第7話 業務連絡は夢枕で伝えます
ある日、ツキノがピットのもとへ相談にやってきた。
「ねえピット、ちょっと聞いてほしいんだけど……」
どうやら最近、ツキノが花畑に行くと、なぜか虫たちが彼女に寄ってくるらしい。
「虫が寄ってくるって、どういう事?」
「うん、 特定の子だけ、私に寄ってくるの!」
そう言って2羽は花畑へ向かった。
すると、花の影から一匹のカマキリがひょいと現れ、ツキノの腕に止まった。
「見たでしょピット! ほら、この子だけ、いつも私の手に来るんだ!」
ふうん、とピットが興味深そうに覗き込むと、カマキリも同じように首を傾げ、じっとピットを見返した。
その瞬間――俺の視界にアイコンが点滅した。
【ラビット・ピットにカマキリの進化が可能です。行ないますか?】
「……きたか」
迷わず“Yes”を選択。
カマキリの体が光に包まれ、みるみるうちに巨大化していく。
光が収まったとき、そこに立っていたのは――身の丈一六〇センチを超える、大カマキリだった。
「アリガトウ……アリガトウ……」
カマキリは繰り返し礼を言いながら、長い鎌を胸の前で合わせて頭を下げた。
その声はぎこちないが、確かな感情を帯びていた。
どうやらこの個体には名前をつけられないようだ。
――おそらく、虫種は名前指定ができないのだろう。
「今後ハ、皆様ノ、オ手伝イヲ、ヤラセテ頂キマス!」
大カマキリは嬉しそうに、ツキノとピットに向かって深々とお辞儀をした。
「なるほど、……昆虫も進化させて信仰対象にすることができるのか!」
俺は思わずにやけた。
これなら、ラビット族以外の進化も積極的に狙える。
その夜。
ピットが眠りについた頃を見計らい、俺は“夢枕”のスキルを発動した。
【夢枕/10P/1分】
呼びかけた相手の夢に姿を投影し、直接会話が可能。
「……あー、あー、ラビット・ピット、聞こえますかー?」
淡い光の中で呼びかけると、ピットが夢の中で目を開けた。
「うーん……誰か呼んだ?」
「この声は……ま、まさか!」
「……すみません、どちら様ですか?」
……ちょっとこけそうになった。
だが、気を取り直して名乗る。
「私はお前たちを進化させた者――お前たちの“神”である」
言ってみて、自分でもちょっと恥ずかしかった。
けれど、ピットは純粋な瞳で俺を見上げ、深々と頭を下げた。
「神様……! あの時は助けていただいて、本当にありがとうございました!
こんな素晴らしい体を与えてもらえて、感謝しかありません!」
……まっすぐすぎて眩しい。
「よいか、ラビット・ピット。これからお前に“使命”を与える」
「使命……?」
「うむ。これからは仲間を増やしていけ。
仲間が増えれば、お前たちを襲う敵も減り、より豊かに暮らせるようになる。
今日ツキノのもとに現れたカマキリのように、お前たちに興味を持つ生き物が必ず現れるだろう。
出会いを恐れるな。彼らはやがて、お前たちの“仲間”になる。」
ピットはしばらく口をぽかんと開けたまま、何度か瞬きをしたあと――
「わかりました、神様! 僕、いっぱい仲間を見つけます!」
まっすぐな返事。
勢いに少し圧されながらも、俺は頷いた。
「うむ、頼んだぞピット。
――ワシは、いつでもお前の“背後”で見守っているからな」
うん、背後霊だけにな。嘘は言っていない。
そう言い残し、俺は夢枕の光をゆっくりと閉じた。




