84.疑いたくなる真実?
増援を呼ばれずにウオヌーを倒す方法。それを可能とするレシピというものが、このゲームのシナリオに深く関わっているようだ。というのが判明したわけだけど……。
海岸の街の冒険者ギルド、そこに併設されたカフェで、私は注文したコーヒーが届くのを待っていた。
「レシピの情報が手に入ったのに、こんなにゆっくりしていて良いんですか?」
ヒナタの質問に、私は瞼で返事をする。カナタはカナタで武器のレシピというものに興味を惹かれているようだが、ここはもう少し私に付き合ってもらうとしよう。
「強化、魔法、武器に関するレシピが、それぞれのフィールドに隠されている、だったかな? 森にはエルフの代表者が隠した強化のレシピ。魔法ではないというのがミソであるなら、人間のフィールドを草原と考えると、そこには武器。ドワーフが暮らしているのは海岸の街、ここだから、海岸エリアには魔法のレシピが隠されている」
人差し指を立てて、二人に話す。頷きが返ってきた。
「ここで、私の今回の仕事をもう一度説明しておきたいと思う。今回の仕事は、『アーマードオウクワガタン』を倒すこと。それは、複数人のデバックが挑戦しても、クリア出来なかったこと」
ここでも頷きが返ってくる。
「これで、完全に手札が揃ったわけだ。ふふっ、私の推理を聴きたい?」
今度は首が傾げられた。けれど、カナタは最後の説明で思い浮かぶことがあったらしい。
「ちょっと待ってくれ、デバックがクリア出来なかったものが実装されているのか? バグとか、そういう心配はないのか?」
「心配があったら、実装していないよね? つまり、裏を返せばクリア出来ないことが正解。となるわけだ」
最初はそれくらい難しいクエストなのだろう、なんね軽く考えていたのだけど、改めて考えてみれば、かなり怪しい説明ではあった。
それを改めて考え直すきっかけとなったのが、知らず知らずにシナリオを進めていた、という状況だ。
「クリア出来ないはずのクエストなのに、それを求めて進めていたら、なんだかんだ強化要素を見つけてしまう。その先に目的のものがあったとしても、倒すことが難しくなるとは思えないのよ」
「では、ヒナタたちは間違った方向へ進んでいるのです?」
「いや、間違ってはない。強くなれば、その分倒すのが楽になるだろうし」
「じゃあ、この先に、それを出現させるフラグというものはないのか?」
「ないだろうね。そもそも、私は既に出会う方法を突き止めていた」
何故、クリアすることが出来なかったのか。何故クリア出来ないことが正しいのか。
「ここで問題です。正しい仕様なのに、クリア出来ない状況とはどんなものなのか」
「はいっ! 強すぎて倒せない!」
「ヒナタ、私の話を聞いていた?」
少し笑って、届いたコーヒーを口に含んだ。
「もしかして、倒す以前の話をしているのか? ガタンというものには既に出会った。それには直ぐに逃げられたというから、攻撃を当てる手段がない?」
「その調子。逃げるというのは、むしろこちら側に利点があったのかもしれない」
「逃げられることが、利点? 逃げられて得をすることなんて……次の出会いに移行しやすいとか? 挑戦回数が増やせられる? ……まさか」
私としては、もうそれしか考えられないんだよねぇ。
「私の推理。それは、一定確率でガタンではなく、極々低確率でアーマードオウクワガタンが出現する」
これが、クリア出来ない絡繰りだ。デバックは、殆ど出現されないと言うことが確認出来ればお仕事完了。だからクリア出来なくても問題はない。
たまたま出現したらクリア出来るという、おまけの隠し要素みたいなものなのだろう。
「増援を呼ばれずにウオヌーを倒す、というのは、どちらかと言うとシナリオを進めるための要素だろうね。その途中でガタンと出会って、運が良ければ遭遇してクエストクリア」
だから、こうしてゆっくりしていても問題ないのだ。
確率論であるなら、早く森へ向かって試行回数を増やせばいい。そう考えることも普通であるとは思うのだけど、私が思う確率論というのは、普通とは少し、違っていると思う。
例えば、の話になるのだけど。ガタンやアーマードオウクワガタンなど、もしかしたら話に出ていた、クワガタンだとかも出現するのだとして、それら全ての確率が一〇〇%だとする。
ガタンの確率は八〇%で、クワガタンが一〇%。オウクワガタンが六%で、ドオウクワガタンが三%。そしてアーマードオウクワガタンが一%。
普通なら、一%の確率でアーマードオウクワガタンが出現する。そう考えるはずだ。
でも、私の考え方は違う。それらの確率は、レイヤーのように重なり合っているのだ。
八〇%の確率で出現するガタンが現れない。一〇%の確率で出現するクワガタンが現れない。そうして下層のレイヤーから抽選が始まり、すべての確率が弾かれた後、最後の一%の抽選が始まる。
理論上では、一〇〇%の中の一%なら、百回やれば一度は出るのではないか。そう思うだろうけれど、その前に、百回やれば八十回はガタンが出て、百回やれば十回はクワガタンが出る。
確率なんて、観測する側面によって表情を変えてしまうのだ。だから結局は、当たったときにリアクションをする以外に、何もすることがない。ただ、レイアーを引きはがし、最後のひと粒を摘み上げるしかない。
「運が良ければ、数回で結果が出る。運が悪ければ永遠に結果は出ない。そもそもこの推理が当たっているかも未知数なのだし、それがバッチリ正解なのだとしたら……私たち、もう貴重な時間を浪費し尽くしているからね」
おそらくではあるのだけど、私たちがこの事実に気が付かなければ、可哀想だと思って期間を延長してくれたのだと思う。けれど、こうして気がついてしまった。これが正解だとしたら、もう、残された時間で挑戦を続けるしかない。
「少し休憩をして、――始めようか」
ひたすら複数のサイコロを、目的の目が出るまで振り続けるような作業を。




