第3話:裏門の秘密と、ダンディーなシェフの隠し味
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本作は、ちょっとポンコツで可愛いツンデレ魔王様と、そんな彼女に恋をして手作りお菓子持参で攻め込む勇者様、そして周りの賑やかすぎる仲間たちが織りなす「勘違い&ラブコメファンタジー」です。
【登場人物】
・マオ(魔王): ぶどうジュースと甘いものが大好きなポンコツツンデレ魔王。
・ネコ(メイド): マオ様を温かく見守る(?)優秀な獣人族(猫)の専属メイド。
・ユウ(勇者): 敵である魔王に恋をして、剣を捨ててケーキを焼き始めた人間族の男。
・シェーフ(シェフ): 料理の味には一切妥協しないダンディーな魔族の総料理長。
・セイ(聖女): ユウを追いかけて魔王城の裏門を爆破する人間族の暴走幼馴染。
・ジィ(執事): 二人を引き離そうと裏で暗躍しては胃を痛める獣人族(狼)苦労人。
ほっこり笑えてキュンとするお茶会ストーリー、ぜひお楽しみください!
「……よし、侵入成功だな」
月明かりが照らす夜更け。魔王城の裏門の前で、勇者は大きく息を吐き出した。
普段なら聖剣を振りかざして正門を派手に爆破するところだが、今の彼の両手には剣の代わりに、大事そうに抱えられた箱と小さな袋がある。中身は、街で必死にレシピを調べて焼き上げた「特製のイチゴタルト」と、極上の「高級紅茶の茶葉」だ。
「本当に鍵が緩んでやがる……あのメイド、嘘じゃなかったんだな」
ギギ……と静かに音を立てて開いた裏門を潜り抜け、勇者は気配を消して暗い廊下を進む。
目指すは、魔王マオ様が夜な夜なひと息ついているという「図書室のテラス」だ。
(世界を救う勇者が、裏門からケーキ持参で忍び込むなんて……プライドもへったくれもねえな)
苦笑しつつも、胸の鼓動は早まるばかりだった。あいつの驚く顔が見たい。あの冷酷な仮面の裏にある、甘いものが好きでピーマンが嫌いな「本当の素顔」をもっと知りたい。その一心で、足取りは自然と軽くなっていた。
だが、厨房の前を通りかかったその時だった。
「……そこの軟弱な男。立ち止まりな。」
暗闇から響いたのは、地獄の底から響くような重厚でダンディーな低い声だった。
「ひっ!?」
勇者が跳ね上がるように振り向くと、そこには白いコック帽をパリッと被り、渋いヒゲを蓄えた大柄な男――魔王城の総料理長が腕を組んで立っていた。
「ま、魔王城のシェフ……! 見つかったか……!」
勇者が身構えると、シェフは深く、深く溜め息をついた。
「また城門を直す羽目になるかと思えば、今度は裏口から忍び込みか。……やれやれ、メイドのネコから聞いてはいたが、本当に来るとはな」
「え……? ネコから……?」
「あのお方の胃袋を満たすのが私の使命。本来なら不法侵入者はその場で極上の肉の仕込み材料にするところだが……」
シェフは鋭い眼光で、勇者が抱えている箱を一瞥した。
「……ほう。甘い果実の香りと、バターの香ばしさ。素人にしては悪くない焼き上がりだな。だが、イチゴの酸味が少々勝ちすぎている」
「な、なんだと!?」
「甘党の我が君に捧げるなら、もう少しコクのあるカスタードで酸味を包み込むべきだ。……まあいい、これを付けていきなな。」
シェフはポイッと、小さな小瓶を勇者に投げ渡した。中にはトロリとした黄金色のシロップが入っている。
「南の島から届いた果実から作った、隠し味の特製ココナッツキャラメルソースだ。それをタルトに少し垂らしてみろ。……我が君の至福の笑顔が約束されるぞ」
「シェフ……あんた、敵の俺にそこまで……!?」
「勘違いするな。私はあのお方に『最高の晩餐』を届けるダンディーなシェフだ。誰が作ったものであれ、我が君が口にするものが妥当な味でなければ気が済まないだけだ」
シェフはフッとニヒルに微笑むと、背を向けた。
「さあ行きな。スープが冷めないうちに……いや、紅茶が冷めないうちにな」
「……感謝する、シェフ!」
◇
シェフの厨房を抜け出し、勇者はついに目的の図書室テラスへと続く重厚な扉の前に辿り着いた。
