逃亡編 16
木の人(仮)が顔が見えないくらい高い所まで上がって下がる。下がって私たちの視線が一直線に向いていると分かるとあわわわ〜と言葉にならない声を発してまた上に上がってしまう。…それを三回。
…ここまで待ったが、面倒くさくなってきた。
「えーどうして埋めてはいけないのか教えていただけますか?」
はっきり言ってここで処分したいのだが。
「あの!あの!私たちの根の近くに埋められると僕たちの栄養になってしまうのです!こんな腐った毒みたいなのを埋められたら、こちらにも影響が出てしまうのです!」
…恥ずかしがり屋で内気さんの割に口悪いな。
「あの!あの!申し訳ありませんが、焼却処分などしてはいただけませんか?骨だけならなんとかなりますので!こんな腐ったのが土の中でも腐るなんてぇ、耐えられません!」
ちゃんと中身も外側も見ているわぁ。木にさえ嫌がられる人なんて…やばいんじゃない。
よく見ている。ここにいる。…もしかしたら。
「ねぇ。あなたは、ここに立っていたんだよね。…もしかして見てた?」
何をと言う前に、木であるはずの顔が分かりやすく苦痛に歪む。
「見たんだ。黒チーター君の仲間がやられているところを。」
黒チーター君が、視線を鋭くして木の人をにらむ。
「…はい。」
申し訳なさそうに木の皮のまぶたをふせる。よかった。目撃者発見。これで裏付けが取れる。
…男たちでは信用できないから。うんうんとうなずいていると黒チーター君が木の人に吠えかかった。…えっなんで?
「見てたのか!なんで。なんで!助けてくれなかった!見てただけなんて…そんなの!」
憤りが身体から溢れて止まらない。前足の爪が土にめり込んで今にも木の人に飛びかかりそう。
…いやいや、それはいけない。
「落ち着いて。」
「はあ!?なんで、だってそんなの卑怯だろ!」
この子は何にも見ていないんだな。当たり前の事じゃないか。
危険を避けることも、声をあげてやめなさいと言えない事も。自分を守るためなら仕方がない。
どれだけ助けて欲しいと思っても、ヒーローは都合良くやってこない。
前世の私たちもそうだった。だから、自分たちで原因を排除したのだ。
結局、自分の事を救うのは自分だけ。ヒーローを探しているだけ無駄なのだ。
この木の人も、自分に降りかかる火の粉をはらっただけ。怒るのはお門違いなのに。
はぁ。目の前しか見ていない子供をどうやって黙らせようかと、長く息を吐いた。




