78.名前で連想してみよう
新種の昆虫を見つけるというのは、このゲームにおいてそこまで難しいものではなかった。何故か? そりゃ、全てが新種だからさ。
よくよく考えれば、このゲームではモンスターについての情報は確認できるけど、昆虫や動物に関するもののリストだとか、そのような類は一切ない。
だから、いつか見かけた蛍にしたって、それは紛れもない新種なのだ。
「で、アゲハ蝶やらダンゴムシやらを見つけて、総数今のところ三十種ね」
「モカさん、結構人使い荒いっすよね」
「だって、虫なんてガイアの得意分野みたいなものじゃないの? どうせ受粉とかでミツバチを使うようになるんだからさ、虫に慣れておいたほうがいいという、私なりの優しさです」
「それ、自分が苦手なだけっすよね?」
そうですが、何か? 言葉には出さずとも、とびっきりの笑顔を見せておいた。
閑話休題。私とガイアは、クエスト斡旋所のカフェで休憩を取っていた。
新種の発見はプレイヤーごとに独立しているようで、すでに他人が見つけている、なんてことにはならなかった。
報酬は魔法が使用可能になる巻物で、使用できる魔法のバリエーションは発見数に応じてアップしていく。交換できる巻物の数も。
「つまり、見つければ見つけるほど、戦士でもノーリスクで魔法を使用できるわけっすね」
「魔法を使うと楽になる森での戦闘に対する、救済措置みたいなものかな。で、残念ながら今のところ、私たちの仕事に対する進展はなし」
発見数に応じて、街の中で拾えるテキストに変化はないだろうか。ガイアには並行して探してもらって見てはいるものの、どうにも成果が上がらない。
「正直な感想っすけど、せめて何かしらのヒントがないと動きようがないっすよ」
「判る。見たこともない料理を再現しよう、なんて言われても、料理名だけではどうしようもないからね」
例えば、茶碗蒸しを作ってみよう。なんて言われても、茶碗を蒸した料理って何? と疑問に思うだけ。
そこに卵が使われていることも、鶏肉やシイタケという具材があって、出汁で溶いた卵を注いで蒸した料理なんてことは、想像するのも難しい。
「新種、クワガタって見つかった? 虫捕りもしたって言っていたと思うけど」
「まだっす。虫捕りで捕まえたのは、本当に珍しいものばかり。青い蝶とか、赤いカマキリとか、黄色いトンボとか。カブトムシも見かけないっすねぇ。あ、カナブンはいました」
「ちっ。今さら気がついた。先ず、取っ掛かりはそこじゃない? クワガタムシが何処にいるのか」
「『アーマードオウクワガタン』は、その住処にいるかも知れない、ということっすか?」
「そうかもしれないし、違うかもしれない。けど、クワガタに関連することで、話が前に進むかもしれないでしょ?」
街のテキストでも、クワガタに関する情報は今のところ出てきていない。先ずはそこを突いてみようか。
「すみません」
「はい、なんでしょう?」
受付に並んで、ようやく順番。この街に辿り着く人も、なかなか増えてきた。
「この辺にクワガタっています?」
「クワガタ?」
「クワガタムシ」
「クワガタムシ?」
この反応、このゲームの世界観には、クワガタムシがいないということ?
「ハサミのように伸びた顎で、獲物を挟む虫」
「あぁ、ガタンのことですね!」
「この反応、なんか急にロープレっぽいっすね」
ガイアは楽しそうに笑っているけれど、正直、私は面倒くさくてたまらないわ。




