逃亡編 15
生き物を殺す事を躊躇する。それは、殺した事がない者の甘えだと思う。
生き物は、生き物を殺しながら生きていくのだから。黒チーター君は、仲間を自分の毛皮をはごうとした男を許さない。怒りと憎しみで目がにごっても、自分の行動は正当防衛だと考えている。
自分と仲間を守るために、危険なものは、処分しなきゃいけないと。
私も同類だから。
生き埋めにされた男の痙攣が土を通して伝わってくる。…気がする。
ジッと見つめていた。
「……あ、あの。ごめんなさい。」
上から声が聞こえて、息を止めた。誰だと考えるよりも先に振り返りナイフをかまえた。
…暗闇の中に木々が静かにたたずんている。にらみつけるように周りを見渡す。…油断はしていなかったはず。生き物たちの気配は感じていたが、ここまで声が届くほど側にいた事に気づかないなんて。唇を噛む。鋭い牙はすぐに肉を傷つけて血があふれる。自分の血を舐めて冷静を取り戻す。
「誰?」
短く鋭く返答を待つ。動きあるものの一欠片でも逃さぬように。
「…すみません。あ、あの。ごめんなさい。でも、あの、こ、ここに、埋めないでもらえませんでしょうか⁈ごめんなさい!」
木がざわついているような二重に三重にも聞こえてくる声。聞き取りにくいが聞き取れなくもない。
…この声は、木の上から?
木の上を見上げて、目をすがめてにらむ。
「ひっ!あの、あの!ごめんなさい!」
怯えた事がはっきりと分かる。だが、見つけられない私に相手を気遣う余裕などない。どこだ。目を見開き確認を急ぐ。
いた。…でも、箱入り娘ならぬコンクリート娘の私がはじめて会う。
木の中に、口が、ある。つぶらな瞳がある。少し尖った鼻がある。木が、困っている。いや、泣きそう。うるうるしている。
木が生きて、人を埋めないでと懇願している。
…あー、あったま、痛くなってきた。頭を抱えてしゃがみこむ。獣人に木人もいるのか?…いましたね。現実逃避したいけど、したところで現実は待ってはくれない。飲み込むしか方法などありはしない。飲み込めないけど飲むしかない。ビールよこして。…腹をくくる。
「あーと、木…さん、人を埋めないでとは、どうゆう事でしょう?」
とりあえず、立ち上がり顔らしきものを見上げる。見つめているのと、茶色の顔が赤くなってきて、顔らしきものがどんどんと上の方に向かって私から離れていく。枝が顔を隠すようにしなりガサガサと音を立てた。…この木さん。恥ずかしがり屋さん。そして内気さんか?
黒チーター君も男の頭を踏みながら、ジッとこっちを見つめている。それに気づいてもっと上がっていく顔。
どこまで上がっていくのか。好奇心は留まる事を知らずにジッと見つめてしまう。
その視線が強くなるほどに、上がっていく顔。初対面にて止める方法はなく、とりあえずわめく男の口と鼻だけ土の中から発掘して恥ずかしがり屋さんが話出すのを待っていた。




