逃亡編 17
黒チーター君は、視野が狭いらしい。悪い事をしている者を悪いと言えるのは、自分が強いと思っている者だけ。暴力の前には言葉など伝わりはしないのだ、言葉をどれだけつくしても、言葉自体を理解しようとしない者には何も届かない。
そして、木の人はあきらめてしまった。
「黒チーター君。君の仲間を傷つけた人たちは、木の人の話を聞いて、傷つけてごめんなさいと言うような人たちに思えるのか?」
「なっ!でも!やめろって一言ぐらい言ってくれれば、ちょっとでも気がそれて逃げられたかもしれないじゃないか!…見てたんだったら…なんで。」
悔しいとやるせないと前足で土をかく。
「だから、できないんだ。」
木の人たちには、一言すら話せない。
「なんで!!」
だってねぇ。
「逃げられないんだよ。ここに立つ木は一歩だって動けない。それで言葉を発すればどうなるのかは一目瞭然だろう?…たぶん君の仲間が痛めつけられていたのは、夜だ。この男のようにライトを持ち、複数人でいたはず。木がいきなりそんな事はやめろと言ったところで聞き入れはしない。」
わかっているのだろう。いまさら何を責めても時間は戻りはしない。それでも誰かに八つ当たりしたくてたまらない。
「ランプを持っていたという事は、この木の人に火をつける事など簡単にできる。」
複数人である事も気を大きくさせた要因だろうけど。生き物を傷つける事は、本能的に興奮してしまう。自分たちが一番に強くなった錯覚を起こす。
そんな中で、やめなさいと声をかけれは、簡単に逆上して木に火をつけるだろう。逃げられない木の人は燃え尽きて死ぬだけ。もしかしたら周りの木さえ巻き込んで。…それは、自殺行為に値する。
見ているしかできない。そういう苦しみもある。
牙をカチカチと鳴らして何か反論をしたい、けどできない。前足はやるせなさを表すように土をかく。
「君は、仲間から逃げろと言われたんだろう?」
静かに、聞く。たぶん仲間たちは、幼い子供を最優先で助けようとした。すぐに迎えに行くとでも説得して。
だけど、誰一人として迎えに来なかった。
黒チーター君は、逃げた事を悔やみ、なんでと嘆き、呼ぶ声は消えていく。それでも、腹は空き、眠れずにさまよう。
仲間を見捨てた自分が、許せない。
そこに、仲間が傷つけられる現場を見ていただけの人が現れる。…苦しみを悔しさをぶつけたくなる。八つ当たりだとわかっていても。
でも、私は止める。そんな事をしても、どちらも息ができなくなるだけだから。
「ねぇ、八つ当たりはやめて、本当の復讐を始めよう?協力するよ。」
私に目的地などない。ただ、悪魔として殺されたくないだけ。ここで見過ごすのは後味が悪い。
前世から、私の信条は、やられたらやり返すだから。にっこり笑うと、黒チーター君も木の人も毒草でも飲んでしまったような顔をした。
君たち、失敬だな。こんなにかわいい幼女に対して。




