逃亡編 12
私は、ピュイと口笛を鳴らす。これは合図。口笛のような高い音は森の中でもよく通る。
黒チーター君が足音もなく私の元に戻る。すりっと足に…いや、腹に頭をこすりつける。…ちっちゃい身体がちょっぴり悲しい。
ナイフを揺らしているわけでもないのに、突きつけた男の首の皮膚から血が滴る。…男が震えているのだ。だからといって離してやるほどお人好しではない。
「ねぇ、これは正当防衛だよね?」
震える喉と血に目を奪われながら男に問いかける。ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。…あぁ、血のにおいは香ばしく甘い。黒チーター君の血を飲んだはずなのに、においを嗅いでしまうと胃が縮んで収縮する。…条件反射なのかも。
「…正当?なんの話だ?」
冷や汗をかく男は、恐怖しながらもナイフを少しでもそらしたいのか話にのってきた。
「この子を殺しにきたのでしょう?」
黒チーター君の頭を撫でながら、首を傾げる。
「っいや、そんな事をするつもりは!」
さっきまで話していたのに、シラを切る。その瞬間に私は男に噛みついていた。
ぐちゃりと皮膚の切れる音がする。私の手からナイフが落ちる。傷口を牙で広げると男の身体はビクッと痙攣して、私を突き放そうとしたが、私が喰らう方が早い。男の腕から、徐々に力が抜けていく。
黒チーター君が、背中を引っ掻く。背中にかかる爪の感覚に慌てて口を離した。…やばい。死んでないよね。まだ、話を聞きたかったのにイラついたのと血のにおいで理性がきかなかった。
馬乗りになっていた身体を起こし、完全に脱力した男の手首をとって脈を確かめる。…よかった。生きてた。…あと、黒チーター君の方を恐る恐る振り返ると、獣姿でも分かるぐらいドン引きしていた。…やっばい。
「…あー、落とし穴に落とした方も見てこようか?逃げられてたら面倒だし…ね。」
正当防衛とはいえいきなりむさぼったのはよくなかった。反省。…両親と同じ人種みたいに思えてつい。
こいつらから話を聞いたら。両親と同じ人種だったら。駆除しなきゃ。
だって、これからこんなのの餌食になる人や獣人が出たら大変だ。私たちみたいに苦しむ人なんて見たくない。
その前に駆除しなきゃいけない。
黒チーター君の仲間をぼろぼろに痛めつけた奴の情報を聞き出す。そして。
からめとって動けなくして、駆除しなきゃ。
人の皮をかぶった害虫を。一匹残らず。
黒チーター君の闇の中でも美しく光る毛並みを眺めながら、どう駆除しようかと考えていた。




