたくさんの人とお酒と人が吸う煙の匂いに、クラクラした。
父さんは母さんを休ませるために、すぐにお金をカウンターに置いて部屋に入った。食事を運んでもらえるか聞いてきてくれと言われて、すぐに階段を駆け降りた。
宿のおばちゃんは、優しくてすぐにスープとパンを持たせてくれた。母さんに持って行くとうれしそうに笑ってくれて、父さんも安心したように俺の頭を撫でてくれた。
本当に安心したんだ。大丈夫だと。
俺の腹が、グゥと鳴って母さんがクスクスと笑って父さんが俺の手にお金を渡してくれて下で食べておいでとうながしてくれた。
温かいスープと肉を食べていたら、男の人たちが坊主どっから来たとか、いっぱい食えよとか言ってきて、坊主もジュースを飲むかといわれておごりだぞと言われて飲んだら、なんか気持ちよくなってしまってグラグラした。
帽子を取られてしまった。俺は耳もしっぽも上手く隠せなかったのに。見られてしまった。
それが、すべてを壊す事になるなんて思いもしなかった。
悪意がこんなに近くにあったなんて思いもしなかった。




