58.新スタイル
「あれ、調整が入るかもしれないから覚悟しておけよ」
ユキのそのひと言で、私の笑顔は凍った。
時はイベント最終日。ギルドやサークルの体験も最終日。なので色々とやることもあるのだが、そんな重要な日に最初に行うのが、ダンジョンのタイムアタックだ。
本来はクエスト斡旋所で受諾することで行えるもので、ダンジョンの中に出現した特別な宝箱を、如何に早く見つけて開けるか。それを競うもの。
基本的にはソロプレイ用のアトラクション、みたいなもので、今回はその点を利用して、ギルド用のクエストとしての発行することにしたらしい。
ギルド用のクエストはそのギルドに合わせたものが多く、暗殺者ギルドではモンスターに発見されずに倒す、特定の状況に追い込んでモンスターを倒す。その様な特徴的なクエストが並んでいた。
「……どういうこと?」
そんなギルド専用の拠点は、クエスト斡旋所の中に用意されるとのことで、私はその初期デザイン案に設定された室内でユキと向き合っていた。
山の街まで呼び出され、余興でも行えそうなステージを備えた酒場のような場所で、先の言葉を告げられる。
一体、私が何をしたというのだろうか――などと、言うつもりはないのだけど。
「お前の新しい武器だけどな。運営が想定している、ゲームバランスを崩す可能性のある要素に指定されている」
「つまり?」
「あまりにも強力すぎるようなら、どこかしらを調整することになるよって話」
そうしてユキは話を進める。
「もともと、武器に関してはかなり自由度をもって設計している。色んなアイデアを形にできるように、魔法のテキストも融通の利きそうなように匂わせているしな」
「でもさ、それが判っているのなら、最初から調整しておけば良いじゃない」
「楽しみに作った武器が、大して強くなかったらショックだろ? 俺って強いっ! って体験もしてもらいたいじゃないか」
「その結果、弱くされたらたまったもんじゃないけどね」
少々不貞腐れてみる。
「だから、どこかしらって言っているだろ。今後登場するモンスターを調整することだってできるし、プレイヤー全体の強さを押し上げるように、推奨される武器を勧めることだってな。対人戦に対して慎重にもなれる。むしろ、このタイミングで指定武器を作ってくれたのはありがたかったよ」
「ちぇ。あんたが私に余計な知識を入れ込むから」
「あはは、耳にタコができるほど、熱を入れて話した甲斐があったってことだ」
そうして話は終わり、実際にクエストを受けてダンジョンに赴く。
向かったのは草原の街の先にある、いつか一番最初に体験したダンジョン。木に登ったりとアップダウンの激しかった場所であるが、飛行魔法が使える今となっては、それはあまり、障害にはならないだろう。
「ガイアとロンドは、今日も夜からだっけ?」
「そう。昨日と同じ。二人には見せたんだっけ?」
「見せた見せた。ロンドなんか羨ましがっていたなぁ。ガイアは戦いたがっていたっけ」
「それなら、もう一度ギルドバトルのテストもしておこうかな。ギルド専用必殺技はじゃんけんのようになっていて、暗殺者ギルドのシャドウリストレインはウォークライで解除できる。逆に魔法使いギルドの専用魔法は、シャドウリストレインで妨害できる」
それ、あの時テストをする前にガイアに教えてあげればよかったのに。私はそう笑って、メニュー画面を操作した。
クエスト画面から、今回のタイムアタックのスタートを選択できる。ボタンを押せば、そこから開幕を告げるカウントが始まるのだ。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「頑張れよ。今のところ、このダンジョンの最短記録は五分三十秒くらいだ」
それなら――。
「一分でケリをつけてやる」
壮言大語だったかな? そう反省しつつも、私は武器を取り出し、まだお披露目していなかったユキに対し、見せつけるように起動させる。
「バインダーバレル、展開」
刀を抜き、鞘を放り投げてそう言えば、からくり細工が分解されるが如く七つに別れる。言葉の通り、それらは全て銃身だ。