(いよいよだ……! いっせーのーで、でノックするぞ……)
緊張で手がガタガタと震える。聖剣を握って魔王と対峙した時よりも、はるかに心臓がうるさい。
覚悟を決め、勇者が手を伸ばしたその時――
「――門前払いでございます。」
冷ややかな声と共に、勇者の背後にすっと影が落ちた。
「うわああああっ!?」
振り向くと、そこには完璧な立ち姿で佇む、白髪混じりの老執事が立っていた。その瞳は氷のように冷たく、勇者を射抜いている。
「執事……様!?」
「いにしえより続くこの魔王城において、このようなナヨナヨとした人間ごときが我が主の元へ立ち入るなど、断じて許されません」
執事はすっと眼鏡のフチを上げ、不快そうに眉をひそめた。
「晩餐のピーマンを皿の端へ寄せるだけでも頭が痛いというのに、お茶を淹れてデレデレとするなど……魔王の誇りはいずこへ消えたのですか。ワタクシの胃袋が痛むばかりです」
「な、なんだお前! さっきから失礼だな!」
「一万年早いのでございます、軟弱者。そのままお引き取りください」
執事がパチンと指を鳴らそうとした、その時。
ガチャリ、と図書室の扉が内側から開いた。
「……騒々しいわね。夜更けに何をしているの、執事」
現れたのは、流れるような赤髪に漆黒のドレスを纏った魔王――マオ様だった。
「あっ……マオ様……!」
勇者の息が止まる。
月明かりに照らされた彼女の姿は相変わらず神聖で、息を呑むほど美しかった。
「魔王様、この愚かな勇者が裏門から不法侵入を……」
執事が冷ややかに報告しようとしたが、マオ様の瞳は、勇者が大事そうに抱えている箱と、そこから漂う甘い香りに釘付けになっていた。
「……それ、なぁに?」
「あ……いや! その……!」
勇者は真っ赤になりながら、差し出すように箱と袋を突き出した。
「お前が……甘いものが好きだって聞いたから! 手作りのイチゴタルトと、いい紅茶の葉を持ってきたんだ! ……一緒に、お茶してくれないか!?」
静寂が降り立った。
執事は「ハァ……情けない」と盛大に溜め息をつき、頭を抱えた。
マオ様は一瞬、ハッとしたように目を丸くした。そして、みるみるうちに耳の先まで真っ赤に染まっていく。
「な、ななな……何言ってるのよバカじゃないの!? 私を毒殺する気!? そうはいかないわよ!」
「毒なんて入ってねえよ! シェフにもチェックしてもらったんだから!」
「~っ! た、たかが人間の作ったお菓子ごときに、この私が揺らぐとでも……!」
強い口調で突っぱねようとするマオ様。しかし、彼女のお腹が『ぐぅ~……』と可愛らしい音を鳴らしてしまった。
「……っ!~!?!?」
マオ様は顔を両手で覆い、その場にうずくまりそうになった。
それを見かねたように、廊下の陰からメイドのネコがひょっこりと顔を出した。
「マオ様〜、せっかくの差し入れですし、毒味も兼ねてテラスでお茶にしましょう? 私がおいしいお茶をお淹れしますから!」
「ネコ……! お前というやつは……!」
半ばネコに背中を押される形で、マオ様は照れくさそうに明後日の方向を向きながら呟いた。
「……勘違いしないでちょうだい! これは……敵の戦力を分析するための『尋問』よ! 一口食べて、不味かったら即刻処刑するんだから!」
「ああ! いくらでも尋問してくれ!」
勇者は満面の笑みを浮かべ、テラスへと足を踏み入れた。
それを見送る執事は、暗闇の中で静かに眼鏡を光らせ、不敵な笑みを浮かべた。
(ふむ……魔王様を説得するのは難しそうですね。ですが、ご安心ください。ワタクシには『別の計画』がございます)
(聖女が勇者を慕っているという噂……。聖女へ手紙を送り、この男を連れ戻させましょう。そうすれば城に平和が戻る……)
「いっそ二人を結ばせましょう……ポーカーフェイスの裏で笑うのは、ワタクシです」
執事の密かな企みが動き出しているとも知らず、夜のテラスには、甘いタルトと紅茶の香りが優しく広がっていくのだった。
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