聖女様の下着は命より重い
「先に行け、後から必ず追い付く!」
「お主を見殺しには出来ぬ!」
瑠璃色の金箪笥に大蛇が巻き付いている。
鋭い眼光が横取りを許さない。
崩れゆく我らが聖女の部屋で押し問答が繰り返されていた。
それは特定のご婦人方が好みそうな、ある種の茶番だった。
「ナーガトスク殿、よく考えよ。己が命と引き換えになる物など、滅多にはござらんよ?」
「今がその機会なのだよ、ゼファー君! この中にはね、宇宙の神秘が秘匿されている!」
「神秘? 貴殿が何を申して居るか、分かりかねる!」
「白々しい。聖女様の下着だよ。私の方が早かったのだ!」
色欲に狂った神獣は毒蛇の眼をしていた。
理性を完全に失っている。
愛刀を正眼に構え、私は咆哮した。
大理石の床に、放射状の亀裂が走っていく。
「執念の付きまとい痛み入る。だが拙者が先だ、下郎!」
「元人間の青二才が……。口を慎みたまえ!」
閃光の如き抜刀は、宙で火花を散らし、鋭い咬撃で受け止められた。
刀は咬合されて、全く抜けない。
刹那、逆手で鞘を蛇の頭に打ち据えた。
彼は地面にのたうち回る。
「げほ! よくもやってくれたな~」
「いざ、この世の真理を手にせん!」
蛇を尻目に素早く重厚な箪笥を引いた。
だが、幸福に胸を高鳴らせながら、開けた花園にあったのは紙切れ一枚だったのだ。
「『犯人はお前だ!』……? これは、一体?」
疑問に思った、その瞬間だった。
アキレス腱に鋭い痛みが走ると、全身に灼けるような熱に包まれたのだ。
意識が朦朧としていくではないか。
「やっぱり彼だったんだね、ナーガ君……」
「気を確かにお持ちください。聖女様、彼も魔が差してしまったのでしょう」
突如現れた銀白の聖女は、呆れた顔さえお美しい。
けれど、薄れゆく意識の中で思ったのだ。
私を炙り出すために、城一つ解体しなくてもいいだろうと。
『この世界が、間違っているんだ!』
深淵に呑み込まれる瞬間、私の胸に去来したのは、どこぞの丘で天に吠えた遠い日の夕闇だった。




