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禁忌の白書

『時の遡行と死者の蘇生を禁ず』


白い辞書は高らかに歌い上げる。

鈴の音の如き福音だった。


しかしその残響は頭蓋を浸すように不快で、いつまでも耳にこびりついて離れなかった。


周囲の光は一気に収束したかと思うと、突如として暗転する。


「……やり直しは出来ないという事かよ、けっ」


目を開ければ、私の周囲に広がる空間は年季の入った教会で、元通りの静かな伽藍洞だった。


イコンの前で古ぼけた魔導書から手を放す。


背の高い司祭が私を見つめていた。


「その通り。魔導の禁忌ですよ。人は神になれない」


「一週間、ずっと想念とやらを叩きつけたぜ? この時代錯誤の本とやらにさ。それがなんだってんだ。ああ? こんなつまらないお説教を説くのが魔導かよ」


苛立ちが頂点を迎えた。


寝食を絶って何も書かれていない妖しげな書を凝視していたのだから、仕方がないと言えば仕方がない。


「最低三ヶ月は掛かるのですよ? 入念な準備を積んで。それを貴方は一週間。追い込んだとは言え、偏に貴方の才能と言える」


彼はくるりと背を向けて重々しく語った。


その横顔は月明りに照らされていた。


深刻そうな面持ちで忙しなく顎髭をいじっていた。


震える声で言葉を紡ぐ。


「もう一つ約束して欲しい。これから魔導を教授して差し上げますが、専ら世のため人の為に用いて欲しい」


いつの間にか向き直っていた司祭。


気付けばその背中から白い翼が私達を覆わんばかりにせり出していた。


服も私が見たこともないような上等の羅紗に変わっている。


その顔はまごうことなき女神の相貌であった。


金の髪を肩から背中に流し、琥珀色の瞳に射抜かれた気がした。


「ロンド。今はしがない盗賊かもしれませんが貴方はたしかに勇者の子孫です。故に試しました」


「そうですかい。厳ついオッサンだった方が修行が捗るぜ」


ぷいと顔を背けて強がりを言うと、儀仗で強かに背中を殴りつけられた。


「ではおのぞみ通りに。次は何でもよい、私に攻撃をあててみよ。ロンド殿!」


教会は廃墟同然なのである。


頭上には星空のサーカスが賑やかに繰り広げられているのに、地上では良い歳したオジサン二人(?)が鬼ごっこをしていた。


実にシュールだ。


この追いかけっこは三ヶ月以上かかり、やっぱり私は凡人である事が判明するのだが、それはまた別の機会に。

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