65.発見
「こんなカードが残されていた」
倒れたゴーレムを調べていたユキが、一枚のカードを私達に見せた。彼とカレンは既にそれを読んだらしく、そのカードは私の手に渡る。
軽く読んでみると、それは今更なの? と思ってしまうようなこと。
「そう言うことね」
カードには、二つの言葉が書かれていた。
〈勝利条件 化けぎつねの討伐〉
〈敗北条件 ゴーレムの全滅〉
「ここに来てルールの発表なんですね」
覗き込んでいたロンドに頷いて、カードをまだ見ていない四人に渡す。
「ここでゴーレムを倒したやつが置いたのか?」
「私たちが厨房にいた間に、誰かが?」
カイユウの言葉に反応を返す。
「もしくはお前が?」
心では何とも思っていないのに、お互いにバチバチとした雰囲気を醸し出したくなっているのは、場の状況に当てられているからだろうか。
お互いに笑顔を浮かべて、このやりとりを楽しんでいる。
「そうとも限らないんじゃない?」
ティアがその場を離れ、窓際に立っていたもう一人のゴーレムに近付く。その後を追ったガイアと、会話が始まった。
「ほら、胸ポケットに同じカード。つまり、誰がやられたとしても、このカードは現れたわけだ」
「と言うことは、やられるのはゴーレムだけで、俺達が攻撃を受けることはないんすかね?」
「どちらが先に攻撃を受けたか、で変わるのかもしれないけどね。ほら、アタシ達には招待状がある」
「あ、ロールが現れたように、またなにか表示されたかもしれないと」
そこで一つ、ゲーム性が変わったかもしれないのか。
ミクも同じ事を考えていたようで、こう話す。
「じゃあ、さ。私達はゴーレムを守ることを考えていればいいのかな? それとも、化けぎつねはゴーレムに化けているとか?」
「それを見分ける方法があれば良いんだけどね。それより、丁寧に話すのはもう完全に諦めたの?」
「……そんな事、ないですよー、モカさん。私、とっても丁寧な話し方をしますのよ?」
ブレてるブレてる。カイユウと二人で笑った。
閑話休題。窓際のゴーレムを調べていたティアが、両手を上げて応える。
「一番怪しいのはこのゴーレムなんだろうけど、触っても何の反応も示さない」
「ズボンのポケットには何も入っていないし、お尻に尻尾もないっすね」
よって、このゴーレムには不審な点はない。そう結論付けるように、二人が私たちの下へ戻ってきた。
「どんな攻撃を受けたのかが判れば、対処のしようがあると思うんですけどね」
倒れていたゴーレムを調べていたカレンが立ち上がり、私たちの側へ来る。
「何か、物音とかしませんでした?」
「まったく」
「ロンちゃんは、団扇を扇ぐのに夢中でした」
「音も気配もなく、行動に移したのかな?」
「ねぇ、一先ずだけど、この話はログアウトしてからにしておかない? このクエストの仕様で、発言に気をつけないとならない、みたいなことがあったら正直に話せないこともあるでしょ」
だから、私はこの会を利用した。少なくとも、私達の中に異変があった場合、直ぐに判るように。
けれど、ユキがちょっと待ったと手を挙げる。
「いや、その前にある程度他の場所も調べておこう。ゴーレムが倒れたあとで、何か変化があったかどうかの確認。そんで、ログアウトしてから再びログインしたときに変化が起きているか、確認できるように」
そうして、それぞれがまた、思い思いの場所を調べるために食堂から出ていった。
「なんだかんだ、ロールごとに分かれて動くようになった感じかな?」
「そうみたいですね」
自然と取り残された私とロンドはそう話し、一先ず食堂の中を調べることにした。
テーブルの配置、椅子の配置。棚のなかの食器類に至るまで、特に変化はないように思う。厨房の中も確認したが、特に変化はなし。
「酢飯、油揚げに詰めちゃいます?」
「そうだね。お揚げが減っていないかも確認したいし」
「あ、いくつあるか数えていたんですね」
「ううん。雰囲気で判んないかなぁって」
適当だなぁ、と呆れられながら、手分けして油揚げに酢飯を詰めていく。
私がある程度の大きさに酢飯をまとめ、ロンドがそれを油揚げに入れる。それをバットに並べていくと、六十個のいなり寿司が完成した。
一つのバットに二十個ずつ並べ、計三つ。それを冷蔵庫にしまっていく。
「これで勝手に減っていたら、化けぎつねが厨房に忍びんこんだ証拠になるね」
「うぅ、早く食べてみたいけれど、それも確認したいですしねぇ」
「でも、どうせ食べるのならもう少し置いたほうが美味しいよ。その方が、お揚げと酢飯が馴染むから」
「なるほど」
食べるのは明日、確認と同時にみんなで。
そう話して、私たちも食堂以外の場所を調べてみることにした。
大浴場では、変わらず二体のゴーレムが掃除をしていた。念のために胸ポケットを確認してみると、勝利条件と敗北条件が書かれたカードが収められている。
「誰がやられるかは、ランダムだったんですかね?」
「調べて、そうだと判断できれば良いんだけどね」
二階へ上がると、廊下を掃除するゴーレムが二体。ティアとミクが胸ポケットを調べていた。
「やっぱり、気になっちゃう?」
話しかけると、二人は頷いた。
「そう言えば、って思ってね。しっかりと入っていたよ」
「このゴーレム達、掃除をしている場所が決まっているみたいですね」
食堂、大浴場、廊下、図書室。ミクが指折り数え、その四カ所だと教えてくれた。
「じゃあ、大きな部屋でいうと、遊戯室だけは掃除されていないんだ」
廊下の先、その部屋の扉の方へ視線を向ける。すると、対面する図書室の扉が開き、二体のゴーレムが姿を表す。そして――。
「遊戯室に入っていったね?」
「……時間によって、変わるだけかも」
ミクは結論を出すには早かったかぁ、と頭を掻いた。
背後で、扉が開く音が聞こえた。振り向いて確認すると、反対側に伸びる廊下の先で、扉から顔を出すユキの姿が。
「廊下が騒がしいと思ったら」
続いてカレンも顔を出して、部屋から出てこちらに向かってきた。
「二階の部屋を調べていたの? 確か、四部屋あったよね」
「そう。ゴーレムの部屋みたいだな。ベッドも一つづつ追加されていた」
「おかしなところはあった?」
「何もない」
カレンも首を振っている。
「図書室を調べているあの二人が、何か見つければ良いんだけど……」
ミクが呟いたその時、その図書室から「見つけたっ!」との声が響いてきた。
慌てて図書室へ向かい、扉を開ける。中でカイユウとガイアが、テーブルに置かれた一つの本を開いていた。
「何かあったの?」
そう問い掛けると、振り返った二人は満面の笑みを浮かべて、こう答えた。
「伝記があった!」
……それ、今じゃなきゃ駄目?




