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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
モンスターの進化はちょっと待って!
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74/80

74.森へ

 モンスターとの戦闘はそこそこに、私たちは仕事を優先するべく森の街を目指した。


 川沿いに空を飛んでいけば良いだろうと、三人揃って鳥になったまでは良かったのだが、森を眼下にしたところで途方に暮れた。


「どう? 見えた?」

「全然だめです」


 ロンドは両手を上げてギブアップ。ガイアはまだ粘って忙しそうに周囲を飛び回っているが、私の目からしても、それは無駄な努力に終わりそうだ。


「木々に隠れて、街が全く見えないなんてねぇ」

「降りてみても、分厚い葉に拒まれて地面には降りられないですしね。葉っぱの上に立つとかファンタジーですもん。結界みたいなもの、ということなんですかね?」

「砂漠の街が砂に埋まっていたくらいだし、そういうこともあるか」


 ため息をつく。結局のところ、川伝いに森に入らなければならないってわけだ。


「ロンドちゃん、午後から予定があるんです。はぁ、森の中までは入られると思ったんだけどなぁ」

「残念。順序を間違えたってことかな。ま、私が街へ辿り着いたら、サクッとワープで連れて行ってあげるから」

「では、適当なところにテントを張ってログアウトします。ガイア、じゃあねっ!」

「あ、もう行くんすか? じゃ、また」


 手を振って別れると、私とガイアはもう少しだけ森の上をランデブー。


「ガイアは今日、どのくらい?」

「俺も午後から用事があります。大学へちょっと」

「学生も大変だなぁ。農業の方は?」

「動いている畑は、協力してくれている親戚がある程度やってくれているんすよ。俺は今のところ、その手伝いと温室やビニールハウスの片付けですかねぇ。草ボウボウで大変なんすよ」

「温室なんてあるんだ」

「ええ。じいちゃん、手当たり次第に作物を作ろうとしていて、〈ヨナ農園〉って名前をつけていたんすよ」


 様々な設備を整え、各都道府県の名物やらなんやらを育てる計画だったらしい。そこから、四十七、ヨナ。奥様の名前でもあるらしい。温室では主にイチゴやメロン。その夢は、孫に託されたというんだから爺孝行なのだろう。


「苗を育てるためにも使えますし、なるべく早く終わらせたいっすねぇ。来年にはイチゴを育てられたら良いんすけど」

「クリスマスには間に合わせないの?」

「その手前の、カボチャを目指しているんで」


 巨大カボチャを作って、大きさを競う大会に出場したいらしい。夢があるのは良いことだ。


「美味しいカボチャも作るなら、コロッケにしたいところだけどね」

「そうなれるように頑張ります」


 期待している。そう声をかけて、ガイアもログアウトするために去っていった。


 さて、と。


「先ずは川に戻って、森に入りますかね」


 少し伸びをして、遠くの方へ目を向ける。目が疲れた。緑ばかり見ているのに。昼食のデザートには、ブルーベリーのジャムを載せたヨーグルトを追加しよう。


 森に入ったところでテントを設置してログアウトし、愛犬との戯れに癒されたら再びログイン。戦闘を繰り広げる他のプレイヤーを横目に、私は川に沿うようにして森の中を進んでいった。


 出現するモンスターは、昆虫が多かった。


 炎を吐くカミキリムシだとか、鎌鼬を発生されるカナブンだとか。攻撃方法はなかなか特殊なのだが、強さ的にはそこまでではない。

 ライオンだとか、サイほどある大きさには驚きはしたけれど、バインダーバレルの手数に任せれば、あっという間に黒い霧に早変わり。


「それでも、どこか愛嬌のあるデザインになっているのは流石の仕事、と言ったところか」


 そんなデザイン担当のために、お仕事お仕事。あぁ、探索のついでに、今後のためにチケットを集めておこうか。


「……すみませーん」


 のんびりと川辺りを歩いていれば、困ったように眉尻を下げた女性が話しかけてきた。


「えっと、何かお困りで?」

「はい。困ってます。ほら、あの木」


 細い指の先を見ると、まるで梯子のような枝振りの木が生えていた。左右の枝から、一本ずつ蔦が垂れ下がっているのが確認できる。


「あの蔦を、同時に引っ張ってみたらどうなるんだろう。なんて思ったのですが、あいにく私はひとりきり。両手を伸ばしても蔦には届かず。でも、気になって仕方がない。……この気持ち、判ります?」

