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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
オフ会と疑惑の館
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61/62

61.急なお誘い

 朝、それはウーフの散歩から戻り、彼の脚を拭いているさなかに起こった。


「あれ、ユイナさんから電話だ。……はいはーい」

「もしもし、モカちゃん?」


 暗っ。電話口の声を聞いて、私は真っ先にそう感じた。

 ウーフは一足先に上がり框に飛び上がり、早く水を飲みたいとアピールするかのようにこちらを見ている。


「なんです? そんな暗い声を出して。女子高生キャラで売っているアイドルなんですから、もっとキャピキャピしてください」

「キャピキャピは死語じゃない?」


 突っ込む余裕はあるらしい。

 それに安堵し、靴を脱いでウーフを追う。飲水の準備をしながら、用件を問うた。


「で、何の用です?」

「私、滅茶苦茶な失敗を犯したのよ。本当にもう、年なのかなぁ、なんて思っちゃうほど」

「お昼ご飯を食べて現場に行ったのに、楽屋で用意してあった弁当を食べたとか?」

「……」


 それもあるんかい。てか、それはただの食い意地だと思うけど。


「えっとね、キャンプに行こうって計画したじゃない?」

「ええ、しましたね。たしか、一昨年までお笑い芸人をしていた、楽田(らくた)さんがグランピング施設を始めたとか。実家の旅館の空いているスペースを使ったんでしたっけ?」

「そうそう。よく仕事が一緒になってねぇ、仲良くやってたのよ。……あ、恋愛感情は一切ないよ? あいつ、妻子持ちだし」

「はいはい」


 のんびりと水を飲むウーフを撫で、インスタントコーヒーをカップに入れる。少し濃いめに入れて、大量の氷を投入。

 二月の空気は冷えていたけれど、心地よい疲労感から来る熱が体内にあった。


「それで、まとまった休みが取れる、三月二十七日から、二泊三日で予約を取ったの」

「うん」

「取ったつもりでいたの」

「……うん?」


 なんとなく、嫌な予感がした。でも、それでもまだ。落ち込む必要はないのではないか、と感じる。

 もしも予約の日取りを間違えたとしても、二月二十七日。今は十七日だから、十日も猶予がある。


「一ヶ月、間違えたとか? それなら、スケジュールの調整とか――」

「昨日連絡がきて、今日の予約になってた」


 ……。


「え、なんで?」

「うわーん! 今日、今日ねっ! 大事な特番のロケが入っていたのよー! それに気合を入れすぎていたのか、今日の日付を意識しすぎていたのか……」


 段々と小さくなっていく声に、私はもう、呆れてしまってコーヒーしか飲めない。その冷たさに幾分冷静になって、そして、彼女が何を求めているかが判った。


「流石に、付き合いの手前キャンセルするのは忍びない?」

「そうなのよー。食材も用意してもらっているし、無駄にしちゃうと申し訳ないし。お願い! 料金はもう払ってあるから、楽しんできちゃもらえないだろうか!」

「いいよ」

「そっかー。そりゃ、こんな急に言われたら無理だよねー。仕事もあるし……」

「だから、良いよって。泊まりにいけます」

「……えっ!? 良いのっ!? え、あれ、新しくゲームの仕事を始めたんだよね?」

「そう。それでありがたいことに、週に二日までなら、いつでも自由に休みを割り振れるんですよ」


 神企業か、と電話の向こうで戦慄している様子が窺える。


「確か、ペットも連れていけるんでしたよね」

「う、うん。もともとモカちゃんは参加者だし、ウーフ君のことも先方には伝えてる。ドッグランもあるし、見守りスタッフもいるから、預けて遊ぶこともできるよ」

「そりゃあいい。うちの子、人見知りをしないし未知なる場所でもウキウキするのが長所だから」


 ドッグランに連れて行ってあげよう。つい昨日そう思っていたのが、こんなにも早く叶うなんて。


 仕事に一区切りついたご褒美か何かかな? そう思って、私はつい、口から笑みがこぼれたのだろう。


「お、なんか嬉しそう。彼氏でも誘っていくのかなぁ?」

「そんな人はいません。でも、他にも人は誘って良いんだよね?」

「ぜひぜひ。最大九人で、テントは三棟。午後三時にチェックインね」

「三人づつなんだ」

「そうそう。一人一棟を使う贅沢を味わってもいいよ」


 それはそれで魅力的。なんて思いつつも、頭の中ではその状況を利用して、ある考えが浮かび上がっていた。


「目指すは八人、かな。ちょっとやりたいことがあるし」

「へぇ、合コン? ま、深くは聞かないよ。こっちは頼んでいる立場だしね。あ、そうそう。あそこ母体は旅館なんだけど、結構古風だから、お酒はビールと日本酒しか揃えてないのよ。差し入れにいろんなの買って届けとくから、好きに飲んで」

「あざーす。お気持ち、ありがたく頂戴しますわ」


 ありがとうございます。こちらこそ。そう言い合って電話を切り、次に付き合ってくれそうな人たちや、一緒に遊びに行きたい人をピックアップして連絡していく。


 そして最後に――。


「おはよう雪斗」

「はよ。てか何時だよ、……七時か、早え」

「昨日、抱えている仕事が一段落して、二、三日休みが取れるって言ってたじゃない?」

「言ってた。だからこうして休んでいたわけで――」

「ちょっとグランピングに行かない? 二泊三日。ウーフを連れて。今なら無料で行けるんだよねー」

「――お前と、旅行っ!? とま、泊まりでっ!?」


 申し訳なさそうにする片手を上げる姿は、けして彼には見えなかっただろう。

 そういう気持ちを彼が持っているのかは、私にはどうにも察しきれないところがあるのだけれど、もしも持っていたとしたならば、やはりその気持ちを利用したような気になってしまって申し訳ない。


 しかし、ウーフを連れて目的地、それも関東の方へ行くには、私の運転では少し、自信がないのだ。


「車も出してもらえないかな? 雪斗の運転なら、安心して行けると思うから。目的地はね……」


 ネタバレは、他の人の返事次第かな。発表はおそらく、車の中で。

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