第2話:裏道のカフェと、恋する勇者様の攻略本
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本作は、ちょっとポンコツで可愛いツンデレ魔王様と、そんな彼女に恋をして手作りお菓子持参で攻め込む勇者様、そして周りの賑やかすぎる仲間たちが織りなす「勘違い&ラブコメファンタジー」です。
【登場人物】
・マオ(魔王): ぶどうジュースと甘いものが大好きなポンコツツンデレ魔王。
・ネコ(メイド): マオ様を温かく見守る(?)優秀な獣人族(猫)の専属メイド。
・ユウ(勇者): 敵である魔王に恋をして、剣を捨ててケーキを焼き始めた人間族の男。
・シェーフ(シェフ): 料理の味には一切妥協しないダンディーな魔族の総料理長。
・セイ(聖女): ユウを追いかけて魔王城の裏門を爆破する人間族の暴走幼馴染。
・ジィ(執事): 二人を引き離そうと裏で暗躍しては胃を痛める獣人族(狼)苦労人。
ほっこり笑えてキュンとするお茶会ストーリー、ぜひお楽しみください!
「……くそっ、今日もボロボロかよ」
魔族の街の片隅にある小さなカフェ。その一角で、男――光の勇者は重い溜め息をつきながら、傷だらけの身を起こした。
聖剣を引っ提げて魔王城に乗り込んでは、一撃で吹き飛ばされて泥にまみれる日々。
回復ポーションも底をつき、身も心もズタズタだ。普通ならとっくに折れているところだが、彼の胸の奥にはどうしても消えない不条理な高鳴りがあった。
(あいつ……魔王マオ。あの冷たくて美しい瞳で俺を見下ろすときの、あの雰囲気……。なんであんなに胸がざわつくんだ?)
ただ打ち負かすためだけに城へ向かっているはずなのに、ふとした瞬間に彼女の横顔が頭をよぎる。自分の感情の正体が分からないまま、勇者は冷え切った手に息を吹きかけた。
その時、カランコロンと涼やかな鈴の音が響き、カフェのドアが開いた。
「ふぅ、今日は私のお休みのシフト! たまには外でお茶タイムに限るわね〜」
入ってきたのは、見覚えのありすぎる人物だった。
白と黒のフリルドレスを身に纏い、背中には可愛らしい猫の尾をゆらゆらと揺らしている女性。
魔王城でマオ様の側近を務める専属メイド――ネコである。
彼女は非番らしく、リラックスした様子で注文を済ませると、あろうことかカフェの混雑のせいか、勇者のすぐ隣のテーブルへと腰掛けた。
(……おいおいおい! なんで魔王のメイドがこんなところに!?)
勇者は帽子を深々とかぶり直し、息を殺した。気付かれて一悶着起きるのはご免だ。
しかし、同時に彼の頭の中に下心が芽生える。
(まてよ……? こいつは魔王の側近中の側近だ。何か『攻略のヒント』や『弱点』を聞き出せるんじゃないか……?)
