59.息抜き
「何か食べたいものはある?」
私の質問に、ユキは腕を組んで考え始めた。
ダンジョンのタイムアタックに挑戦したものの、その記録はテストの意味合いもあるため、勿論反映はされていない。
それでも好タイムを出したため、お疲れ様の意味を込めて何か料理でもしようと考えたのだ。
ついでに言うと、サークルメニューのなかのミッション。そのなかの料理をする項目を、少しでも減らしていこうかという考えもある。
「まだ昼にもなっていないから、ガッツリいく気分でもないんだよなぁ」
「だらしないなぁ。男だったら朝からステーキ行くくらいの気概を見せてみなさいよ」
「男だったら、とか。古臭いぞ」
それは失礼。そう笑って、私はインベントリのなかに収めている食材を確認した。
「この前フライパンを使ったから、他の調理器具を使いたいよねぇ。ハンバーグをオーブンで仕上げたり」
「あぁ、あのふっくら仕上げるやつ」
「そうそう。テレビ番組で、オーブンから出てきたふっくらと膨らんだハンバーグ、見応えあるよね」
そういうものを目指してみるのも、面白いだろう。
「中華の油通しって、揚げる調理に入るかな?」
「油通し?」
「食感とか、先に火を通すために食材をさっと油に通す調理方法」
「あー、多分揚げるに入る」
あまり、細かい事は気にしなくても良さそうだ。
「……唐揚げでも揚げて、摘む?」
「……うん。それが丁度いいかもな」
ストックのなかに仕込んだものを見つけて、提案すると即採用。早速キッチンに向かって、油の準備を始める。
「油の処分、ボタン一つで出来るの素敵だわー」
インベントリに仕舞って、捨てるの項目タップで終了。ぜひ現実にも投入してほしい機能だ。
唐揚げを揚げながら、受けたままになっているクエストをチェックしておく。
目に付いたものを受けておいて、タイミングが合えばクリアをしていく。そのために、大量に受けたままになっているクエストがあった。
「あ、これもまた受けていたんだっけ」
いつか受けた、父親の代わりにハンバーグを焼きたいという息子からの依頼。上手に焼くコツを教えて欲しいというものだったのだが……。
「ソースにもこだわってみたほうが良いとか、簡単な焼き方とか、色々教えたっけ」
簡単に報酬が得られるクエストだから、何度か受けたのを憶えている。今回もいつも通り、適当に教えておこうか……と思った時に、ふと頭に過った考え。
(そう言えば、ガイア達が言っていたクエスト――)
海辺で虐められている亀を助けたほうがいいのかどうか。そう問いかけるクエストがあった。
これは助けたほうがいいと答えれば、回復アイテムが貰えるクエストだったのだが、その返答を変えると、状況は全く異なるものへと移っていく。
俺が行くから待ってろ、みたいに、自ら参戦の意思を示して指定された場所へ向かうと、エクストラクエストが発生したのだ。
つまり、このクエストにも何か発展するものがあるのではないか。
「作りに行ってあげようか、っと」
入力欄に、そう記してクエストを進める。普段はすぐに結果が反映されるのだが、今回は少し時間を置かなくてはならないようだ。
私は気持ちを切り替えるように唐揚げに向き合い、少々多くなったそれを、ユキと共に平らげた。
***
午前中いっぱいはチョコレート集めに勤しみ、午後はサークルハウスにある自室の模様替えを体験してみた。
部屋は六畳ほどで、そこまで広くはない。ベッドを置けば三分の一は占領してしまう恐れもあって、設置には慎重にならなければならないだろう。
ベッドの様な大物を置くなら、それに合わせたレイアウトをしなくてはならない。
テレビを置いて、ソファーを置いて。そうした生活感のある部屋にしようとすると、ベッドのサイズと要相談、といった具合。
「ふかふかなベッドに憧れはあるけれど、そういう生活感は捨ててもいいかな?」
とりあえず、壁の一面に本棚を置きたい。現実に飼うには嵩張るし、値が張るアンティーク調の本棚を置いてみたい。
「地球儀を飾ると、なんか雰囲気が出る気がするよなぁ」
チェストを置いてその上に設置をするか、本棚の棚の一部に置くか。そこら辺にセンスが出るのだろうか。
「ロココ調のソファーとテーブル、なんてものも良いかも」
猫の脚のようなデザインの足が、可愛らしいのだ。我が家の愛犬の前もあって、なかなか猫のデザインのものは買いづらい現実。
犬と猫の同時飼いというものに憧れはあるけれど、そこまで世話をしきれるかどうかは、今のところ自信がない。
ならば、ここではいっそ、猫を意識してみるのもいいかもしれない。
いや、でも――。
「この犬小屋、ウーフに似合いそうだなぁ」
いつしか私は、カタログを見ながら妄想の世界に入り浸っていた。
ウーフは窓から外を覗くのが好きだから、大きな窓があると嬉しい。室内飼いのため、買うことのなかった犬小屋に憧れがある。
大型犬が歩きやすいよう、至る所にマットなどを敷いて、と。そういう作業も楽しかったけれど――。
「広い庭で遊ばせるのも、また夢だよね」
今度、ドッグランにでも連れて行ってあげようか。
そんな計画を頭の中で組み立て、部屋のレイアウトを決めていく。
その完成度の満足感と、夕方の散歩ではしゃぐウーフを見て、私は頬を緩ませた。




