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殿下!私が愛して差し上げます!  作者: KAE


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2/7

2: 初めて言葉を交わします

「さて、これでお前達は婚約者同士だ、ふたりで庭園を散歩でもしてきたらどうだ?」国王の上機嫌な声の提案に

ジーク王太子は「…そうしましょうか。では、ご令嬢参りましょう」ジークはスマートにエスコートの手を差し出す。

「はい、よろしくお願いします」ニッコリ笑ってイザベルはジークの手に自分の手をのせた。

その時ジークがビクッとしたのは気のせいにした。


王宮の中庭に出たふたりは黙って遊歩道を並んで歩いていた。


遊歩道の脇道、小路の先に東屋があり、そこに造り付けの腰掛けにふたりは並んで座った。


サロンからここまで、ジークもイザベルもひとことも口をきいていない。ひとことも喋らず、イザベルはジークの膝に手をかけて、エスコートしてもらってこの東屋まで来た。

それは決して不快な沈黙ではなかった。

腰掛けに座る時、ジークは自分のハンカチをイザベルが座るところに敷いてくれた。


そよ風が東屋を優しく吹き抜ける。


「コホン」とひとつ咳払いをしたジークが話しかけてきた。

「イザベル嬢、本当に私と婚約して良かったのですか?あなたのような美しい方ならもっと見目の良い方が相応しいのではないですか?」


イザベルはジークを見た。前髪が邪魔をして表情が読み取れない。

噂通りで、肌は荒れていて、吹き出物までできていた。どうやら鼻筋は通っているようだ。

相変わらず前髪の間から赤い瞳がイザベルを見ていた。


「お気遣いありがとうございます。殿下は私の〈噂〉を耳にされたことはございませんか?」


「ありますよ。しかし〈噂〉ですから…私は実際目にしていませんから。〈噂〉をそのまま思い込むのは危険だと知っています」


「ふふ、そうなのですね、ありがとうございます。私はその〈噂〉のおかげで、今日まで誰とも婚約を結んだことはありません。私のような者に求婚してきた物好きは殿下だけですわ!ふふふ」


「ははは、そうでしたか。では私はその〈噂〉に感謝しなくてはいけませんね」


「失敗した…と思われるかもしれません」


「ふふ、根拠はありませんが、それは無いと確信しています」


「そうですか…では期待を裏切らないように精進いたします」


「はい、共に頑張りましょう」


「よろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


「ふふ」 「はは」


変わらずそよ風が東屋を優しく吹き抜けていた。


イザベルは東屋の外に視線を移した。

色とりどりの花が咲いていた。


チューリップ、ネモフィラ、バーベナ、クレマチス…

雑多に咲いているようだが、それぞれ調和が取れるように植えられていた。


「綺麗ですね」イザベルは思わず口にした。


「落ち着きますよね」


「ええ、本当に…」


「ふふ」


「いかがされましたか?」


「いえ、私とここにきて〈落ち着く〉なんて言った方はあなただけです」


「まあ!今までの方はお花はお好きではなかったのですか?」


「〈花〉というより〈私〉が嫌だったのでしょう…みなさん早く帰りたそうでした…エスコートさせてもらったのはあなたが初めてですよ」とクスクス笑いながら教えてくれた。


「イザベル嬢こそ、私の〈噂〉は気にならなかったのですか?」


「ふふ、気にならなかったわけではありません。でも〈噂〉ですので…ふふ。参考にさせていただきました」


「不思議な方ですね…いや、肝が据わっている。と言った方が正しいのかも…」


「それは褒め言葉ですか?太々しいとも取れますが…」


「ははは、絶対褒め言葉です。動じない強さを感じます」


「うーん…あまり褒められている気がしませんが…ふふ、私も〈噂〉には少々振り回されましたから。それに〈噂〉をそのまま鵜呑みにしてしまうと、私も他の方々と同じになってしまいます。それはちょっと悔しいですから…自分の目で確かめようと…ふふ、こうやって口にしてしまうと、なかなか太々しいですね。ふふふ」


「そんな太々しさは大歓迎ですよ。このまま私の伴侶になってくださるのならひとつ約束してください」


「どんな約束ですか?」


「ひとりで悩まないでください。私で力になれることならば喜んで力になりますから」


「ありがとうございます。とても心強いお言葉です。胸に刻んでおきますね」


「ええ、必ず」


そして、ふたりは東屋を出て庭園の遊歩道をサロンに向かってゆっくり帰って行った。


ふたりが腕を組んでサロンに戻ってきたのを見た国王はニコニコしながら「ゆっくり話せたか?」と聞いてきた。


ジークは「ええ、とても有意義な時間でした」と答え、バーンスタイン伯爵夫妻に向かって

「バーンスタイン伯爵、伯爵夫人。イザベル嬢を決して楽では無い立場に立たせることになってしまうのは私はよく理解しているつもりです。できうる限りサポートをいたします。どうかよろしくお願いします」と腰を折って礼をした。


「殿下!そんな勿体無い…どうぞ頭を上げてください」そしてジークの隣に立つ愛娘を見た。

イザベルは穏やかに笑っていた。


バートスタイン伯爵夫妻は、イザベルの覚悟を感じて

「殿下、親の私が言うのも憚られますが、イザベルはまっすぐな娘です。どうかよろしくお願いいたします」と夫婦して深く臣下の礼をした。


ジークも「こちらこそよろしくお願いします」と礼を返していた。

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