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夢見る暗殺者  作者: 瀬戸 生駒
夢見る暗殺者
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第7話

 立ち並ぶ電柱に、道をまたぐようにピアノ線を張る。

 高さは1メートル30センチくらい。

 時刻は夜の十一時を回って、人通りも車もまばらだ。

 万が一、車や人が来たら、こちらがわの電柱の足場に引っかけているリングを外せば、ピアノ線は道にたれて、何事もなく通り過ぎるだろう。

「ターゲット」の家の明かりは、すでに落ちていた。


 吹きすさぶ晩秋の夜風に、今夜はポニーにまとめた髪の毛がなびく。

 足下からは、一足早い初冬の冷え込みが伝わってくる。

 ジーンズとスニーカーを履いているとはいえ、はっきり言って堪える。

 こんなのが何日も続いたら、マジで根性がくじけるかもしれない。


 ただ、状況と条件はそろっている。

 読み通り、ストレスの暴発だとしたら、今夜「実行」される可能性が高い。

 そう考えながらどれほど待っただろうか。

 その家のシャッターが開く音がしたのは。


 ほどなくして、スクーターのエンジン音が響いた。

 軽く2度3度空ぶかしをしてアイドリングを安定させたバイクのエンジン音が、ピッチを上げながら近づく。

 ターゲットの家から神戸に向かうには、つまり国道2号線に出るには、こちらの方向に向かうしかない。

 だから私はここにいる。

 そして。

 目の前の電柱に引っかけた、ピアノ線を繋いだリングがチリンと鳴った。


 とすり。


 スクーターからは、バスケットボールほどの物が落ちたが、気にするそぶりもなく私の前を通り過ぎていった。

 が、やがてにわかにバランスを崩すと、派手な音を立てて転倒した。

「ちっ」

 予想以上に距離がある。

 私は思わず舌打ちをして、足下に転がってきたバスケットボール大の物を一瞥する間も惜しんで駆けだした。

 与えられた時間は、近所の家の窓に明かりが灯れば黄色信号、それが消えれば赤信号だ。

 物音に驚き明かりをつけて外を見ようとすると、ガラスはマジックミラーのようになって、かえって外が見えない。

 それに気づいて明かりを消してもう一度外に目をやる前に、転倒現場に駆けつけ、用事を済まして離れれなければならない。

 さっきまで自分が立っていた場所には、フルフェイスのヘルメットが「中身」を詰めたまま転がっていた。


 私は全力疾走でバイクに駆け寄った。

 雨も降っていないのにレインウエアを羽織り、左肩にナイフのショルダーホルスター。

 ビンゴ!

 素早くそれを外し、ベージュのコートの下に隠す。

 先生の息子が連続通り魔なんて公になったら、彼の政治生命は終わりだし、私もコイツ同様クビがとぶ。

 そのまま物陰に身を潜め、自分の気配を消した。


 いくらもたたないうちに、寝間着にガウンを羽織っただけの住民が見物にきた。

「事故か?」とか言いながら覗きこんでいたが、ライダーの身体に首がないのに気づいて悲鳴が上がった。

 その悲鳴がさらに人を呼び、雑然とした騒ぎがあたりを満たす。

 私は、その野次馬に紛れ、少し時間をつぶして、現場を離れた。

 1本外れた道端に、愛車のミラジーノを駐めてある。

 シフトレバーがニュートラルに入っているのを手で確かめ、クラッチを踏みながらエンジンを起こす。

 愛車は六四馬力ターボとは思えない軽い音を立て、その場をあとにした。


 帰ったら、お風呂に入ろう。


 ジュニアの死は、センセーショナルにマスコミに取り上げられた。

 斉藤代議士の政治活動を恨んでのものか、あるいは暴走族に対する報復か、悪質ないたずらか。

 様々な憶測を呼び、代議士もマスコミに追われる日が続いた。

 通夜の夜は、さしもの代議士も消沈し、葬祭会場の受付に座る柚葉からも小さく見えたが、そこは政治家だ。

 初七日も空けぬうちに元気を取り戻し

「息子の死を無駄にしないためにも、犯罪のない街作りを誓います!」

 と、気勢を上げた。

 県警の本部長や所轄署の署長にも檄を飛ばし、強く暴走族撲滅を求めた。

 その映像はテレビなどを通して何度も繰り返し流され、代議士の知名度向上につながる。

 マスコミによる連日の報道と、一人息子を失ったことに対する同情票で、次の選挙は楽勝だろう。


 一方で、報われない人もいる。

 三宮署の「連続通り魔対策本部」は、このあとも半年ほど残され、まったく成果が出せないまま解散になった。

 釉葉達も、何とはなしに顔を出していたが、行くたびに並べられている机の数が減っているのがわかる。

 コーヒーのお礼でもないが、数回タコヤキを差し入れした。

 喜んでもらえただろうか?


 とばっちりと言えば……釉葉達は事務所総出で、スクラップブックの作成に泣かされた。

 マスコミに名前が売れただけ、新聞や雑誌に露出が増えた分だけ、事務所職員の仕事も激増する。

 釉葉は今朝も不機嫌に、新聞コピーにハサミを入れた。

誤字脱字のご指摘がございましたら、できるだけ慌てて直します。

それ以外にも、感想など賜れましたら喜びますので、お気軽にメッセ&レビューいただければ幸いです。

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