63.今回のメインイベント
人が八人も集まると、纏って行動するには些か人数が多すぎるのか、自然と個々の塊がいくつか出来たり、その面子が入れ替わったりとしながら、思い思いに自然豊かな施設内を愉しんだ。
男性陣、とりわけ雪斗と海斗は、名前に共通点があるということで仲良くなり、元気が有り余るウーフとの遊びを楽しんでいるようだった。
二人はフリスビーを投げるのが上手く、私が投げると呆れたように振り返ってくることの多いウーフが、尻尾をはち切れんばかりに振って追いかけている。
雫月とカレン、ニーナの三人は、旅館の露天風呂を愉しんだり、水着をレンタルしてサウナに挑戦してみたりと、日頃の疲れを癒すかのごとく、とろける表情を見せていた。
「確かに、ちゃんと整備されているな」
私は舞、大地を連れ立って、山の中をぐるりと回る、遊歩道の散策に出ていた。
適度に間引かれた木々。地面に茂る草も人の手が入っているようで、旅館の受付でもらったパンフレットによれば、犬が食べてはいけないような類の草は取り除いているらしい。
「これなら安心して散歩させられそう」
一キロほど進むと、広場がある。まだ先は長く、散歩程度ならそこで引き返すのが良いだろう。
「はぁ」
「ロンちゃん、まだ落ち込んでんすか?」
ベンチに座って俯く舞を見て、私は申し訳なく思った。
「ごめんね、舞。ユイナさんが来られないこと、伝えていなかった」
前に話していたキャンプの開催が早まった、としか言っていなかったから、勘違いされてしまったのだろう。
あの時はひっきりなしに連絡が来ていたから、少し焦っていたところもある。あの程度を捌ききれなくて、今後飲食店を切り盛りすることができるのか。
大いに反省すべし。胸に刻んだ。
「いえ、良いんです。舞が勝手に期待しただけですもん。はぁ、憧れの人に会えないからって、いつまでも落ち込んでいたら、この場を用意してくれたその人にも悪いですもんね。よーし、ここは、バーベキューでお腹いっぱい食べる! そして愉しむ!」
「その意気っすよ!」
吹っ切れたような舞に合の手を打つ大地を見ていると、いいコンビだなって、改めて思う。
ここから関係が発展するのか――なんて、どの口が言うのかって感じなのだけど、少し微笑ましく見守りたい気分にもなってくる。
余計なことを言って気分を害してしまわれても困るから、と私は薄く微笑むとベンチから腰を上げる。
「じゃあ、バーベキューの食材を取りに行こうか。みんなで調理をして、乾杯して、盛大に!」
「おーっ!」
ついでに、旅館の温泉で汗を流そう。そう話して、私達は広場を後にした。
そして準備はつつがなく終わり、グラスを掲げる段階へと入った。
「えー、皆様。急な誘いを受け入れてくださり、ありがとうございます。それでは、乾杯っ!」
――乾杯っ! と、みんなで声を合わせて思い思いの中身が入ったグラスを掲げる。
美味しそうな焼き色がついた、肉や海鮮。英語で会話をするニーナと海斗に驚きつつも、好きなものを皿にとっては食べ、呑んでは食べて、会話に花を咲かせていく。
「ちょっと料理のスケッチをしていい? こういうのを描く機会って、あんまりないのよね」
「雫月は熱心だなぁ。ついでに頬張る雪斗も描いたら?」
「ありきたりで意欲が沸かない」
「なんだと? だったら、見るも美しい姿で食ってやる」
自信満々に、串に刺さった肉を食らう雪斗。
「あっつ!? 串あっつ!?」
「それ、最後に焼いたから。金串なんだから気を付けなさいよ。ほら、外してあげる」
頬を押さえる雪斗を、二人で笑った。
「焼きそば、貰いますねー」
そう断って、カレンが皿に焼きそばを盛っていく。
「魚介の粉末を使って、ちょっぴり富士宮焼きそば風にしてみた」
「美味しいですー。明日のカレーも楽しみ」
笑顔を見せるカレンに、みんなで一緒に作ろうね、と釘を差す。私だけが張り切るのは、バーベキューとはなんか違うと私は感じてしまうのだ。
あくまでも調理はみんなで。私はアドバイス程度。それくらいが理想。
