逃亡編 8
あれ、待って。獣人の男の子をお姫様抱っこして運ぶ、幼い女の子。…絵面がおかしくない?
ふと、立ち止まる。このまま、この獣人の男の子の親御さんにあったら、どう思われるか。
ありがとうと感謝される?いやいや。私の身体は認めたくないが、小さい。この獣人の男の子の半分くらいの身長しかない。そんな子がお姫様抱っこで届けるなんて、不信感しかうまないでしょ。私だったら、警戒心MAXだな。
…よし、ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄る男の子を正気に戻そう。酔っ払っているみたいだが、私の血を舐めたせいではない…はず。だって、血を吸うだけでもやばいのに、私の血に酒成分が含まれている…。うん。やばい。
人間じゃあないのは、まぁ、仕方がないかな〜なんて思ってしまったが、悪魔一直線じゃないか。
頭を抱えるのは一瞬で、生まれてきたからしょうがないと開き直る。生まれたのは、私のせいじゃないし、生まれてきた時からの食生活なんて変えようがないし。…親みたいなのが出てきたら殴りたい気持ちでいっぱいだが。
よし、兄さんにやっていた起こし方をやってみよー。兄さんはこれで朝から笑顔で起きてくれた。
お姫様抱っこのままではやりづらいので、木に酔っ払ってくにゃくにゃの身体を立てかける。
触ろうと手をわきわきさせて、ふと我に返る。…セクハラじゃね?脇腹をくすぐろうとした手が止まる。裸を余す所なく見てしまったが、あれは不可抗力であったし、お姫様抱っこは運ぶための手段だった。
意図して、触れるのは、セクハラじゃね?
人としての倫理観に縛られて、動けない私。
後ろから、カサっと音がした。かすかで、それでも私の耳にはっきりと聞こえた。
とっさに、木の後ろに隠れる。そうだった。私逃走中。いつ悪魔狩りにあうか分からない身の上。黒チーターと戯れている場合じゃあなかった。
体勢を低くして、足を開き、いつでも走り出せるように、紅い目を凝らす。夜行性の生き物は、私だけではない。音を殺して背後を取る事を簡単にできる生き物もいる。
私は、緊張で荒くなる呼吸を長く静かにする。足の先まで神経を行き渡らせて、音を封じる。
敵を、排除する。夜の闇の中は、私にとって昼間。木の後ろから大きく目を開き、見定める。
カサ…カサと静かにでも確実に近づいてきている足音に、ナイフを軽く握った。
余計な力は、動きを阻害することを、私は前世から知っていた。




