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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
オフ会と疑惑の館
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62/64

62.初めてじゃない初めまして

 一度載ったときから、実は目をつけていた所もあるのだ。

 それは、トランクルームがなかなか広く、シーズンになればスキー用品を詰め込んでいると言っていたところ。


「ありがとうね。ウーフを連れて行くとなると、お父さんが使っている軽ワゴンを借りなきゃならなくて。でも自分の運転で関東を目指すの、ちょっと怖かったんだ」

「スピードを出し過ぎて?」

「そう言うのはゲームの中だけですし」


 少しムッとしながら、軽快にステアリングを操る雪斗を見る。その顔は、どこか浮かれているようにも見えた。


 ウーフはクレート内で、のんびりと散歩の疲れを癒していることだろう。あの子は誰に似たのか、人見知りもせずにどこでだって、いつだって眠ることができる。


「ま、お前の役に立てるなら、喜んでってところだ」

「ありがとう」


 ご機嫌な鼻歌に合わせ、車は軽快に高速道路へと進入していく。ここまで来たら、もう腹を括って言ってしまうしかないだろう。

 お土産を期待している両親のためにも、私はなんとしても目的地までは行かねばならぬ。


「他に誘った人たちも喜ぶよ」


 笑顔が凍った。


「……二人きりじゃ、ねーの?」

「総員八人でござる。プラス、わん」


 おちゃらけて言うと、大きなため息が返ってくる。


「はぁ。……まぁ、そんなこったろうと思ったよ。奥手も奥手のお前が、こんな大胆に泊まりに誘うかっての」

「奥手の野郎に言われたくないんですけど」


 だから私達の関係は平行線なのだろう。この車の車輪のように、一定の間隔を保ったままで、同じ方向に同じ速度で進んでいく。

 クルマを構成する全てになりたいのなら、そちらからどうぞ? というのが、私のスタンスだ。


 ……とは言え、曲がりなりにもキャンプだからと、ジーンズを履いてきたのは失敗だっただろうか。

 可愛らしいスカートとか。いや、でもバーベキューで油が跳んだら嫌だし。


 けれど、ゲームの中で彼に見せる姿といえば、代わり映えのない常に同じ装備なわけだし。もう少しこう、違った格好を見せてみたって……。


 ファンションに気を使わないと思われていたら、それはそれで悔しい。


「で、誰を誘った?」

「舞と大地」

「クエスト攻略課の面子ね」

「雫月とカレン」

「……雫月は兎も角、カレンがオーケーしたのか?」

「あれ、聞いてない? 溜まっていた有給を意味もなく使うって言っていたから、思い切って誘ってみたのよ」


 基本的にほとんど休日のような仕事内容の人が多いため、有給取得率はかなり低く、社長自ら指示しなければ、なかなか消費されないらしい。


 事務作業を担当する人たちはオフィスに出社することもあるが、その作業だって、ゲームの中でできないこともない。

 モンスターの討伐ついでに事務作業。クラフトしながら事務作業。遊びと仕事を両立するなんて、本当にたくましい集団だこと。


「これで六人か。あと二人は……湊あたりか?」

「残念。彼の連絡先は知らないの」


 精霊の隠れ里であった印象で考えれば、おそらくこの手の催し物は大好きなパターンだ。後で羨ましがられるのは、雪斗の役目ということで一つ。


「誘ったのは、ニーナと海斗。ニーナは、ミクって言えば判るかな」

「あぁ、あの動画の。ニーナっていうのか」

「そう。見た目からは判らなかったけど、アメリカ出身らしいよ。今は母方の故郷に憧れてこっちに来ているみたい。ミックス、って言ったほうがいいのかな?」

「表現一つとっても、時代は変わっていくよなぁ」


 閑話休題。


「で、海斗はゲームの中ではカイユウ」

「あ、聞き覚えがある。湊が言っていたやつか」

「そう。一緒に隠れ里へ行った人。ヒロ君の同僚なんだよ。後輩」

「へぇ、ヒロさんの。世間は狭いなぁ」


 本当に。

 そんな彼は今、長い休暇の最中で、ちょうど良く噛み合っていたために、二つ返事で誘いに乗ってくれた。


「大地もオーケーしたんだな。彼奴、畑がどうので忙しいだろ」

「上手く人に任せられるタイミングだったみたいだよ。神様に感謝してた」

「大袈裟なやつ」


 一度ドッグランのあるサービスエリアでウーフの状態を確かめ、少しばかりの休憩をして次のサービスエリアへ。

 その都度元気に走り回る男二人を、私はソフトクリーム片手に、名物片手に微笑ましく見守りながら、余裕を持って目的地に到着をした。



「モカちゃーん、久し振り! 去年は会えなくて残念だったわ」

「お久し振りです、楽田さん。これ、お土産。熊屋の特製団子」

「最高。またこの味が楽しめるとは思わなかったわ。嫁は初体験だし、喜ぶだろうなぁ」


 愛妻家の一面を見せる楽田は、線が細く一見するとお笑い芸人には見えないインテリだ。その分、経営面には自信があるらしく、家業を継ぐ決断をしたのだろう。


「話はそこそこにして、案内をしようか。当旅館は山間にあって、近くには川も流れていてシーズンになれば渓流釣りも楽しめる」

「へぇ、素敵。川魚、大好き。雪斗、釣りは?」

「人に頼る気かよ。残念、釣りはあんまり、通ってこなかった」

「それなら、機会があったら挑戦してみてくださいな」


 そう笑う楽田の案内で、玄関とは違う出入り口から外に出る。緑に囲まれた遊歩道のようになっていて、西日が心地よく感じてしまう。


「旅館の裏手で、見晴らしのいい平地があったんで、グランピングの施設にしてみたんだ。キャンプが好きだったけど、人に勧めるには大変な趣味だから、気軽に料理だけでも楽しんでもらえれば、ってね」


 開けたところに出ると、ドーム状の建物――テントが三棟並んでいる。テラスのようになった場所は、グリル台や流しなどが置かれている。調理が出来るスペースだろうか。


 それらの側にはログハウスのような、丸太を組み合わせた小屋がいくつかあって、それを指差して楽田に尋ねる。


「リビングみたいに使える小屋だったり、トイレだったり。風呂に関しては旅館のものを使えるからそちらで」

「此処に露天風呂なんかはないんだ」

「自慢の温泉を引っ張るのが大変でさぁ。サウナと水風呂。そしてシャワー室はある。旅館まで戻るのが面倒なら、そちらでどうぞ」


 早速、雪斗が覗きに行った。

 ドッグランも見つけたので、そこにウーフを入れてハーネスを外してやる。


「そこのは、犬小屋? ミニチュアハウスみたいで面白いですね」

「でしょー。ちょっと力を入れてみた。水場もあるから、洗ってやれるよ。勿論、冷暖房完備。テントの方へ連れて行っても構わないしね。フロントに声をかけてくれたら、旅館の方でスタッフが預かることもできるから」


 あと、夕飯は基本的にバーベキュー。食材は旅館の方へ取りに行く。朝食、昼食は旅館の方でビュッフェ形式で召し上がれる。

 その説明を、私は旅館へ戻りながら聞いていく。雪斗は、ウーフと楽しそうに遊んでいたから置いてきた。


「あ、百花。お誘いありがとね」

「こっちこそ。来てくれてありがと。雫月」


 旅館に戻ると、見知った顔や初めましての顔がズラリ。駅で待ち合わせて、雫月が引率役を果たしてくれたのだ。


「先ずは、そうだね。自己紹介からしておこうか」


 こうして、私達のオフ会が幕を明けた。

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