77.あと五日
「えー、それでは作戦会議を始めます」
森の街にあるクエスト斡旋所、その三階のフリースペースの個室で行われる会議の光景も、場所は違えど見慣れたものになってきた。
「うっま、このたまごサンド美味しすぎるっすよ。なんすかこれ? えっと、なに?」
「ガイア、語彙力なくしすぎ。こういうのは、もっとクールに食リポしてこそ……やば、うま」
「お前ら、一先ずこっちを見ろ」
一つ違うことといえば、私が入手した渡り鳥の卵、それで作ったたまごサンドがとても好評だと言うことだろう。
ガイアとロンドはその美味しさに夢中で、無視された形になったユキはおかんむり。
「ユキも食べる?」
「後でもらう。先ずは作戦会議だろ? 今は二十四日。今日を含めて後五日だ。それぞれに調べてもらっていたが、ここいらで成果をまとめて、方向性を決めておかなきゃならん」
「じゃあ、私から報告しておこうかね」
まだまだ食事に夢中な二人は後回しにして、私のこれまでの成果を報告することにした。
「私は森の街以外で情報を集めていたわ。ティアからの情報で、海の街で得た情報によって関連するクエストが発生するかも、なんて仮説ができたの」
それを検証すると、確かに他の街で何らかの情報を得ることによって、新たなクエストが斡旋所に掲示される事を確認できた。
「逆に、森の街で得た情報によって他の街でクエストが発生する場合もあったけど」
「例えば? クエスト関係はシナリオ班の管轄だから、あまり情報が入ってこないんだよな」
「森で外来種の発生に困っている、ってテキストを見つけたら、山の街で絶滅危惧種になった動物の捜索クエストが発生していた」
アルパカを連れてワープするのは、もう二度とごめんだと思ったね。唾がもう、臭すぎる。
「アーマードオウクワガタンに繋がる情報は?」
「まだ全く」
「次、ガイア」
「ごちそうさまです。……草原の街にある道具屋で虫取りセット、なんてものを売っているのを見かけたので、森でそれを使ってみたんすけどね」
「効果はなし、か?」
「珍しい虫がいっぱい捕れたんすけど、それがどう関係あるかはさっぱりっすね」
虫の捕獲数に応じて、アーマードオウクワガタンの出現率がアップするかもしれないな。ユキはそう呟いて、ホワイトボードに記入した。
「ロンドはどうだ?」
「ひたすら街でテキスト漁ってましたよぉ。モカさんの言う通り、他の街に関連するような話も出ていましたね」
「その情報をもとに、私が動いた感じ」
「それでまだまだ有力な情報はなし、か」
どうしたもんか、とユキは思案に耽っている。
「ユキは何をしていたのよ」
「ギルドとサークルの実装準備の手伝い。ギルドに関しては早めに実装すれば森での戦闘が有利になるんだけど、ある程度は森の街に辿り着く人が増えなきゃ、肝心の魔法使いギルドに加入できないからな」
「各街の斡旋所にギルドの本部ができるんだっけ?」
「そう。草原の街に戦士ギルド。山の街に暗殺者ギルド。海の街に医療ギルドで、海岸の街に生産ギルド。で、森の街に魔法使いギルド」
「湖と砂漠、川にはないんです?」
ロンドの疑問に、ユキはないと答える。
「湖は精霊の隠れ里だから、なし。砂漠もゴーレムに支配されていたからなし。川の街はプレイヤーが築くものだからなし」
「実装は近いんすか? だったら草原の街に行かないと」
「あれ、ガイアは魔法使いギルドで魔法を覚えないの?」
ギルドバトルのテストで使用していたし、使用感は分かっているから取りに行くかと思っていた。
「やっぱり、剣を使いながら同時に魔法って、そんな器用なことはなかなか出来ないなぁ、と実感したんすよ。刀を操りながら遠隔操作で鞘を操るモカさんが凄すぎるだけで」
「あんなの、食材を切りながら煮込み料理や炒め料理をする感覚でしょ?」
「それは一般家庭ではなかなかやらないかと」
そうなの? とロンドを見ると、気まずそうにさっと視線を背けられる。そもそも、料理をやらない派の人だ。
「実装は三月の予定。つまり、俺達の仕事次第だな」
「時間を稼げは、もう少しのんびり準備ができるわけだ」
「もしくは、さっさと実装したいから、きっちり二月でリタイアしてくれ、だな」
クリアとは言わないだけあって、今の現状がよく見えているのだろう。
「話を戻すと、まだ方向性を決められるような情報は出ていない、ってところか。ガイアとロンドは、あとどのくらいログインできる?」
「基本は一日おきっすね。午前中か、午後か、夜かはその日によります」
「ロンドちゃんも似たようなもの、かなぁ。要請があれば調整はできますよ」
「そこはモカ次第だな。こいつが有力な情報を掴めば、一気に話は進むかもしれない」
そのタイミングで戦力をまとめて投入、か。
後は頼む、との言葉で会議は締めくくられ、早速各々が好きなように動き始める。
ロンドは変わらず、街のテキストを漁り、ガイアは森を彷徨い歩く。私はと言えば、クエストのクリア回数が何らかの目安になるのではないか、と思い斡旋所に留まっていた。
森の街の滞在時間、森の探索時間。この二つはガイアとロンドも受けており、今のところ仕事に繋がる情報には至っていない。
虫に関係するようなクエストはないだろうか。受付に質問をしてみると、幾つかのクエストを見繕ってくれた。
一つは鈴虫の捕獲。森の街の産業の一つらしい。
二つ目も似たようなもので、蛍の捕獲。
三つ目はミツバチの巣の採取。
四つ目は新種の発見。
「この新種の発見って?」
「リストに載っていない昆虫を探すものです。見つけた数に応じて、報酬がアップします」
「……報告した後にもう一度そのクエストを受けたてして、カウントはどんな感じに?」
「引き継がれます」
なるほど、それなら報酬を確認しながら進められる。
一番怪しいクエストは、最後の新種の発見だろうか。念のため四つ全てのクエストを受けておき、私はクエスト斡旋所を出てデッキから飛び降りた。
「あ、虫眼鏡でも買っておけばよかったか?」
それで見つけた虫が――自分の想像の中の虫を見て、私は背筋を震わせた。虫、そこまで得意ではないんだけどなぁ。てんとう虫とか、ダンゴムシとか、可愛い虫ばかりがいてくれることを願う。




