83.寄り道ではなかった
「……まじか」
私は目の前の光景に、少し呆然としたように佇んだ。だって、それを相手に苦労をしてきた人物を見ていたんだ。それが、……こうも簡単に。
「なるほど、ね。森に現れるモンスターは大きく分けて三つに分類される。飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫、爬虫類とその他。それらからドロップするアイテムは三すくみとなっていて、飛ぶ昆虫のアイテムを素材にした武器での攻撃は飛ばない昆虫に有効。飛ばない昆虫のアイテムは爬虫類に……」
カナタの解説を聞きながら、私たちは思いっきり順序を外れていたんだなぁ、と痛感した。
今、目の前ではヒナタが鎖鎌を振り回し、ハッチバックに攻撃を命中させていた。それも、一度も背後にまわられることなく、だ。
「戦闘に有利になる効果じゃないから、森での戦闘限定の効果だろうね。で、僕がこの程度のモンスターに苦戦するとでも?」
「本当に生意気。別に、カナタが苦戦するとは思わなかったよ。ほら、苦戦するヒナタに対し、颯爽と助けに入ったら好印象だとは思わなかった?」
「……余計なお世話」
つまらない。と、素直に思ってしまった。
森に入ったらカナタが扱う魔法でサクサクとモンスターを倒し、普段から強化を生業にするだけあって好奇心が刺激されたのか、ドロップしたアイテムを使って強化実験。そうして、この森での戦闘の仕様が判明したのだ。
「あーあ、それにしても魔法の天下は明智の如く、か」
「いや、魔法が使えれば無駄な強化をしなくていいって考えれば、まだまだ有利に働くさ。付与できる効果だって有限なんだし」
「毒攻撃とかの反映される数だっけ? ……いくつだったっけ?」
「四つ。魔法や必殺技のコアを除いてね。モカのバインダーバレルには、今は静音性の効果しかつけていないから、今後付与するならよく考えることを勧めるよ」
必要になったら考えればいい。そう結論付けてヒナタの戦闘を観戦する。戦えるようになったから、ウォーミングアップ。身体が暖まったら、本題に入るとしようか。
カナタの考察により、ウオヌーを倒すためには何らかのアイテムで強化した武器が必要になるのではないか、との推察がなされた。
では、どのモンスターがドロップするアイテムなのか。それはまだ判明していないものの、何やら考えがあるらしい。
「強襲揚陸艦ウオヌー、って名前なんだろ? わざわざ機械的というか、機構的な名前にしているということは、何らかの電波だとか、通信的なもので仲間を呼んでいると言ってもいい」
「きょーしゅーようりくかん、ってなんです?」
ヒナタの疑問に、彼は少し考える。
「強襲して、揚陸する船」
「なるほどっ!」
それで良いのか、と少し呆れてしまうけれど、それで話が進むのなら話は早い。
「つまり、そういう機能を有した輸送艦みたいなものなんですね。それが増援を呼ぶというのも不思議なのですけど、それならコバンウオヌー、でしたっけ? それを射出されたら目的進行中と言うことで、失敗したら補充を呼ぶ。その流れはなんとなく理解できます」
「つまり、コバンウオヌーを射出されたら終わり。射出される前に倒せないのなら、射出させないようにする効果を発揮する何かがある」
……。
「カナタ、ヒナタって頭いいの?」
「ドジをしなければね」
解答欄の位置を失敗するタイプかぁ。
「兎も角、こういう時は街で――クエスト斡旋所で情報を集めるに限る」
早速行こう。近くにあった梯子のような木を登っていくカナタ。
「カナタくん。嬉しそうです。学校もあって、なかなかこうした攻略ができることも少ないですから。ふへへ、なんかヒナタも嬉しくなっちゃいます」
「そう言ってくれると、私も嬉しいよ」
頭を撫でて、彼のあとに続く。果たしてどんな情報が得られるのか。
クエスト斡旋所の受付で尋ねたところ、ドロップするアイテムの組み合わせによって、様々な効果を発揮する仕組みがあるそうだ。
