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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
オフ会と疑惑の館
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64/65

64.始まる異変

 館の中、玄関をくぐれば、豪華なシャンデリアによって照らされたエントランスが広がる。前に来たときには気が付かなかったが、なかなか作りの凝ったデザインだ。


「あのシャンデリアが化けぎつねで、隙を見て真下にいる人物を下敷きにする。なんて、ありそうじゃない?」


 ミクが悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。


「ホラー映画みたい。化けぎつねというより、悪霊?」


 なんて言いつつも、その手のホラーは苦手としている。そのような展開はないと良いのだけど。


 館の中に入っても、特に誰かが話しかけてくるということはなかった。

 二体の執事服を身に纏ったゴーレムが掃除をしているくらいで、特に目立ったところはない。


 こんな夜中に掃除? なんて誰しもが疑問に思いながら、先ずは八部屋ある部屋に、好きなように飛び込んでいった。


 私が入ったのは、玄関から右手にある扉を入った、食堂に一番近い部屋。その扉を過ぎて右手に伸びる廊下を、進んですぐ右手にある部屋だ。


 部屋の中は、かつて探索した時となんら変わらない。ベッドがあって、机がある。シンプルな作り。風呂トイレは入り口近くにある。


 机の引き出しには日記帳が入っており、中を確認すると一切記入されていない。

 共に入っていたペンを手に取って、今日の日付のページを開き、『挑戦開始』と記入する。


 書かれたことが実際に起こる、なんてことはあるのだろうか。この手探りな感じが面白くて、少し笑い声が漏れた。


 メニューを開くと、ログアウトできる状況にあるらしい。開いたまま廊下に出ると、ログアウト不可となる。部屋の中は安全地帯になっているということか。


「てことは、日記帳は関係ない?」

「日記帳がどうした?」


 振り返るとカイユウが居た。


「机の中にあったでしょ? 日記帳に書いたことが、実際に起こるのかなぁ、なんて」

「あぁ、そう言えばあったな。ふぅん。……ちょっと戻って書いてくる」

「なんて書くのよ」

「ロマンス展開希望」

「見ようによっちゃあ、死亡フラグでしょ」


 好きにしなさい。と、彼を見送って、私はエントランスに戻る。


 一階には他に、玄関から見て正面に大浴場がある。二階へ続く階段はエントランス両脇から伸びており、その部分は吹き抜け。さらに高い位置にも、シャンデリアの煌めき。


 大浴場を覗いてみると、ここでも二体のゴーレムが掃除をしている。暗に、使用禁止と言いたいのだろうか。


 出ると、みんなが食堂へと入っていくのが見えた。

 追いかけて入ると、入り口の脇に立っていたティアが私を見る。


「先ずは、これからどうするか相談することになったのよ」

「それなら、コーヒーでも淹れるよ」


 食堂の掃除をする二体のゴーレムを横目に、私は厨房へ向かった。


「あ、ロンちゃんも手伝います」


 料理人のロール二人が揃って厨房に入る。

 業務用の冷蔵庫や、広々とした流し台。調理スペースも、三人ほどが並んでも充分に動けるだろう。


 三口あるコンロの、一番左側は鍋で埋まっている。蓋を開けて中身を確認すると――。


「大量の、お揚げさん」


 いなり寿司でも作るのか、そう思いたくなるくらいの油揚げが出汁に浸っていた。


「めっちゃしゅんではるなぁ。美味しそうやね」


 隣から覗き込むロンドの言葉に、私は目を丸くした。


「あれ、ロンドって関西の人だっけ?」

「え? あ、違います。東京です。でも、両親が関西出身なんですよ。それで、いろいろと混ざっちゃって。なんとも中途半端に混じるので、エセ、なんて言われないように、普段から気を付けているんですけどね」


 方言、ね。


「そういうキャラにはしないんだ」

「関西に行ったら、多分ウケないですもん。むしろ嫌われそう。ロンドちゃんは、みんなから愛されるアイドルを目指すのです」


 味見しちゃえ、と彼女の細い指が油揚げを摘む。


「うーん、このままだと味が濃い」

「そりゃそうよ。ま、後で酢飯を作って、いなり寿司にしちゃっても良いかもね」


 これが後々フラグになるかどうか。それさえも手探りだ。


 コーヒーを淹れて食堂へ戻ると、相変わらずゴーレムが掃除をしていた。


「人が集まると居なくなる、ってわけじゃないんだね」


 ロンドと手分けをして配りながら、ゴーレムを横目に話を振る。


「そうみたい。私達を監視しているのかな?」


 カレンがニコニコと微笑みながら言った。これから何が起こるのか、そういったことを含めて、楽しみに思っているのだろう。

 シャワーを浴びている間は要注意、と助言をくれた。


 席に着くと、先ずは私から報告をした。


「厨房にお揚げが煮てあって、ロンドが味見したけど食べれないものではなかったみたい」

「お揚げというと、油揚げか」


 実家みたいだなぁと、カイユウが呟いた。


「それを、後でいなり寿司にしてみるつもり」

「それで化けぎつねを誘き寄せられたら良いんだけどな」


 ユキの言葉で私の報告は終わり、これからどうするかの相談に移る。


「ロールごとに纏って動くのが良いんじゃない?」


 ミクの提案に、それぞれが相方となる人物を見る。


「その括りで動くとしたら、私とロンドは、主に食堂を調べるって感じ?」

「そうそう。で、私とティアは遊戯室。カイユウとガイアくんは図書室。ユキとカレンは……」

「このロール、特定の場所には割り振れない感じがしますよね。あえて言えば、館全体を調べる探偵みたいな役割、なんて!」


 カレンが眼鏡をクイッと上げるような仕草をする。彼女にとって、それが探偵のサインらしい。


「それで言うと、雑誌記者も似たようなものじゃないっすかね? 館中を調べなくちゃならない」


 ガイアもカレンの言葉に感化されたのか、ロール自体に疑問を持ったようだ。


「図書室の中に、雑誌記者にしか読めない記述がある。なんて要素があったら、図書室を調べるだけで終わりそうだけどな」


 ため息混じりのカイユウの言葉に、ガイアはハッとした様子だった。


「普段、本を読まないガイアには酷な作業だねぇ」

「そういうロンちゃんだって、普段は料理なんてしないっすよね?」

「しますー。袋のラーメンをアレンジしますー」


 可愛いじゃれ合いをまぁまぁと止め、私達は早速、その通りに行動してみることにした。


 ミク、ティアコンビ。カイユウ、ガイアコンビが、図書室と遊戯室がある二階へ向かうのを見送り、ユキとカレンが大浴場へと消えていくのを眺める。


「じゃあ、厨房で酢飯を作ろっか」

「あ、団扇であおぐのはできますよ!」


 田舎でやったなぁ、懐かしいなぁ。と、はしゃぐロンドを連れて、厨房へ向かう。炊いた米はあるから、すし酢を作るところから始めないとならないか。


 しばらく作業を続け、油揚げに詰める前に休憩を取ることになった。厨房を離れ、食堂へ向かうと――。


「モカさん、これって……?」


 ロンドが、真っ先にその異変に駆け寄った。


「ひとまず、ユキとカレンを呼んでこよう。二人とも、どこにいるかなぁ。……おーい! ユキッ! カレンッ!」


 食堂の扉を明け放ち、声を張り上げて二人を呼ぶ。四つ並んだテーブルの影、そこに、一体のゴーレムが倒れていた。

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