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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
オフ会と疑惑の館
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67/72

67.まるでパニック映画

 朝食を楽しみ、ログインした私たちを待っていたのは、一晩おいて館に変化がなかったかどうかの確認だった。


 自然とロールごとにペアを組んで、思い思いの場所を調べていく。食堂は特に変化がなく、厨房にもない。冷蔵庫の中のいなり寿司も、ちゃんと六十個揃っていた。


 大浴場へ移動すると、そこでは二体のゴーレムが変わらず掃除をしている。一体減った食堂が、なんだか淋しげに思えてきた。


「やっぱりさ、何かに化けているってのが正しいのなら、食堂にいると思うんだよな」


 一緒に浴槽を調べていたユキが言う。


「カレンもそう思う?」

「あの場で攻撃を受けて倒れたのなら、と考えれば、やっぱり食堂しかないと思います」


 彼女が持つシャワーヘッドから、勢い良く水が放たれた。ゴーレムの足元に水が広がっていくが、特に気にした素振りを見せることはない。


「でも、特に怪しいものはなかったですよね?」

「うん。ロンドと一緒に見て回ったけれど、化けていそうなものはなかったけどなぁ」

「そもそも、どうやって化けているかどうかを見破るのかが問題なんだよ」


 浴槽の掃除をしているゴーレムの肩を、ユキが叩いた。


「こうやって反応しないのが正常なのか、おかしいのか。それすらも判らない。このエクストラクエストの発見者さん。もう少し知っている情報はないのか?」

「ない。……でも、怪しいと言えば依頼主の状況だよね」


 そう言うと、ユキとカレンはハッとしたような表情を浮かべた。


「たしか、父親の耳が聴こえなくなって、上手くステーキが焼けなくなった。代わりに焼きたいから上手な焼き方を教えてほしい、ってクエストがトリガーだったか」


 ユキの言葉に頷く。


「弟たちに焼いてあげたいんだ、ってね。モンスターに襲われて……って話だったから、もしもその父親がここの執事であったとしたら」

「化けぎつねの攻撃で耳が聴こえなくなっていた?」

「でもカレン、聴こえないだけなら叩けば反応するだろ。そもそも、こいつらはゴーレムだぜ?」

「それ、化けぎつねのせいでゴーレムになっているんじゃないですかね? あ、だからゴーレムは全滅したらいけないんだ。変化させられている人たちが……」


 カレンの言葉で、私たちの顔が僅かに歪んだ。


 ちょっと、シナリオが重すぎない?