「判ります」


 小さなことが気になって仕方がない。これは避けては通れない道だ。


 私は彼女に頷いて、左側の蔦を担当した。


「せー、のっ!」


 彼女の掛け声で同時に、下方向へ引っ張る。すると、どうだろう――。


「……何も起こらないね」

「ですねー。すみません。お手を煩わせてしまいました」

「いえ、なんかこういう仕掛けもあるのかなぁと、参考になりました」

「そう言っていただけると幸いです」


 物腰が丁寧な女性に別れを告げて、私はまだまだ川沿いを歩く。


 川エリアを表す川は、大きな中州が幾つもできるほど大きな川だった。けれど、森に入ってからはどんどんと細まり、今では風光明媚な渓流を思い描かせる。


 天井はすっかり木に覆われて日差しもないのに、周囲は暖かな光に覆われて鮮やかな景色が堪能できる。


 木々の間には色とりどりの花が咲き誇り、苔の絨毯が青々と美しい。けれど鮎はいない。解せぬ。


 メニューを開いて地図を確認するけれど、まだ全体の半分も進んでいないだろう。少しはスピードアップになるだろうか。木々を縫うように宙を跳ぶ。


 襲い掛かるモンスターは、バインダーバレルの弾幕の餌食になる。苔に覆われた遺跡を見物し、何か仕掛けがないかと探ってみるも、特に何もない。


 やはり川沿いを進む。それは何故か。理由は単に、文明というものは川沿いから始まるものだ、との先入観があるからだろう。


 現に川の街では、プレイヤーが自ら創り出すという仕様になっている。川から支流を作り、そこに街を創るのだ。

 砂漠の街では今、有志を募ってその計画を立てているところだという。どんな街になるか、楽しみに経過を見守っていこう。


 夕方が迫ってくるが、まだまだ街は見つからない。どこかにヒントが隠されているのだろうか。それを探りながら進んできたつもりだったのだが、なかなかそれらしきものも見当たらない。


 日が暮れてきて、川は蛍の光に彩られた。


「蛍を見るだなんて、どれくらいぶりだろうなぁ」


 昔は地元にも蛍が出没する場所があった。子供の頃には、足を運んだ覚えがある。いつから、その場所に足が向かわなくなったのだろうか。


 その考え自体、頭の片隅にもなかったように思う。そうして、其処は今はどうなっているのだろうか。まだ見られのだろうか。そう思っては寂しくなる。


 それでも足が向かないのは、縛られるものが多いからだろうか。休日の賢い使い方を、あれこれ考えてしまうからだろうか。


 動く前に考えてしまうのは、大人になった証拠なのだろうか。子供のように、無邪気に駆けずり回れたら、街も直ぐに見つかるのだろうか。


 私は少し寂しくなって、愛犬の姿にかつての無邪気な自分を見ようとした。



「ブロッコリーでも、茹でて食べようかな」


 夕食の調理。ご近所から頂いた立派なそれを、水の張ったボウルの中に浸して振る。

 気分はまるで、抹茶を点てているかのようだ。


「ははっ、このみっちり詰まった感じ、まるであの森みたいだ」


 上からは中の様子がまるで見えないし、中に入ることもままならない。蕾の密集具合は、まさにあの森を連想させた。


「でも、しっかり洗わないと。虫がいたら嫌だしね」


 何しているの? ウーフがピタリと足に寄り添う。


「後で一緒に食べようね」


 濡れた手を拭いて、その頭を撫でる。その時、ふとある考えが頭に思い浮かんだ。


「草原の街は草原にあって、山の街は山にあって。海の町は――海の上?」


 隠されていない街はいずれも、その名の冠する場所にあった。では、森の街は森の中? 上からは、結界のようなもので何も見えない。


「まさか、……ツリーハウス?」


 梯子のようにも思えた木は、正しく梯子だったのではないか。私は急いで調理に取りかかった。

 気になる事を、放置しておける性分ではないのだ。でも、食事は大事。愛犬とのひとときも大事。お楽しみにも、優先順位はあって然るべき、ということで一つ。

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