81.捕獲作戦
指定エリアを独占できる時間は、そこで何を行うかによって変動する。それは運営が定めた目安によって振り分けられるのだが、今回私たちに与えられた時間は三十分だった。
その間に、果たしてガタンが現れたのだろうか。
結論から言うと、現れた。ただ、それがいい結果になったかといえば、けして素直に頷くことは出来ないだろう。
「近付くことはできるんすけど、あいつ、結構なサイズでしたよ。大型のバイクくらいじゃないっすかね。とてもじゃないけど虫取りセットの網で捕まえられるサイズではなかったし、攻撃して弱らせたほうがいいのかと思って手を出してみれば、驚いたように跳ね上がって逃げ出しまして」
囮のようにウオヌーの相手をしていた私とロンドは、その姿を目撃してはいなかった。全てガイアに任せることとなってしまっていたのだけど……。
此処はクエスト斡旋所のカフェ。名物だというソイラテを傾けながら、詳しい話を聞いていこう。
「先ず、見た目は普通のクワガタムシ?」
「そうっすね。コクワガタみたいに、顎は小さかったっす」
「メスのクワガタの顎って可愛いですよね。申し訳なさそうに生えていて」
「あぁ、確かにあれは可愛いよね。家なんてさ、シーズンになると網戸に体当りしてきて。でも、不思議とメスばかりなのよね」
「そう言えばクワガタのメスって、判別付けるの難しいらしいっすよね。俺はオスばかり意識していたんで、メスはあんまり詳しくないんすけど」
「ちょっと大きさが違うらしいね」
いつも網戸にぶつかっていた、あのメスのクワガタ。オスで来るのはコクワガタぐらいだから、勝手にコクワガタのメスだと思っていたけど……。
あら、どちら様だったんだろうね?
「じゃあ、このゲームではガタンのサイズによって名前が変わるんですかね? ほら、ガタンより大きいのがクワガタンで、その上がオウクワガタン」
「じゃあ、その上がアーマードオウクワガタンっすね」
「いや、ドオウクワガタンがいるかも知れないわよ?」
「根性ありそうですね」
ドで思い浮かんだのがド根性なのか。ロンドって意外と脳筋なのかも?
「で、問題はどうやって捕まえるのか。だね」
「捕獲するのは確定なんです? ロンドちゃん、途中参戦だからイマイチ状況がつかめていなくて」
「そこは確定でいいと思うっすよ。多分。ガタンについて話を聞いたときに、受付の人が捕獲するなら、って言っていたんすよ。ね? モカさん」
「そう。正しくは捕獲したい場合、かな。でも、わざわざそう言うってことは、それは何らかのヒントである可能性が高いでしょ? だから、先ずは捕獲を試みるのがいいと思う」
「だから、どう捕まえるのかが問題なんですね」
その通り。私とガイアは頷いた。
「すぐ逃げる相手をどう捕まえるのか、か。暗殺者ギルドの必殺技が使えれば手っ取り早いんだけどね」
「この仕事の後に実装ですからねぇ。あれ、実質このクエストの難易度緩和なんじゃないです?」
「正規の方法が難しいのか、面倒なのか。どちらにせよ、何処かにヒントがあるはずっすよね?」
「そうは言っても、今日は二十六日。今日を入れてあと三日ね。一から探すのは面倒よ」
そしてその捜索は、主に一番時間がある私に委ねられるわけだ。それならそれで、三人が集まっている間に何らかの方向性は見つけておきたいところ。
「今までの中に、何かヒントがあればいいんだけど……。ロンド、街のテキストに怪しい文言はなかった?」
「ガタンについての情報はありませんでした。でも、その時にはガタンの存在を知らなかったわけですし、知った状態で何か変化があった場合、変化がある可能性を考えると、……またテキストの集め直し、ですねぇ」
落ちた肩にそっと触れる。
「……頑張ろっか」
次の標的はガイアだ。
「ガイアは、虫捕りセットで何か怪しいものがないか調べてほしいんだけど……。その前に、珍しい虫を捕まえたって言っていたよね?」
「あぁ、あれっすね。青い蝶と、赤いカマキリと、黄色いトンボ」
「なんか、信号機みたいなラインナップですね。……ん?」
「ロンドも気が付いた? それらの虫がガタンの側に寄ったとき、まるで信号を見たかのような反応を見せたりするのだろうか、というのが私の疑問。ガイアには、他の色の虫がいないかどうかを調べてもらいたいわけ」
「信号が成立するかどうか、っすね」
今現在判明している手がかりと言えば、それくらいか。
私の方はもう少し、ウオヌーの攻略法を詰められるか試しておこう。三十分で、出会えたガタンは一匹だけなのだ。そこをスムーズに進められれば、もう少しチャンスがあるのではないか、とね。