「ま、まぁ、化けぎつねを退治すれば、みんな元通りになるかもしれないからな。とりあえず、解決に尽力しよう」

「そ、そうだね、ユキ。とりあえず、食堂をきちんと調べてみる?」

「そうだな。行こう、モカ」

「うん。ロンド、カレン、行こっか」


 何事も前向きに。そうして四人で食堂に向かい、改めて何か変化はないかと調べてみた。


 置いてある家具に変化はないし、食器類にもおかしな所はない。それは何度も確認していることであって、最早お馴染みの光景になっている。

 掃除をするゴーレムも、特に怪しい行動は見られない。


 息抜きも兼ねて、と窓を空けて外を眺めてみる。


「窓の外から忍び込んだ、という可能性はあるのかな?」

「あ、館の何かに化けているのなら、外にある何かの可能性もあるんですね」


 館のドアに化けていた、なんてことがあれば、私たちはもう、この館から出ることができないのかもしれないし、館の敷地内にあるオブジェに化けていることも……なんて。


「そう言えば、だけど、館に入ってから外に変化があったのか、なんてのも確かめていなかったよね」

「外に出たら、通常のフィールドなのかどうか。それも確かめてみたいですね」


 まだ食堂を調べるというユキとカレンを置いて、私たちはエントランスに出る。玄関の扉は、何の抵抗もなく開いた。


 外に出て、再び玄関を開ける。食堂を覗けば変わらず二人が居た。踵を返して再び外へ。


「見てくださいモカさん。普段の谷間の館だったら、順番待ちの列ができるのが当たり前なのに」

「確かに誰も居ないね。宝箱が出現しやすい場所で、一人づつしか入られない場所だから行列は必至」


 なのに、館の前には人っ子一人いない。


「やっぱり、エクストラクエストの最中は特殊ってことなんですかね」

「館の周りを歩いてみようか」


 右回りでぐるりと回る。館の周囲は崖に囲まれていて、谷間であることがありありと窺える。館以外に建物はなく、庭のようなものも存在しない。


 建物の外観にもオブジェのようなものはなく、あるとすれば屋根の上に備え付けられた風見鶏くらいだろうか。


 窓を覗くと、そのほとんどがカーテンによって遮られる。


「それぞれの部屋も調べないといけないのかな?」

「ロンちゃんは、自分である程度は調べたんですけど……。でも、なんか人を疑っているみたいで嫌ですよね」

「そう言うゲーム、って事なんだろうね。ロンドはそう言うゲーム、やらないんだ」

「ライブでアイドル仲間とやったくらいですかね。この中に一人だけ犯人がいる――って。みんな爪痕を残そうとして、すごい展開になりました」


 詳しく聞きたいような、聞かないほうが良いような。


「まぁ、必要なときが来たら、でいいと思うけどね。今は多分、化けぎつねがどういったものかを調べないといけないと思う。重要なのは図書室だよね」

「雑誌記者にしか判らない要素、あると思います?」

「判らないけど……、そうだ。まだユキとカレンは食堂にいると思うから、厨房に連れて行ってみようか」

「あ、そこで私たちにしかできないことがあるかを調べるんですね」


 その通り、と頷く。

 もしもそんな要素があったとして、図書室の蔵書は二人ですべてを確認するのは大変だろうけれど。


 私が使っている部屋を通り過ぎて、食堂の窓が見える。ここもカーテンがしっかりと閉じられているが、軽く叩けば気が付いてくれるだろうか。


 私とロンドはノックの要領で窓を叩く。すると、カーテンが勢い良く開いた。


 窓から窺えるカレンの表情は、とても驚いたものだった。突然の物音にひどく驚いたのだろう。申し訳ないことをしたと、片手を上げて謝ったポーズをする。


「驚かせちゃいましたね」

「だね。でも、落ち着いたみたい。あはは、心を落ち着かせるときって、本当に胸に手を当てるんだね」


 しかしその姿を眺めていると、落ち着いたように見えたその表情が徐々に青ざめたものへと変わっていく。

 何があったのだろうか。ゆっくりと、彼女の指先が私たちの背後へと向けられた。


 それに合わせて、ゆっくりと振り返る。


「きゃぁぁぁっ!?」


 悲鳴を上げたのは、おそらく同時だった。

 互いに身を寄せて、目の前には現れた光景に口の端を引きつらせた。


「ぞ、ゾンビが居ますね?」

「い、居るね。私だめなんだよ、こういうホラー的なの。うわぁ、なんか、質感がグチャッと……してる?」

「やめてくださいよモカさん。でも、こう言う生々しい――のかな? まぁ、兎も角こう言うものは慣れていると思っていました」

「家が肉屋だった頃は、一頭分仕入れて切り分けたりもしていたらしいよ? でも惣菜屋になって久しいし、私はその頃のことを憶えてないし!」


 だから、あまり生々しいものに免疫はないのだ。


 でも何だろう、そんな苦手を感じ取っているのか、表現が若干マイルドの様な? 突然の出現に驚きはしたけど、そこまでグロテスクではないような?


 これなら……いけるか?


「でも、女は度胸だよロンド。ここはゲームであって、私たちは武器を持っている。きっと、立ち向かえる」

「え、モカさんっ!?」


 私は刀を構えて駆け出した。狙うは首。一刀のもとに切り捨てるっ!


 その時、私はあり得ないものを見た。

 普段のモンスターは、攻撃によって切断されることはまずない。例外があるとすれば、ダイワームの節を切り離したりだとか、部位攻撃の際に脱落したりだとか、そう言ったものくらいだ。


 頭部が落ちて、私はあるモンスターを思い出した。


 砂漠で出会ったマキシマムゴーレムは、頭部を逃がして新たな身体を装着しようとしていた。

 つまり、首が落ちるということは、終わりではないのではないか。


 そんな考えが刹那のように浮かんできた。

 首はゆっくりと地面に着地し――。


「身体が生えたっ!?」

「首が生えたっ!?」


 私とロンドの声が同時に響く。目の前の身体からも、新たな首が生えていた。


「ロンド、ガトリングで粉砕してっ!」

「わ、判りましたっ!」


 その時、私たちは混乱していたのだろう。そして、その後に起きた惨状によって、さらにパニックに拍車がかかる。


「破片がすべて、ゾンビになりましたーっ!?」 

 

 朝には少々、ハードな展開だ。これは多分、昨日のうちにやっておくべきだった。

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