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部屋探し

2月終わりに、私立大学への入学が決まり、わたしは部屋を探しはじめた。部屋探しは初めてだったので、何を基準にすればいいのか検討もつかず、住宅情報誌なんかをぱらぱらめくってみたり、ネットで見てみたりもしたのだが、結局適当に不動産屋に飛び込んだのだった。

もちろん、そんなところに入るのも初めてで、どうしていいかわからない。とりあえず、中に張ってある、いろんな間取り図を眺めていた。

「お部屋をお探しですか?」

声がしたほうに振り向くと、24~5歳ぐらいのきれいな女の人が微笑んでいた。

「春から一人暮らしをはじめる予定なんです。こういうのはじめてで見ててもよくわからないんですけど。」

「学生さんですよね?どちらの大学ですか?お部屋のイメージを言っていただければこちらでいくつか間取りを出しますよ。」

学校名を告げ、自分のイメージを伝えると、お座りになって少しお待ちいただけますかと言われた。カウンターに座り、申込書のような用紙に、名前や連絡先を書いていると、さっきの女の人が戻ってきた。

「桑原です。よろしくお願いいたします。」

名刺には「桑原 恵」とあった。そして彼女は5~6枚ほど物件の資料を並べた。

「お客様の条件にあったものを何件がピックアップしてみたんですけど。どれか気になるものとかあったら、今からでも実際にごらんいただけますように、手配しますよ。」

家賃も内装も設備もだいたい似たような物件がそろっていた。

「家賃は安ければ安いだけ助かるんですけど。あと、写真じゃわからないことで、どうしてもゆずれないことがあるんですけど。」

これを言うのはためらわれたのだが、でもこれを解決しておかないと、毎日苦しまなくてはいけないことになるかもしれない。

「住むところですから、妥協しないようにしてくださいね。こだわりがあるなら、おっしゃっていただければ探しますよ。」

わたしは一呼吸おいてから、少し声を落として言った。

「あの、おとなりが男の人だと困るんです。」

桑原さんはちょっと意味がわからないような顔をしてわたしを見た。やっぱり変だと思われてるんだ。

「あ、ごめんなさい。今言ったことは気にしないでください。あの、こことか連れてってもらえますか?」

わたしは、目の前に並んでいた物件の1つを指差して言った。

彼女は、取り乱しているわたしを少し見つめて、こう言い放った。

「わたしは、これからほかのお客様のお約束があるので、ご案内することができないのですが、近野という男性スタッフがおりますので、そちらにご案内させますがよろしいですか?」

「え?」

「あちらのものに案内させますが。」

桑原さんが示したところにいたのは、30歳ぐらいの男の人だった。わたしが変だから、案内するのは嫌になったの?でも、そんなの困る。

「あの、他の女の人はいないんですか?」男の人と部屋の中に2人で入るなんていやだ。

「申し訳ありません。他の者は今出払っていますので。」

「・・・やめて」わたしの正常な思考はここで止まった。

「えっ?どうしました?」

「男の人と二人きりで部屋に入れるわけないじゃない!冗談やめてよ!なんで、みんな、わたしにそんなことするのよ!」

わたしは、ほとんど叫んでいたようだ。そして、カウンターの上にあった書類やなんかをぐちゃぐちゃにしてしまうと、不動産屋を飛び出し、目的もなく走り出した。

気がつくと、わたしは不動産屋からかなり離れたところでしゃがみこんでいた。また、こんなことをしてしまった。いつもそうなのだ。自分ではこんなことはするつもりではないのに、気が付いたときにはもう、相手がわたしを見る目は変わってしまっていた。

桑原さんを嫌な気分にさせてしまったかもしれないなと後悔した。

だが、そうではなかったのである。


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