竈の悪魔と配給戦争
赤煉瓦の竈の中は、煙がもくもくと燃え立っている。
その一つ一つが蛇の様に鎌首を擡げていた。
灼熱の空間、その中央に三人の少年が陣取っている。
金髪碧眼のジンは背が頭一つ高く、いかにもな美少年だ。
彼の右に理知的な眼鏡が印象深いリック、左に神経質そうな目付きのダークが脇を固める。
案の定というべきか、既に魔導陣が仕掛けられていた。
複雑な金糸の網目模様は、私達が閉じ込められた事を暗示していた。
「掛ったな、ミハル。俺たちを倒さきゃ出られないぜ?」
「返り討ちにしてあげる。ジン。お肉は皆のものよ? 吠え面かかないことね」
視線が宙で激突した。
それを合図に大きく背面飛びで彼らの後ろを取ると、着地と同時に両の拳に炎を宿す。
一気にジンへと間合いを詰めれば、左右のリックとダークが私に飛びかかる。
際どい一瞬でリックの左腕を掴み、そのままダークへとぶつければ、彼らはもんどりうって倒れた。
リックの焦げた左腕に目もくれない。
首魁のジンはくるりと此方を向く。
「そんな程度か。俺を本気にさせてみろ!」
「たかが子分をとでも? 何様のつもりよ! アンタ」
あの二人はジンを本気で守っていた。
リックは捨て石にする素振りを隠すつもりもない。彼の冷酷な笑いが癇に障った。
血が沸騰する。
「魔導を使えるのはお前だけじゃないんだぜ? ミハル!」
ジンの手に、煌めくクリスタルの剣が握られていた。
指先で輪を描き、赤い光が稲光ったのを確かに見た。
幻想の剣と契約し、召喚したのだ。
一年生で扱う魔導を遥かに超えている。
「ジン、あんた何者なの……?」
彼は答えない。
もう一度視線が交差した時、彼の瞳は深い黒曜石に変わっていた。
ぞわりと戦慄が脊髄を這いずり回る。
彼の背中から、黒い翼がせり出していく。
「アクマ……。そう君たちは呼ぶみたいだね?」
魔力の差は算盤で計算できないだろう。
そもそも、この結界の中に単独で乗り込んだこと自体が敗北なのだ。
自分の迂闊さを心底呪い、その場で崩れ落ちる。
「この戦争……。最高の肉はお前だなぁ。ミハル?」
首筋に冷たい感触を覚え、この世界から私一人、永劫に消え去る覚悟をした瞬間だった。
胸中に、眩いばかりの輝きが華の様に降ったのだ。
「そこまでよ、ジン。もうすぐ院長先生がいらっしゃる」
見上げんばかりの竈の淵に、赤毛の少女が立っていた。
背に大きなボウガンを抱えている。
「ルカか? 俺のクリスタル・ソードを粉々にしやがって!! 降りてこい。八つ裂きだ!」
「君が無敵なのはその空間の中だけ。リックとダークが作ったね。観念した方がいいわよ。
ミハルにどんな幻術を見せたかしれないけど、君は彼女の足元にも及ばない」
からくりの読めた私は、金髪碧眼の残念な美少年にそっと耳打ちする。
「君たち全員の配給を差し出すなら、今日の事はなかった事にしてあげる」
ジンはへたり込み、その場で崩れ落ちてしまった。
みっともない事この上ない。
しかし悪魔の声真似は傑作だ。
彼は生涯に渡り、羞恥に身悶えすることだろう。




