68.ロール
思いがけず、大量に現れることとなったゾンビ。
ログアウトすれば改善されるかもしれないと、みんなでログアウトし、旅館の近くにあるという牧場を観光して、時計の針は十二を越えた。
肉がメインとなった昼食のビュッフェを楽しみ、再びみんなでログイン。食堂の窓から経過を確認した。
「滅茶苦茶いるじゃねーか。玄関、ちゃんと鍵かかっているか?」
「言い出しっぺのカイユウが調べてみたら?」
「死亡フラグじゃねーかっ!」
まぁ、館に戻った時点でしっかりと施錠したのを確認したから、それについては安心してほしい。
ログアウトする前に一通り戸締まりは確認したし、外から何かが侵入するということは、まず不可能だと思う。
窓から離れて、それぞれ思い思いの席に着く。
「外からの侵入者がゴーレムを襲ったのかと思ったんだけどさ、その外を調べていたらゴーレムが現れたという」
もう一度説明をすると、誰はともなくため息をついた。
「それに加えて、もう一体のゴーレムがやられたと言うね」
ユキの言葉に、一体どういう状況だよ、と突っ込みを入れたくなってくる。
倒れたゴーレムが発見されたのは、二階の廊下だった。その頃、私とロンド、ユキとカレンは一階、食堂と外にいて、二階ではカイユウとガイアが図書室を探り、ミクとティアはビリヤードで遊んでいた。
「二階組は、なにか不審なものを見なかったの?」
「俺とガイアは片っ端から本を読んでいて、まったく気が付かなかったな」
「図書室には二体のゴーレムが居たんすけど、特に変わった様子はなかったっすね」
「アタシらは、ただ遊んでいただけだしねぇ。ね、ミク」
「そうそう。トリックショットの練習をして、気分転換にダーツを投げて」
廊下に注意を向けてたものは、いなかったというのか。
「一先ず確認したいことがあるから、みんな着いてきてもらってもいい?」
声をかけて、みんなを立たせる。そうしてロンドと共に先導をして、厨房へと移動した。
「ここを調べたのは私たちだけだったし、私たちだけが使えるものがあったとしても、気が付くことはなかった。みんなもこの厨房が使えるのか調べてほしい」
カイユウとガイアはコンロの前に立ち、摘みを回して火をつけた。ティアとミクは冷蔵庫を空けて中を確認している。ユキとカレンは棚をあけて、食器や調理器具を確認しているようだ。
「おい、ちょっと卵があったら出してくれ。それと、フライパン」
カイユウの声に、ユキがコンロの下から取り出したフライパンを差し出す。ミクが卵を持ってきた。
「熱したフライパンに卵を落とすと……」
「待って、せめて水でも入れておかないと――」
充分に熱せられたフライパンのうえに、白い殻から零れ落ちた卵が落ちる。直ぐに火が通って固まるかと思いきや。
「火が、通らない?」
「やっぱり、料理人にしか料理はできないらしいな」
柄を差し出され、私が握ると一気に火が入る。
「うわー、黄身まで一気に固まった。白身は焦げているし、勿体ないっね」
「焦げた部分を残して取り出して、タルタルソースにでもすればいいでしょ」
ガイアの言葉に笑って返し、カレンに取ってもらったボウルに火の通った玉子を移す。
「だが、これで明らかになったな。医者はゴーレムの状態を確認できる。料理人は調理が出来る。ロールにはそれぞれ、出来ることがあるってわけだ」
「雑誌記者は、やっぱり図書室の本?」
チッチッ、とカイユウは指を振る。朝、私がやった事をそのまま返しやがった。
「そう思うのは、おそらく誘導だろうな。雑誌記者が真っ先に調べなければならない本は、別にある。穿った見方かもしれないが、やっぱり個人情報は調べないとな」
……日記帳かっ!
カイユウとガイアが分担をして、八部屋それぞれにあった日記帳を調べた。
私の部屋にあったものには、私が記入したせいで文字が重なり、読みづらくなってしまったのは申し訳ない。
「朗報だ。ゴーレムの中にも、俺たちの中にも化けぎつねはいない」
食堂に集まって、二人の報告を聞く。
「自分の部屋の日記帳には、何も書かれていないってのが嫌な仕掛けだよな。日記帳には過去にこの館に滞在した人物の記した情報があって、そこに集まった八人は、ゴーレムがみな倒れたあとに自分たちに起きた変化をギリギリまで書いていた」
曰く、館にいるゴーレムが全て倒れると、招待された八人が次のゴーレムとなる。招待客が倒された場合でも。では、招待状を送ってきた者は? 父親の代わりにステーキを焼きたいとクエストを送った人物は?
それが化けぎつねだ。
「そこから先はさっぱり判らんが、調べる指針にはなるだろう」
「少なくとも、それぞれの行動やゴーレムの行動に気を配らなくてもよくなったっすよね」
「問題は、犠牲になるゴーレムはどうやって決められているか、じゃない?」
ティアの疑問にガイアが答えた。
「どうやら、目撃者がいないゴーレムが犠牲になるらしいっすね。つまり、なるべくゴーレムとは一緒にいたほうが良いみたいっす」
なるほど。最初のゴーレムは食堂に人がいなかったから。二体目のゴーレムも、廊下には誰もいなかった。
「ゴーレムは残り六体だから、六人がそれぞれをマーク。残り二人が化けぎつねを探る。って感じ?」
そう投げかけると、カレンがウキウキとした表情を見せて手を挙げた。
「それなら、探索する方の一人に医者がいたほうがいいと思います! ほら、ゴーレムが倒れた時に、確認に動ける医者が一人いないといけませんよね?」
「確かにそうだな。雑誌記者の役目はもう終わったかもしれないし、俺とガイアはゴーレムのマークでいいだろう」
「ちぇー。もう少し探索したかったんすけどね。本を読んでばかりだったし」
残念がるガイアだけど、それは仕方がない。
すると、まだ役目を果たせていないのは料理人と遊び人、だろうか。
「もしかしたら、料理人も役目を終えているかもしれませんよ」
ロンドが手を挙げる。
「あ、もしかしていなり寿司? お揚げを調理し終えたら、役目も終了。ってことなのかな?」
「厨房で怪しいところと言えば、それくらいでした。また新しい発見があるとも思いませんし、冷蔵庫に入れたいなり寿司をたまに確認するくらいでいいと思います」
となると、医者と遊び人の組み合わせとなる。
ティアとミクによる熾烈なじゃんけん対決のあと、その勝者はカレンと共に食堂を出ていった。
「くそぅ。ダーツでも外すし、ビリヤードもポケットに入れられないし。じゃんけんも負けるなんて散々だなぁ」
「あ、じゃあミクは当ててたの? ティアって集中力があるし、あの手の遊びは得意そうだと思ったんだけど」
「ダーツは揃って外したけど、ビリヤードはポケットに入れられた。経験があるんだってさ。私は初めてで、キューの持ち方から教えてもらったから」
ゴーレムが遊戯室にいたら、練習してやるんだから。そう言ってティアも食堂を出ていった。
そうして、次々にゴーレムを求めて食堂を出ていく。残ったロンドと相談をして、私が食堂に残ることにした。
「もう一度、みんな集まる機会があったら。いなり寿司を食べてみようかな」
外のゾンビは、変わらず元気だ。




