62.初めてじゃない初めまして
一度載ったときから、実は目をつけていた所もあるのだ。
それは、トランクルームがなかなか広く、シーズンになればスキー用品を詰め込んでいると言っていたところ。
「ありがとうね。ウーフを連れて行くとなると、お父さんが使っている軽ワゴンを借りなきゃならなくて。でも自分の運転で関東を目指すの、ちょっと怖かったんだ」
「スピードを出し過ぎて?」
「そう言うのはゲームの中だけですし」
少しムッとしながら、軽快にステアリングを操る雪斗を見る。その顔は、どこか浮かれているようにも見えた。
ウーフはクレート内で、のんびりと散歩の疲れを癒していることだろう。あの子は誰に似たのか、人見知りもせずにどこでだって、いつだって眠ることができる。
「ま、お前の役に立てるなら、喜んでってところだ」
「ありがとう」
ご機嫌な鼻歌に合わせ、車は軽快に高速道路へと進入していく。ここまで来たら、もう腹を括って言ってしまうしかないだろう。
お土産を期待している両親のためにも、私はなんとしても目的地までは行かねばならぬ。
「他に誘った人たちも喜ぶよ」
笑顔が凍った。
「……二人きりじゃ、ねーの?」
「総員八人でござる。プラス、わん」
おちゃらけて言うと、大きなため息が返ってくる。
「はぁ。……まぁ、そんなこったろうと思ったよ。奥手も奥手のお前が、こんな大胆に泊まりに誘うかっての」
「奥手の野郎に言われたくないんですけど」
だから私達の関係は平行線なのだろう。この車の車輪のように、一定の間隔を保ったままで、同じ方向に同じ速度で進んでいく。
クルマを構成する全てになりたいのなら、そちらからどうぞ? というのが、私のスタンスだ。
……とは言え、曲がりなりにもキャンプだからと、ジーンズを履いてきたのは失敗だっただろうか。
可愛らしいスカートとか。いや、でもバーベキューで油が跳んだら嫌だし。
けれど、ゲームの中で彼に見せる姿といえば、代わり映えのない常に同じ装備なわけだし。もう少しこう、違った格好を見せてみたって……。
ファンションに気を使わないと思われていたら、それはそれで悔しい。
「で、誰を誘った?」
「舞と大地」
「クエスト攻略課の面子ね」
「雫月とカレン」
「……雫月は兎も角、カレンがオーケーしたのか?」
「あれ、聞いてない? 溜まっていた有給を意味もなく使うって言っていたから、思い切って誘ってみたのよ」
基本的にほとんど休日のような仕事内容の人が多いため、有給取得率はかなり低く、社長自ら指示しなければ、なかなか消費されないらしい。
事務作業を担当する人たちはオフィスに出社することもあるが、その作業だって、ゲームの中でできないこともない。
モンスターの討伐ついでに事務作業。クラフトしながら事務作業。遊びと仕事を両立するなんて、本当にたくましい集団だこと。
「これで六人か。あと二人は……湊あたりか?」
「残念。彼の連絡先は知らないの」
精霊の隠れ里であった印象で考えれば、おそらくこの手の催し物は大好きなパターンだ。後で羨ましがられるのは、雪斗の役目ということで一つ。
「誘ったのは、ニーナと海斗。ニーナは、ミクって言えば判るかな」
「あぁ、あの動画の。ニーナっていうのか」
「そう。見た目からは判らなかったけど、アメリカ出身らしいよ。今は母方の故郷に憧れてこっちに来ているみたい。ミックス、って言ったほうがいいのかな?」
「表現一つとっても、時代は変わっていくよなぁ」
閑話休題。
「で、海斗はゲームの中ではカイユウ」
「あ、聞き覚えがある。湊が言っていたやつか」
「そう。一緒に隠れ里へ行った人。ヒロ君の同僚なんだよ。後輩」
「へぇ、ヒロさんの。世間は狭いなぁ」
本当に。
そんな彼は今、長い休暇の最中で、ちょうど良く噛み合っていたために、二つ返事で誘いに乗ってくれた。
「大地もオーケーしたんだな。彼奴、畑がどうので忙しいだろ」
「上手く人に任せられるタイミングだったみたいだよ。神様に感謝してた」
「大袈裟なやつ」
一度ドッグランのあるサービスエリアでウーフの状態を確かめ、少しばかりの休憩をして次のサービスエリアへ。
その都度元気に走り回る男二人を、私はソフトクリーム片手に、名物片手に微笑ましく見守りながら、余裕を持って目的地に到着をした。
「モカちゃーん、久し振り! 去年は会えなくて残念だったわ」
「お久し振りです、楽田さん。これ、お土産。熊屋の特製団子」
「最高。またこの味が楽しめるとは思わなかったわ。嫁は初体験だし、喜ぶだろうなぁ」
愛妻家の一面を見せる楽田は、線が細く一見するとお笑い芸人には見えないインテリだ。その分、経営面には自信があるらしく、家業を継ぐ決断をしたのだろう。
「話はそこそこにして、案内をしようか。当旅館は山間にあって、近くには川も流れていてシーズンになれば渓流釣りも楽しめる」
「へぇ、素敵。川魚、大好き。雪斗、釣りは?」
「人に頼る気かよ。残念、釣りはあんまり、通ってこなかった」
「それなら、機会があったら挑戦してみてくださいな」
そう笑う楽田の案内で、玄関とは違う出入り口から外に出る。緑に囲まれた遊歩道のようになっていて、西日が心地よく感じてしまう。
「旅館の裏手で、見晴らしのいい平地があったんで、グランピングの施設にしてみたんだ。キャンプが好きだったけど、人に勧めるには大変な趣味だから、気軽に料理だけでも楽しんでもらえれば、ってね」
開けたところに出ると、ドーム状の建物――テントが三棟並んでいる。テラスのようになった場所は、グリル台や流しなどが置かれている。調理が出来るスペースだろうか。
それらの側にはログハウスのような、丸太を組み合わせた小屋がいくつかあって、それを指差して楽田に尋ねる。
「リビングみたいに使える小屋だったり、トイレだったり。風呂に関しては旅館のものを使えるからそちらで」
「此処に露天風呂なんかはないんだ」
「自慢の温泉を引っ張るのが大変でさぁ。サウナと水風呂。そしてシャワー室はある。旅館まで戻るのが面倒なら、そちらでどうぞ」
早速、雪斗が覗きに行った。
ドッグランも見つけたので、そこにウーフを入れてハーネスを外してやる。
「そこのは、犬小屋? ミニチュアハウスみたいで面白いですね」
「でしょー。ちょっと力を入れてみた。水場もあるから、洗ってやれるよ。勿論、冷暖房完備。テントの方へ連れて行っても構わないしね。フロントに声をかけてくれたら、旅館の方でスタッフが預かることもできるから」
あと、夕飯は基本的にバーベキュー。食材は旅館の方へ取りに行く。朝食、昼食は旅館の方でビュッフェ形式で召し上がれる。
その説明を、私は旅館へ戻りながら聞いていく。雪斗は、ウーフと楽しそうに遊んでいたから置いてきた。
「あ、百花。お誘いありがとね」
「こっちこそ。来てくれてありがと。雫月」
旅館に戻ると、見知った顔や初めましての顔がズラリ。駅で待ち合わせて、雫月が引率役を果たしてくれたのだ。
「先ずは、そうだね。自己紹介からしておこうか」
こうして、私達のオフ会が幕を明けた。




