青水晶が告げる真実
波動はカオスを描出した。
青水晶の光は、規則正しいアステロイド曲線を崩し、複雑怪奇な軌跡を繰り返す。
師は手も触れていない。
鍾乳洞に滴る水滴の如く、冷や汗が背中を這う。
「先生、この様な光跡を見たことはありませんが……」
「魔力の流れだよ。吸血鬼のね」
師の厳かな告発に、思わず口を閉ざす。
ぶつかった手が燭台を掠め、危うく灯りを失うところだった。
一瞬の静寂が『研究室』を支配する。
私は沈黙に耐えきれなかった。
「人間です、先生! この人は。十字架も! ニンニクも! 判別法は全て試しました!」
私のすぐ横で、美しい黒髪の女性が眠っている。
肌は滑らかで艶があり、とても闇の住人とは思えない。
瑞々しい唇は紅く、死の香りから程遠かった。
「全て? 嘘を言っちゃいけないよ。レイモン。その子は影がないだろう?」
戦慄が脳髄を貫く。
彼女はフラスコのマッチに火を付けたがらなかったのだ。
つい先ほどまで、隣の部屋の実験室でしきりに暑いと言い張っていた。
「先生! もう少し時間を……」
「往生際が悪いぞ! レイモン。本来なら、最初に気づくべきことだ!」
師はくるりと背を向け、深く項垂れる。
その部分だけ世界から切り出されたような、そんな気がした。
蝋燭の灯りに照らされた大きな影が、深呼吸する。
「青水晶は魔力そのものを映す。人なら規則正しい波を描く。これは吸血鬼じゃ」
「こんな美しい女性が、吸血鬼だなんて受け入れられません!」
師事して以来、初めて反抗する。
樫の杖をギリギリと握りしめれば、生成した魔力は右手に炎を宿していた。
「大馬鹿者!! まだ分からんか!! 既に魅了されている事を!」
振り返った影は、私の炎を一瞬でいなし、寝台の姫君に到達すると、愛しの心臓に五寸釘を撃ち込まんとする。
その瞬間だった。
黒い瘴気が洞窟から地上まで噴き上げたかと思うと、彼女の姿は忽ちの内に消え去っていたのだ。