覚悟を決めた勇者は、バッと勢いよく頭を下げ、低くシリアスな声で隣のメイドに話しかけた。
「なあ……あのお方の倒し方を教えてくれ」
気迫を込めた一言。
だが、ネコは驚く様子もなく、紅茶のカップを優雅に傾けながらチラリと勇者を見やった。
「あら、傷だらけの勇者様じゃない。お休みの日くらい静かに過ごさせてほしいのだけど……まあいいわ。あのお方に『攻撃』するつもりなら、無駄だと思うけれど?」
「くっ……! どんな些細なことでもいい! あのお方にも弱点や隙はあるんだろ!?」
切実な瞳で迫る勇者に対し、ネコはいたずらっぽく口元を緩めた。
「弱点ねぇ……。そうね、あのお方はね、休日はお庭でお花を育てているのよ」
「……は?」
想定外すぎる単語に、勇者は素で間抜けた声を漏らした。
「ガーデニング……? 魔王が……?」
「そう。あとね、甘党だから甘いお菓子に目がなくて。それから、晩餐のハンバーグの横にあるピーマンが嫌いで、いつもこっそり皿の端っこに残すの」
「ぴ、ピーマン……!?」
勇者の頭の中で、黒いオーラを纏った恐ろしい魔王のイメージが、一瞬で『お花に水をやり、甘いお菓子で頬を緩め、ピーマンを嫌がって避ける女の子』へと書き換わっていく。
「あとね、雷が鳴るとすごく怖がって私の袖を掴んでくるし、城に迷い込んできた野良猫を見つけると、目尻を下げてデレデレに撫で回しているわ」
「な、何なんだその情報は……! 俺は弱点を聞いてるんだぞ!?」
「弱点でしょう? あのお方の可愛すぎる素顔という名の、絶対的な弱点よ」
くすくすとおかしくなさそうに笑うネコ。
勇者は言い返そうとしたが、喉の奥がカサカサに乾いて言葉が出なかった。
(な、なんだ……? 胸の奥が妙に熱い。怒りでも苛立ちでもない……この心臓のバクバクは……)
「趣味はガーデニング……甘党……ピーマンが嫌い……」
ボソボソと呟く勇者の顔が、見る見るうちにリンゴのように真っ赤になっていく。
倒すための情報を探っていたはずなのに、知れば知るほど、あのお方の素顔があまりにも愛おしく思えてしまう。
(認めない……認めるわけにいかない! 俺は世界を救う勇者だぞ!? あいつは敵で、憎むべき魔王なんだ! なのに……どうしてこんなに顔が浮かぶんだよ……!)
頭を抱えて赤面する勇者を見て、ネコは満足そうに顎に手を当てた。
「ねえ、勇者様。気づいてる?」
「な、なにがだよっ!」
「あなた、あのお方に恋してるわよ」
「――っ!~!?!?」
勇者は勢い余って椅子から転げ落ちそうになった。
「こ、恋ぃ!? そんなわけあるか! 俺とあいつは光と闇、敵同士だぞ! 剣を交える関係なんだ!」
「ふーん? でもその手、もう剣を握る手じゃなくて、花束やケーキを探そうとしてる手に見えるけど?」
ネコの指摘に、勇者はビクッと自分の力が入らなくなった手元を見つめた。
……否定できない。
「次は負けない」と意気込んで城に向かっていた足取りは、いつの間にか「あの素顔にまた会いたい」という衝動に変わっていたのだ。
「……あいつの笑顔が見たいなんて、俺は何を考えてるんだ……」
カフェのテーブルに突っ伏し、耳まで真っ赤にして絶望する勇者。
そんな彼を、ネコは温かい目で見下ろしながら、そっと一言付け加えた。
「次にお城へ来る時は、手作りのケーキか、とびきりの紅茶の葉でも持っていくといいわ。裏門の鍵、ちょっとだけ緩くしておいてあげるから」
「……え?」
「あのお方は寂しがり屋でもあるの。……まあ、お茶くらいなら付き合ってくれるんじゃないかしら」
ネコは楽しそうに笑うと、お会計を済ませて席を立った。
残された勇者は、しばらくボロボロの剣を見つめていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。
その瞳には、今までの『倒すための執念』ではなく、まったく別の『真っ直ぐな熱意』が宿っていた。
「……ケーキの作り方なんて、知らねえよ」
低く呟きながらも、勇者は街の製菓材料店へと足を進める。
剣を握る手が震えているのは、恐れでも武者震いでもない。
あいつの待つお城へ向かうための、跳ね上がるような胸の高鳴りのせいだった。
(認めないなんて言っていられない。……打ち負かされるためじゃない。あの素顔を、俺の目で確かめるために!)
恋する勇者の、迷いと情熱に満ちた新たな戦いが、今ここから始まろうとしていた。
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