56.今後の目標
今日の夕飯は、ウーフとの散歩途中で買ったたこ焼きと、適当に野菜を千切って市販のドレッシングをかけたサラダである。
朝、ご飯を炊いておくのを忘れていた。昼、面倒くさくて炊くことはせず、熊屋に行って焼きそばを買って済ませる。夜、今さら炊いたところで食べるのは一人だけだからなぁ。との結果だった。
両親は店で賄いを食べてくるのが常だから、いつもご飯はウーフと二人きり。
ゆったりと、のんびりと食べすすめる彼を見守りながら、私は多めに買ったたこ焼きを頬張る。
――口の端に、ソースが付いているよ。
ふと恋人とのそんなひとときを想像してみるけれど、私は多分、鬱陶しげな視線を向けて、舐め取って終わりだろう。そこにロマンスはない。拭いてあげるなんて言われたら、その手を払いのけるだろう。
「あーあ、なんか足りないなー」
それは何なのか、なんてことには目を背けて、私は冷蔵庫からビールを取り出して気持ちよく呷る。
おかわりを要求するウーフに適度に与えつつ、自身の食事を進め、ほろ酔い気分で明日の予定を組み立てる。
「チョコレート集めのために、モンスターを倒さなくちゃだから……」
明日はガイアもロンドも居ない、ログインするにしても夜からだと言っていた。だから、一人でダンジョンにでも挑戦してみようかしら。
宝箱を目当てに彷徨ってもいい。クエストのクリアを目指してもいい。ダンジョンには特定のゴールがないから、自由に目的を持って遊ぶことができる。
そう言えば――。
「タイムアタック、ってクエストもあったような?」
記憶は朧気だけれど、そのようなクエストがあったと記憶している。それは、受けることで特殊な宝箱が出現するようになり、それを獲得するまでの時間を稼ぐものだ。
ふと疑問が湧いて出てきて、スマホを取って雪に電話をする。この時間に出るだろうか。仕事を終えていればいいのだけど。
「どうした?」
「おつかれー。ちょっと気になることがあって」
「おう、おつかれー。サークル機能で気になることでもあったか? それともギルドの方か」
「どっちも含まれる、かな。ダンジョンのタイムアタック、やっていいの?」
「……あー、それがあったか。いや、失念してた。まだやってないよな?」
「うん。やってない」
やはり、控えたほうがいい要素だったか。
ギルドの固有必殺技もあり、サークルによる強化要素もある。そんな私がもしも、タイムアタックで良い結果を出してしまったのなら。
「それは良かった。イベント期間中にタイムアタックをやる人もいないからな。頭から抜け落ちていたよ」
「やる人いないんだ」
「宝箱が目的だし、宝箱からはイベントアイテムは入手できないからな」
「あ、てことは、いかにモンスターと戦わずにいられるかも鍵なんだ」
「戦闘を避ける。避けれなかったら素早く終える。それが肝心。アイテムを集めるイベントとは、相性が悪いんだよ」
なるほど。それなら確かに、あえてやる必要もないか。
「でもそうだな、ギルドとサークルの存在がどのくらいのタイムアタックに影響を及ぼすのか、それを調べるいい機会でもあるかもしれない」
「じゃあ、挑戦する?」
「ある程度強化をしてもらって、最終日あたりに挑戦してもらうか」
「明後日だ」
どこまで強化ができるか判らないけれど、目標にするには丁度いいだろう。
「ガイアとロンドには俺から伝えておく。気付いてくれて、ありがとな」
「いえいえ」
電話を切って、ビールを空にする。
「お父さんのウイスキー、貰っちゃおうかなぁ」
散歩帰りに買った炭酸飲料と合わせるのも良いだろう。お礼は父の日にでも、と笑いながら、少しばかり拝借。
ウーフは食後の運動なのか、一度私の脚にすり寄った後、家の中の散策に向かっていった。
***
翌日、ゲームにログインした私は、サークルメニューとにらめっこをしていた。
「ミッションをクリアすることで素材が貰えて、その素材を使ってクラフトルームのシンボルを作成することもできる」
わざわざ素材となるアイテムを狙ってモンスターを倒さなくとも、ミッションクリアを目指していれば、自然と素材が集まっていく。そういった作りになっているらしい。
そして、ミッションをクリアするごとにサークルとしてのレベルが上がり、ミッションのクリア状況に応じて、所属するプレイヤーのに様々な恩恵が与えられる、と。
「魔法を使ってモンスターを倒せば、魔法に関する恩恵が。物理攻撃ならそれに関する恩恵」
基本的にダメージアップだとか、装備する武器のステータスをアップさせたりする程度。
特定のアイテムを集めるてレベルを上げていくことで、アイテムのドロップ率を引き上げるというものが、一番強力なのかもしれない。
「魔法をあまり使わない二人のために、物理で攻めていきますかね」
メニューを閉じて、家を出る。
強化魔法とワープ、飛行魔法とを組み合わせて高速で移動し、目についたモンスターを倒していく。
しばらく草原を進んでいくと、ウルフの群れとイーグルの群れが睨み合っている光景を目撃した。ホットスポットと呼ばれる要素で、一度に大量のモンスターを狩れるボーナスエリア、といった感じか。
イーグルに刀を突き立てながら着地をし、その場にいるモンスターの注目を集めたら、ニヤッと不敵な笑み。
「さぁて、ダンスの時間だっ!」
体を回転させながら、踊るように刃をモンスター当てて切裂いていく。
いくら強化できると言え、元々の攻撃力が不足している私は、打ち合いになった時に不利になる。と言うことをギルドバトルを通じてしっかりと学んだ。
なるべく動きを軽やかに。コンスタントに飛行魔法やワープを使って、相手を動きで翻弄していく。
今回は物理攻撃のみの縛りがあるが、魔法を使う場合は、使用する強化魔法を切り替えて魔法を連打。また強化魔法を切り替えて――。
「いや、もっとシンプルな手がある、か?」
ふと、頭の中にロンドの姿が思い浮かんだ。
弾幕による面攻撃、侵攻の妨害、長距離射程、高威力。頭の中に浮かぶそれらの要素を、一つにまとめることができたのなら……。
「圧倒的な高火力で、敵を殲滅することができるのでは?」
おそらく、私は悪魔のような笑顔を浮かべていただろう。
距離を取ろうとするイーグルに詰め寄り、切り裂いた後に旋回をして急落下。ウルフを倒せばステップを踏んで群れを壊滅させていく。
私は密かな目標を立てる。
この広大なマップを、モンスターを倒しながらフルマラソン感覚で移動できるようになろう。
その為に必要なものは、カイユウによって齎された。それが私が行わなければならないことなのか、それとも――。
こうやって考えているときが一番楽しい。私はそう感じながら、モンスターを屠っていった。




