第8話(第1章-完結/エピローグ)
週末の夜、私は久しぶりに芦屋の実家に戻った。
母は早くに他界して、父が一人で……といっても、昼間は留守番を兼ねた家政婦さんが来てくれているが、それなりに広い家で暮らしている。
私はリビングで父の向かいに座り、果物ナイフで柿の皮を剥いていた。
ナイフ根元のエッジを使ってヘタをとり、ナイフの真ん中あたりの刃を使って、親指を添えながら少しづつ柿を回す。
最後までちぎれずに剥けると気持ちがいい。
けれども、柿の真ん中を過ぎて実がすぼまり始めると、難易度が高くなる。
果たして柿の皮は、残り4分の1を残したあたりで皿の上に落ちてしまった。
「相変わらずトロイなぁ、釉葉は」
私の内心を見透かしたように、溜息交じりに父がつぶやいた。
「いうても、ちゃんと『仕事』はしとるで」
柿に目をやったまま、残った皮をそぎ落とす私を、父はにらみつけた。
一代で神戸市内に従業員5千人を超える会社を興し、そこに君臨するワンマン社長の目だ。
その眼光は、並の市長や代議士すら射竦める。
「そっちでもトロトロやって、二度手間になったんとちゃうんか?」
もっとも、私だって生まれたときから、この目とはつきあっている。
萎縮するはずもなく流して、柿の先っちょを切り飛ばした。
「けど、その『2回目』がなかったら、先生かて危なかったやん?結果オーライやん」
「まぁ、あのアホ息子のことは、プラマイゼロで大目に見るか……」
「やろ?」
皿の上に柿を置き、8つに切り分けた。
何のことはない。
斉藤代議士の有力な支援者……というか、もともと斉藤代議士が労組委員長を務めていたのが父の会社で、会社社長としては与党系の代議士を支援しつつ、野党系の斉藤代議士も抱えることで自分の影響力を高め、維持しようと。
そして、斉藤代議士が便乗した、対立陣営の後援会を揺さぶるプランをそもそも立案し、私に実行させたのが彼だ。
与党系代議士が強くなりすぎると、相対的にはなるけど、斉藤代議士だけではなく、父の影響力も低下する。
こういう「有力な支援者」がいるから、汚職疑惑の浮かんだ政治家秘書なんかが、秘密を抱えたまま「自殺」や「不慮の死」を遂げる。
それが、私たちのいる世界。
「裏」も「表」も。
「やったら約束通り、アメリカ西海岸で本場のネズミーランドな!」
そう言う私を一瞥し、父は爪楊枝を咥えながら
「ええとこ、グアムかサイパンやな」
「いややわ、そんなとこ!なんちゃ面白うないし」
「ええから行って、鉄砲の1つでも覚えてこい。
1年もアメリカにホームステイしといて、なに遊んでたんや」
と、言い放った。
いや。やって私、そんなんやりに行ったんちゃうし。
「西海岸はまだやけど、ロシアからイラク、パレスチナって世界一周なら旅費だしたるぞ」
このオヤジ、ヘタしたらマジやからなぁ。
「ほな、今回はUSJで辛抱するから、その分貯金して、ロマンチック街道な!」
「6回くらいのローンになるぞ」
そう言うと、2切れ目の柿を口に放り込んだ。
スイス銀行に何万ドルというのは、やっぱマンガの世界だけなんかなぁ。
--第1章・おわり--
ご愛読ありがとうございました。
「推理小説」を目指したんですがトリックを思いつかなかった上に「犯人」の人称代名詞ですぐバレるという致命的な欠陥に気がつきまして、ジャンルを変更しました(苦笑)
誤字脱字のご指摘がございましたら、できるだけ慌てて直します。
それ以外にも、感想など賜れましたら喜びますので、お気軽にメッセ&レビューいただければ幸いです。




