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魔王様はイケメンがお好き

「今度の勇者、イケメンじゃない?」


花嫁姿の姫君は、気怠げに欠伸をした。

整いすぎた顔立ちが、かえって罪深い。


羅紗のごとき素肌は水気を弾き、艶やかに光る。

弾力のある唇も紅く瑞々しい。

どうやら食事を終えたばかりらしい。


「魔王様。先日も縁談が破談になったばかり。容姿ばかりをお求めになるのは、どうかお改めを」


「お前たちこそルッキズムの権化じゃないか? ええ、ジャギ?」


諫めたつもりが、思わぬ反撃を受けた。

大理石の床で足を滑らせ、尻もちをつく。

見上げれば、金糸のタペストリーが天井を彩っていた。


彼女の失笑を受け止め、姿勢を正す。


「返す言葉もございません。しかし主よ。美しさが強さに直結するとは限りませぬ」


「四六時中この青水晶と向き合うのだよ? 見目が良いに越したことはない」


「目の保養、というわけですな。浅慮でした」


彼女は書斎の水晶に両手をかざし、何事かを呟く。

次の瞬間、私の足元に青年の貌が浮かび上がった。


理知的な眼鏡が印象深い。

どう見ても学者肌だ。

私の想定する“勇者像”とはまるで異なる。

そこに猛々しい剣士の面影はない。


「魔王様……? それが……イケメン、ですか?」


「ジャギ! 私が良いと思ったら、それはイケメンなの!」


何ということだ。

主はすでに恋する乙女ではないか。


「我が主よ、後悔なさいますぞ! 私で懲りておいででしょう!」


肺の空気をすべて吐き出す勢いで叫ぶ。

玄武岩の玉座が震えた気がした。


彼女は一瞬きょとんとし、やがて紅の涙を零した。

胸が締めつけられる。


「それを言うのは卑怯よ、ジャギ。貴方に生き写しの彼だからこそ、私を養ってほしいの」


私は膝から崩れ落ちた。

そこまで思い詰めておられたとは。

己の甲斐性のなさを呪う。


「貴方様に心を奪われたあの日より、この身を悔いたことはございません。主よ、今しばしのご猶予を」


顔を上げれば、魔王様はワインを片手に、ソファベッドで恋占いに興じている。


その穏やかな横顔は、初めてお目にかかった日のごとく、天女にも勝る美しさだった。


私は、人間たちのギルドに潜り込む計画を前倒しすることを決意したのだった。

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