76.気になる卵
「はい、到着」
「うわー、ここが森の街かぁ」
などという感想は、神殿を出てから言えばいいのに。と、雰囲気で発言するティアを笑いながら、私たちは神殿の外に出た。
昨日の話にあったように、今日は彼女と共に、海の街で見られるという鳥の卵を探しに行くのだ。その卵が大層な美味らしくて、私はもう、居ても立ってもいられない。朝食で食べた卵かけご飯と、どちらが味わい深いのかを早く比べてみたいほどだ。
「街の外に出るには、適当に飛び降りればいいんだって」
「へぇ。でも、先ずはこの街の中を調べてみようよ。もしかしたら巣があるかもしれないし、その鳥についてのテキストが見つかるかもしれないし」
それならば、手分けをしよう。神殿周りは後で二人で調べるとして、先ずは四つのエリアを二人で分担して調査を開始する。
まず私が降り立ったのは、クエスト斡旋所があるエリア。そこの前に広がる広場では、他の街では露店で賑わっているのだが――此処はまだ、それほど人が多くないためかなり疎らだ。
その風景を写真で取って、カナタに送る。「今なら好きな場所を陣取れるぞ」と言葉を添えて。
クエスト斡旋所の中は、他の街と殆ど変わらない。違いがあるとすれば、併設するカフェのメニューにフルーツジュースが多いことだろうか。
「すみません、海の街で見られる鳥の巣って、どこにあるか判ります?」
受付で話を聞くと、受付を背にして右側の最初の列に、それに関するクエストが掲示されているらしい。
「ありがとう。あと、これは差し入れのエッグタルトです。皆さんでどうぞ」
「ありがとうございますっ!」
同僚との関係は、良いものにしておかないとね。
パーテーションに掛けられたクエストを一つづつ確認しながら、カニのように歩いていると、目的のものらしいそれを見つけた。
「なになに、『野鳥保護の取り組みの体験』?」
思ったものとは違うタイトルだったけれど、その内容を読んでみれば、ある種の納得。
私たちが目的としている鳥の卵は、確かに絶品らしく、放おっておくと全ての卵が蛇に食べられてしまうらしい。
クエストの内容は、蛇の駆除と卵の間引き。報酬は間引いた卵。何故間引く必要があるのかといえば、一度に大量に産み落とすため、大半は孵っても育てられることがないから、だそうだ。
「ティア、クエストを受ければ卵がゲット出来るみたいよ。ま、モンスターとの戦いはあるみたいだけどね」
「おー、当たりはそっちだったか。酒場でいい情報がないかと思ったんだけど、こっちは外れ。合流するわ」
「それなら下で。トロッコで移動するより早い。……酒臭い息をしてたら、はっ倒す」
「なにそれ、エスパー?」
通信を終えて、クエスト斡旋所から出たその足でデッキから飛び降りる。降りた先はモンスターの溜まり場でした、なんてことがないように、と願いながら。
「こんのっ! 鬱陶しいっ!」
当たりを引いたのは、今度はティアだった。合流するためにワープをしてみれば、文庫本程の大きさをした蜂の群れに追い掛けられている始末。
「それ、ハッチバックっていうモンスターなんだけど、常に相手の後ろに回ろうとするから、魔法を置くようにすると効率よく倒せるよ」
「アタシ、魔法には自信がないんだけどっ!?」
仕方がないなぁ、とバインダーバレルを展開して、広範囲に魔法をばら撒いて一気に倒し切る。
「この森に出るモンスター、基本的に魔法が有効なんだよ。バランスよく育てたほうがいいよ、っていう運営からのアドバイスなのかな?」
「もしくは、パーティープレイを楽しんでね、ってことじゃない? 自由度があるのか、ないのか」
「どの戦い方でも活躍できるチャンスがあるなら、優しいことだけどね」
「物理特化には厳しいけどねぇ。斧を振り回したら吐きそうだし」
それはどちらの意味でなのか。というのは置いておくとして、……なるほど、その為のギルドか。
「で、何処へ行けばいいわけ?」
「あっち」
マップのマーカーを頼りに進んでいけば、そこに巣があって、蛇との戦闘が待っている。
「今更だけど、仕事の方は大丈夫なの?」
「あ、クエスト斡旋所でそっちも聞いておけばよかったか」
「ぬけてるなぁ。でも、その反応を見るに急ぎの仕事ではないんだ」
「まぁ、ね。とりあえず二月いっぱいを予定しているって話だね。進行状態によれば、もう少し猶予が持てる」
「ふぅん。どんな内容かは知らないけど、クリア出来そうならもう少し時間を使っていいよ、って?」
「そういうこと」
まぁ、一体のモンスターを討伐するだけに、一週間以上をかけられるのだから、ゲームとしてはなかなかの長期間ではないか。
「だから、今は卵に思いを馳せるのよ。もしかしたら森の街でのクエストクリア数が関わっていたり、なんて要素もあるかもしれないし」
「そういう要素があれば、アタシの誘いも無駄ではないんだけどね」
詳しく聞きたい? 面倒事に巻き込まれそうで嫌。そんなやり取りをしながら、マップを頼りに進んでいく。辿り着いたのは、他と何ら変化のない森の中であった。
「マーカーの位置的に、この木だね」
「周りの木と何ら変わらないように見えるけどねぇ。木の上に巣があんの?」
「飛んで確認してみようか」
飛行魔法を使って飛び上がると、他の場所とは違い、葉に囲まれた枝の中にまで入り込むことができた。
ジャングルジムのような構造をしているのか、足場に困ることはなさそうであった。身を屈ませなければ身動きが取れないほどの狭さではなく、枝と枝の間は人が充分に動けるほどのスペースがある。
「うっわ、これ、見た目どうなの?」
私は思わず言った。何故なら、まるで海ぶどうのように鶏の卵が密集し、一部の枝に付着していたのだから。
「卵のパックぐらいなら何とも思わないけど、これだけ集まるとちょっと怖いなぁ。もしもだよ? これが一斉に割れてご覧? 中身がだら~、だよ?」
「やめてよ、そういうの想像させるの。寸胴のなかに大量に入れた生卵も、なかなかゾッとするっていうのに」
私が熊屋で仕事をしていて、唯一憂鬱になったところはそこだろう。大量の白身のなかに浮かぶ黄身、それがなんだかカエルの卵を連想させて――と、いかん。これ以上は食欲が減退させられる。
「まったく、この鬱憤、蛇に向かって晴らすから」
そう宣言をして、私はまるで蚊の羽ばたきのような不快な音を撒き散らす、羽根の生えた巨大な蛇を視界に捉える。
ヘビーガンナー。尻尾からレーダーを照射して照準を合わせ、口から弾丸を発射するモンスターだ。
「やりすぎて、周りの卵を破壊しないでよ? アタシらの報酬、減るかもしれないし」
「任せてよ。私、料理には自信があるから」
さぁ、虫でもないのに自ら火のなかに飛び込んでしまう哀れな蛇よ。煮るなり焼くなり、好きにやってやるから頭を垂れて待っていろ、ってね。




