だるまさんがころんだ
瑠璃色の宝石に縁どられた鏡面を見つめてため息をつく。
どうしても縮毛矯正が上手く行かないのだ。私の赤髪は強い魔力を帯びて反発するらしい。
クラスメイトの男子にラーメン呼ばわりされた事がある。回し蹴りをくれてやった。以来、私の渾名は『カンフー』である。
「SとNがないって事ね。全く。低い鼻も気に入らないわ」
独り言ちて、碧い瞳に指で輪を作る。今日は肌が滑らかで化粧のりが良い。うむ、ギリギリ合格とする。
一人快哉を叫んでいると、パチパチと拍手の音が聞こえた。
「彩矢、今日も綺麗ね。ビューティフル!」
化粧室の扉は、いつの間にか開け放たれていた。
黒いドレスに身を包んだ三十前の女性が手を振っている。義母だ。彼女が帰宅すると、四階建ての洋館が一層豪華に華やぐのだ。
「義母さん。気配を消して近づくのを止めてくれるかしら。そんなサプライズはいらないわ」
ジト目で闖入者の顔を覗き込む。
事と次第によっては『契約』を放棄しても良いとさえ思った。かなり本気で。
「やっぱり姪っ子ね。その睨み方はもうそっくりよ! 彩矢」
聞いていない。
と同時に彼女が「だるまさんがころんだ」をやる理由を知ってしまった。私の母は既に他界している。
とは言えここは掣肘を加えねばなるまい。
「義母さん! 後ろにゴキブリ!!」
彼女が血相を変え、後を振り向いた瞬間、私は指先で大理石を丸くなぞった。
赤い光が走り、空間が揺れる。
床から一振りの刀を取り出す。
前を向き直した彼女と視線が交差する。
私は鞘のままで、コツンと叩く真似事をした。腹が立つとは言え、私を拾ってくれた大恩人に滅多な真似は出来ない。
「黄金の刀、遂に呼び出せたのね! 貴女なら出来ると思った!」
義母の笑顔は喜びで溢れた。
けれど、それも一瞬消えて、冷静な面持ちになる。
人差し指をすっと立てると優しく呟いた。
「彩矢、最後の戦い。いつもの様に背中を任せるからね」
母親は守れなかったけれど、今度は取りこぼさない。
たとえそれが、彼女の望みと違っても。