しかし、それらはランダム性もあるらしく、決まった効果を引き出すためには、森の賢人というエルフが書き残したレシピを、森の中から見つけ出さなければならないという。
「どうやって見つければいい?」
「森の賢人に詳しい人が、どうやら街にいるらしいのです」
「どうやら?」
「どうやら」
これ以上の情報は引き出すことができなくて、私たちは大人しく引き上げた。
そうして街の中をテキストを集めながら彷徨ったのだが、目的の情報を見かけることはなく。
「ここで手詰まり、かしらねぇ。森の中を地道に探すしかないのかどうか。カナタはどう思う?」
「詳しい人がいるっていうのは、事実なのだろうね。でも、それを明かすことができないというのは、噂話程度のものだから、か。発生源を見つけ出せれば良いんだけど……」
「こういう時、何らかの行動がフラグになりますよね」
ヒナタの言葉に頷いた。
「そう。情報を引き出せるフラグが立っていないんだ。問題はどうやってフラグを立てるのか、なんだけど、森の賢人の話を聞けたということは、それを聞き出せるフラグが立っていたんだと思う」
「ドロップしたアイテムを強化する。それに気が付くのがフラグってこと?」
「そう。だから今度は、森の賢人についての情報がどこからかで入手できるんじゃないかな」
「強化の話の地続きでしたら、ドワーフの影響が色濃い海岸の街へ行ってみるのは如何でしょう」
「良いかもね。話によれば、他の街で森の話を聞けることもあるんだろ? 試してみるのもありだ」
早速、海岸の街へワープする。
海底洞窟の奥深くにある空間にできた街で、ワープができなければ素潜りで、という辿り着くのが地味に面倒な街。
ここでは多くのドワーフが暮らしているようで、店売りとして、割高だがドロップ品であるアイテムも購入することができる、強化を生業にするならお世話になることが多い街、と言った印象だ。
「地下空間なのに、天井やら壁やらがキラキラしていて。来る度に綺麗だなぁ、って思うよ」
「お姉様も、そう思います? こういうロマンチックな景色っていいですよねぇ。気になる人と二人っきりで散策とか、きっと素敵なムードなんだろうなぁ」
――してねーのかい?
――は、恥ずかしいし。
そんなアイコンタクトを取りながら、しばし観光ムードに入る。
街の構造は他のところと同一なのだが、話の通りに特殊な風景が広がっているのだ。ドーム状の洞穴で、構造としては砂に埋まっていた砂漠の街と同様。その天井や壁一面に、星空のように輝く鉱石が散りばめられていた。
時間帯によって輝き方が変わり、まるで星座のようなものが見えるという。
確かに、そんな光景を好意を抱く人物と見れば……ちょっとくらいは先に進めるのではないか。私はこっそりと二人から距離を取ろうとして――。
助けを求めるような、子犬のような視線を感じて元の位置に駆け寄った。
――根性なし。
――うっさい。
まぁ、老婆心を見せるのもここまでにしておこう。カウンターを浴びせられでもしたら、私も黙るしかなくなってしまうのだし。
露店でコーヒーを買い、感想を言い合いながら目的を果たすべく行動に移る。
やることは変わらず、ひたすらテキスト漁り。
私たちは既に『森の賢人』というワードを入手しているため、こうしていれば必ず、どこかで引掛はかるものがあるはずだ。
街の中では目ぼしいものは得られず、神殿に入る。受付、ホール、各部屋。辿り着いた図書室でテキストを開いていけば、やがて一つの本に出会った。
「『神に導かれし三人の賢人』?」
私が手に取ったのは、そのようなタイトルの本だった。表紙を開くと、こんな一文が踊る。
〈神によって冒険者の手助けを任された人間、ドワーフ、エルフの代表者は、限られた時間の中で三つの発明をした。武器、魔法、強化。それらを複数のレシピにまとめ、それぞれのフィールドに隠した。いつか侵食が始まろうとも、無事であるように。それが、これを読むものの福音となることを願って〉
……これ、地味に本筋なんじゃない?




