夢喰いの婚約者
斜塔の群れが雲海を突き抜けて、薔薇の如く咲き誇っていた。
その中心に銀白の少女は空高く舞っている。
雷鳴が轟く瞬間、彼女は二本の錫杖を交差させた。
勝ち誇った表情で眼下の少年に言い放つ。
「これで最後ね。白夜。今回も私たちの勝ちです」
「時乃! 騙されてるんだ。もうお前の家族は……」
「黙りなさい!!」
錫杖から叩き落された雷撃を間一髪で躱す。
白夜は鳳に乗って空中を旋回した。
時乃は陶然とした表情を浮かべている。
もはや呼び掛けは届くまい。
その瞬間、日輪を背に時乃から眩い光が放たれた。
同心円状に光芒が拡散する。
白夜は堪らず眼を覆った。
意識を白く染め抜かれていく。
一面の風景が大きく変貌した。
「白夜! 目を覚して!」
「声が大きいな。静かにしてくれ」
気付けば、簡素な漆喰の六畳間で白夜は寝起きだった。
いつの間にか時乃が白夜の顔を覗き込んでいる。
「お父さんたちに挨拶する前に顔を洗ったら? 白夜」
「ああ、そうするよ」
あまりにも荒唐無稽な夢を繰り返し見ている。
何故、醒めないのか白夜は分からない。
ふいに彼は疑問に思った。
なぜ婚約者の自分が座敷牢の様な場所に閉じ込められているのかと。
長い廊下を渡った先で、洗面台の鏡に映った自身を見て嘆息する。
「ああ、なんて鋭い犬歯なんだろう」
足音が近づいてくる。
振り向けば時乃だった筈の女は妖艶な薄ら笑いを浮かべていた。
「今日も、いい夢だったでしょう?」と囁きながら。




