第6話
陳情をレポートにまとめ、市議や県議の担当ごとに割り振る。
国会議員といっても、スーパーマンでもなければ万能でもない。
県道整備なら県議に、ゴミ問題なら市議にやらさなければならない。
横車を押して彼らの職分を侵せば越権行為と反発され、スタンドプレーと罵られる。
目先の数票のために、彼らの持つ何百何千もの票を失う方がはるかに怖い。
むしろ、適当な人間に仕事を割り振り、現実に仕事をさせることこそ、代議士の仕事となる。
その仕事を受けた市議や県議はそれだけ予算を手にし、動員できる人数を増し、発言力を増す。
そうやって、協力的な市議や県議に力をつけさせることが、イコールで代議士の力を増すこととなる。
「まー。このへん、与党も野党も、結局は一緒なんよなー」
パソコンのキーボードを叩きながら、釉葉は誰ともなしに声に出した。
事件調査に名を借りた戸別訪問も一通り済ませたが、その間に積み上がった書類仕事は山ほどある。
釉葉が代議士の指示で外に出ているのなら、事務所に残っている誰かがやってくれてもよさそうだけれども、そういうのが期待できる事務所ではない。
陳情を整理して、それぞれの管轄が県か市か、そこから調べていかなければならない。
一覧表や早見表があれば早そうだけれども、境界線が重なっていたり逆に空白だったりするのが常なので、たぶん役に立たないだろう。
むしろ、重なっている部分の采配が代議士の力量だし、空白部分は代議士の専権事項だ。
斉藤代議士とジュニアは、彼の執務室で陳情に応えている。
今日来ているのは、どこかの開業医の院長先生らしいが、最高学歴の持ち主にしてはヒステリックな怒鳴り声が、薄い壁越しに響いている。
けど、どんな問題かは知らないが、法律を作ったのは与党の連中で、その苦情を持ち込まれても、野党系の斉藤代議士にはどうしようもない。
医者というか医学の専門バカは、法律には疎いのかもしれないけれど。
ただ、これで斉藤代議士の機嫌が悪くなったら、とばっちりを喰らうのは釉葉達職員だ。
三宮署にでも逃げようかな。
そう考えた釉葉が山下に目配せすると、山下も同じことを考えていたのか、コクリと頷いた。
「じゃあ、三宮署行ってきます」
事務局長にそう告げて立ち上がり、ショルダーバッグを引っかける。
「直帰?」
事務局長に尋ねられ、「や。定時前には戻ります」と応じる。
その頃には、斉藤代議士の「嵐」も過ぎ去っているだろう。
もちろん、三宮署に日参しているからといって、毎回新情報が得られるはずもない。
それでなくとも昨日の今日で、警部には睨まれているだろうし。
ただ、今回に限っては息抜きの意味合いが大きい。
帰ったら帰ったでデスクワークの山が残ったままだ。
もっとも、釉葉達にしても、黙って仕事をすること自体に抵抗はない。
的外れな陳情のとばっちりで、ピリピリした空気が充満した部屋にいたくないだけだから。
はたして、三宮署では何の収穫もなかった。
あえて言うなら、警部も昨日の態度が大人げなかったと思ったのか、少しフレンドリーになっていて、紙コップに入ったコーヒーをおごってくれた。
釉葉も、ひらめきというか思いつきというか、素人考えで
「バイクやったら、明石とかから『通勤』できるんちゃいますか?」
と口にしたところ、警部は顔をしかめて
「広域になったら、めんどくさいんや」
そうか。
警察といったら、議員以上に縄張り意識が強いんだった。
なまじ釉葉達が全くの部外者だからこそ、こうやって話してくれているのかもしれない。
ありがたい……でいいのかな?
釉葉は心の中で自問自答した。
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