「カレンはどんなカレーが好き?」
「最近はキーマカレーにハマっていますけど、どうせならもっと、家庭的なものが良いですよね」
「じゃあ、肉は豚肉?」
「あー、それは難しいところ。それはみんなで多数決にしましょう」
みんな、質問! とカレンが言う。そうして票を集めたところ。豚バラ肉が採用されることとなった。
「ところで、みんなあまり羽目を外さないでね。この後やりたいことがあるから」
話に一区切りついたタイミングで、私はそう切り出す。それは、このキャンプに持ってくることを指定したものが関係している。
「えー、飯が美味すぎて進んむんだよなぁ」
「判る。このサザエの苦味とか堪んないよね」
「あ、ハマグリは取っておいてくれよ。俺が食べたい」
まだまだ食欲が衰えない、海斗とニーナだった。
「キャンプに来てまでゲームをやるっていうのも、なんというか、今の時代っぽいっすよね」
「ヘッドセットを持ってこいって言うんだもん、モカさん、何を企んでいるんです?」
教えてくだーい。と、隣にやってきて身を寄せる舞。酔いが回ってきているのだろう。
大地が調理に使っていた団扇で風を起こし、鬱陶しげに舞が手で払おうとする。甘えたり、怒ったり。どこか猫のようで可愛らしい。
そういうところは、さすがはアイドルか。
「あの謎を、解き明かそうと思ってね」
おそらく事情を把握しているだろう、雪斗とカレンはニヤニヤと笑みを浮かべている。舞と大地も心当たりを思い出したようで、ハッとした表情を浮かべた。
「谷間の館、みんなで挑戦しようか」
***
用意した食事を平らげ、休憩も兼ねてウーフの世話をみんなで行ったあと、私達はテントに入ってゲームにログインをした。
草原の街に集まり、私から集まったみんなに招待状を渡していく。
「参加人数が指定されていたし、この招待状に不穏のことが書かれていたから、挑戦するにはこのタイミングだと思ったのよ」
それぞれが渡された招待状を読んでいく。
書かれている内容を要約すると、館に潜む化けぎつねを退治してほしい。化けぎつねは、館にある何かに化けている。それは、滞在するものも例外ではない。
さらに招待客にはロールと呼ばれる役割が与えられる。それが何の役に立つかは、今は判らない。
「招待状には、それぞれに与えられるロールが表示されると思うんだけど。あ、私は料理人だった」
「俺は医者」
「私もです」
ユキについで、カレンが手を挙げる。
「二人いるのか。俺は雑誌記者なんだけど」
「あ、俺もそうっす」
カイユウとガイアが雑誌記者。
「アタシは遊び人だって」
「私もー。ねぇねぇ、どうよティア。館で何をやるかは判らないけど、遊びまくる?」
「いいねー、ミク。あそこって確か、ビリヤードがあったよね? トリックショットの練習しちゃう?」
「どっちが先に決められるか、勝負ね」
一番ロールにあった性格をしている、ティアとミクが遊び人か。と言うことは……。
「もしかして、ロンドも料理人?」
「ですねー。ロンちゃん、料理は全くなんですけど大丈夫ですかね?」
それは行ってみてのお楽しみ。
軽くウイングをして、私達は街を出た。すると、直ぐに街の中から馬車が現れる。招待状にもあった、貸し切りの場所だ。乗り込めば、直ぐに谷間の館へ辿り着くらしい。
そこで一体、何が起こるのか。そして、もしも私達の中に化けぎつねが紛れ込んだのなら。……それは、ログアウトしてみれば一発で判る。
「運営側の二人は、なんも知らねーの?」
馬車に乗り込んで、カイユウの質問。
「知らない。エクストラクエストの舞台ってことは知っているが、後のことはシナリオ班の領域だからな」
「あそこは結構、秘密主義ですしね。内容を知っているのは彼らと、開発部と社長くらいで。私達も、挑戦できるのを楽しみにしていたんですよ」
会話は長くは続かない。既に馬車は、館へ到着してしまっていたから。
暗闇に包まれた館の窓から、怪しげに光が漏れている。ひとりでに開いた観音開きの扉は、化けぎつねの口のようにも思えた。




