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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
オフ会と疑惑の館
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71.そうして平穏へ

 朝、私は一番に目が覚めて、初めて雫月の寝顔を見たように思う。


 頬を突いたら重々しく瞼が上がり、私はにこやかにその虹彩を見る。じっくりと見たことがなかったけれど、やはり、ゲームの中とは違っていて新鮮だ。


「ふぁあ。朝っぱらから、ご機嫌ねぇ。こっちは疲れているってのに」

「ふふっ、雫月とニーナのお陰で、欲しかったものが手に入ったんだもの。喜んだって良いでしょう?」


 目を擦りながら上体を起こす彼女を横目に、私は着替えを進める。


「まさかエクストラクエストの報酬が、身代わりアイテムを作るために必要なものだったなんてね」


 伸びをしながら、雫月が言う。そう、だから私はご機嫌なのだ。


 雫月とニーナの頑張りによって、谷間の館で巻き起こるエクストラクエストはクリア出来た。その際に手に入ったのが〈化けぎつねの毛〉というアイテムだ。


 これと他の素材を組み合わせてクラフトすると、一度だけゼロになった体力ゲージを復活させるアイテム、〈カラギツネの人形〉が完成する。


 日を跨げば効果が復活する、素敵なアイテムだ。


「あぁ、本当に気分がいい。欲しいと思っていたものが思いがけずに手に入るのって、本当に気分が高まるよね。脳汁が出るっていうの?」

「まぁ、そうなんじゃない? あのエクストラクエスト、恒常的に解放されるらしいし、今頃は新しい街を解放するためにボスを倒すか、挑戦するかみんな悩んでいるでしょうね」


 強力なアイテムを入手して新たな街を目指すのか、それとも新たな街を解放してから強力なアイテムを入手するのか。


 素敵な悩みだと私は思う。なんて、高みの見物。


 テントから出ると、清々しく晴れていた。日差しはまだ遠いが、雲一つないことは判る。背後に聳える山に登れば、気持ちのよい朝日が望めるだろう。


 私の後に続いて、テントで寝ていたウーフも一緒になって外に出た。散歩に向かう準備は万端である。


「おっす。散歩に行くんだろ」

「最後に散歩について行ってやろうと、待っていたぜ」

「お付き合いするっす!」


 雪斗、海斗、大地の順で片手が上がる。いつの間にこんなに仲良くなったんだ、というほど息が合っていた。


 昨日の王様ゲームか? 途中から不参加になった私には、判らない何かがあったのだろう。


「昨日、私とカレンが抜けて何かあった?」

「丁度、人数があったからな。合コン的な楽しみをした」


 ニヤニヤと海斗が言う。……少し勿体ないことをしたかもしれない。


「舞は流石アイドルというか、盛り上げ上手だったな。会話もよく回していたし」

「そこがロンちゃんのいいところっすからね。雪さんも惚れちゃいました? 海斗さんは、かなり空回っていたっすけどね」

「それは俺たち全員だろ? 合コンなんて久し振りで、テンションが上がったってさ」


 ふぅん。


「みんな、舞にベタ惚れなんだ」

「ヤキモチか?」

「別にー」


 ふんっ、と雪斗にそっぽを向いて、私の気持ちを察したのかウーフが加速する。


 次に此処へ来る時は、女性だけにしておこうか。そんな事を考えながら、此処での最後の散歩は終わった。


 七時半から九時までの朝食ビュッフェを存分に楽しむと、チェックアウトの時間までは残り一時間となった。


 帰宅の準備を諸々済ませ、残り三十分。名残惜しそうにしばし旅館の中を彷徨いて、ついにその時が来た。


「モカちゃん。また来てね」

「お世話になりました。楽田さん」


 お土産、と渡されたバナナのお菓子をみんなに配り、見送られながら旅館を出る。


 私と雪斗は車。他のみんなは待たせているタクシーに。


「このまま別れるのは、なんか勿体ないよねぇ」


 いざお別れ、と言うタイミングでニーナが言う。


「勿体ないって言われても……、私はウーフを連れて帰らなくちゃならないし、雪斗にも車を出してもらわないといけないし」

「あぁ、そうか。ウーフちゃん、連れ回したら悪いもんね」


 指を顎に当てて、何やら思案し始める。


「よし、決めた。この機会に熊屋に行ってみよう。他に行く人は?」

「はぁっ!? ちょ、今から静岡に来る気?」

「うん。上手く新幹線に乗れれば、日帰りできるでしょ?」

「いや、まぁ、そうだけど」


 それにしても、行動力凄くない?


「俺も行ける。折角だから、千尋の家業でも見に行ってやるか」海斗が手を上げる。

「日帰りなら、まぁ、行けるっすね」大地も手を上げる。

「舞も行けまーす。あ、サインを書くので、良かったら飾ってください」

「まぁ、久し振りに実家に突撃してみようかねぇ。怒られるだろうなぁ、連絡くらい入れろって。いや、今からでも遅くない? お土産いっぱい買っとこ」


 舞と雫月も手を上げて、残りはカレン一人。


「勿論、私も行きますよっ! 無駄に有給を取得していますし、静岡、帰りに伊豆に寄り道。あの崖を見ずして帰れませんっ!」


 カレンって、その手の二時間ドラマを見るのが好きなのだろうか。


 瞳をたぎらせる彼女が振り上げる拳に合わせて、みんなも天高く拳を抱えている。……なんだ、この集団。


「観光名所なんてあんの?」

「いや、まぁ、城とか神社とか、お寺はいっぱいあるよ」


 団子が名物。その答えに、海斗は少し不満そう。求めているものはそういったものではないらしい。


「少し足を伸ばして、楽器の博物館とか」

「あ、それは興味ある」

「舞もいろんな楽器を見てみたいでーす」


 あここ、閉館時間は何時だったっけ? と頭を悩ませながらも、各人揃ってタクシーに乗り込んでいく。


「じゃあ、熊屋で会おうっ!」


 雫月の言葉だけがその場に残る。


「……みんな、強くない?」

「星の巡りが、良かったんだろうな」


 格好つけやがって、と軽く雪斗の踵を蹴る。先に車に乗っていたウーフが鳴いている。夕方の散歩は、賑やかになりそうだ。

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