飛行魔法によって浮遊し、私の意思によって動き、攻撃をする。その一つ一つから魔法を放つこともできる。その上、再び組み合わせれば杖としても使える。
「閻浮檀金。さぁ、行くぞっ!」
そうして私は飛び立つ。
縦横無尽に駆け巡るバインダーバレルは、私の進路を確保するように、遮るモンスターを攻撃していく。
(複数のものを、同時に操る。それは料理みたいなもんでしょうよ)
炒飯を炒めながら、餃子を焼いてラーメンを仕上げる。それに合わせて唐揚げを揚げたり、千切りキャベツを用意したり。
私の頭の中では、バインダーバレルの操作は中華料理店の厨房と似たようなものだった。
父親が復帰してから、伝を頼って様々な飲食店を経験した甲斐があった。けれど、まさかこのような場で活かされるとは――。
私の笑顔は、場違いな思考故か、それとも新たな爽快感故か。
少なくとも、このために行った数々の準備が報われていることに、安堵している気持ちはある。
先ず、あの時、転生の状況によってある組み合わせボーナスが発生していた。
それは、冥精霊と天精霊をレベル最大にしていて、さらに剣を杖をメインとサブに設定していたことで得られたもの。
それが、〈バランサー〉。このボーナスは、体力ゲージと魔法ゲージを最大値の高い方へ合わせるというもの。
だから、ガードを上げて体力ゲージの最大値を上げれば、魔法ゲージの最大値を上げることが出来ていたのだ。
つまり、その逆もあり得る。
その時は金精霊の強化魔法により、体力ゲージの最大値低下が心配の種であった。だからガードのステータスを上げるようにしていたが、カナタが名付けたバインダーバレルの案が浮かび上がったことで、状況は変わった。
金精霊の強化魔法によって、圧倒的な攻撃力とスピードを併せ持った、やられる前にやり切るスタイルが可能となるのではないか、と。
そのために、チケットの大半を使い金精霊のマスターボーナスを確保し、強化魔法によってアップするステータスの配分変更機能を解放した。
これによって、必要のないガードやパワーに使われていた上昇分を、スピードに上乗せ。ステータスポイントもマジックに注ぎ込む。
となると、刀での攻撃に不安が残る。
そこで、エルフに転生してレベルを最大まで上げることによって〈魔法剣士〉のボーナスを獲得し、魔法属性を持った必殺技も確保。それをコア化して武器の強化に利用すれば、マジックのステータスを最大限に発揮する刀の出来上がり。
こうして私は、完全に自爆上等の火力馬鹿に進化を遂げたわけだ。
(今は金精霊に戻しているけど、このまま進むか、別のマスターボーナスを目指すか)
そんな事を考えていれば、ダンジョンの名物。音もなく出現するモンスター。
現れたのは背後。振り向いて攻撃するよりも――。
「ステアフライ、サンメテオライトッ!」
チャージの完了した一つを向かわせ、過剰だと思いつつも魔法で倒し切る。
その間にも、別の場所にモンスターが出現する。
「ボイル、ローストッ!」
二つを向かわせて連続で射撃。バインダーバレルは大きく分けて三つの役割を与えていて、一つはスナイパーライフルの様に長射程。三つは高威力で単発式のライフル型。残り三つは、低射程なが連射力に優れるマシンガン型。
実弾を込めることができないためにすべて魔法属性であるが、まぁ、魔法の効かない相手に杖がどこまで効果を発揮するかは、いつかその時に確かめるということで。
そうして抜群の連射力を披露して、モンスターを倒す。それを繰り返しながら、私はどんどんと奥へと進んでいく。
木々の隙間を縫うように、縦横無尽に飛行する感覚は、曲芸飛行のようでなんとも爽快感を与えてくれる。
――自分は、こういう行いに対して恐怖感を憶えるタイプだと思っていた。
そう考えて、今まで乗らずにいたジェットコースターに、挑戦してもいいかもしれないと笑みがこぼれた。
――このゲームの中にも遊園地があって、そこでみんなと遊べたのなら。
そんな事を楽しみにしながら、私は森の中を飛び回り、モンスターを殲滅し、そうして宝箱を発見した。
「これにて終了! で、タイムは――」
メニュー画面を開く。結果、二分。
大幅に更新はしたものの、あり余るスピードのコントロールには、まだまだ課題があるのかもしれない。




