55.チョコレート集め
ハンバーガーで腹ごしらえをした私達は、サークルハウスを後にして草原へ出た。
今はバレンタインイベントの真っ最中で、モンスターを倒せば専用の素材アイテムが手に入る。
私達の役目は、サークルの機能を活かしながらイベントを進められるかどうか。それを調べることにある。
「草原で狩りをするの?」
ロンドに問い掛けると、彼女は頷いた。
「草原って、見通しがいいでしょ? それに、比較的モンスターが固まって動きやすいんです」
「あぁ、そこを一網打尽」
「そういうことです。ロンドちゃんのガトリングは連射が効くので、纏めて倒しやすい。モカさんは魔法の連打が出来るので、ガイアが囮になって集めたモンスターを倒していくだけでも効率がいいと思います」
モンスターからヘイトを稼ぐなら、ユキの存在が欠かせない。盾という防具にはそういう機能が備わるらしく、けれど嵩張るから人気はそれほどないらしいが、それさえあれば遠距離武器を持つものは、安全に攻撃ができるという。
けれど、そんな盾役のユキは仕事のために不在。不在がちな盾に意味はあるの? なんて、ちょっぴり酷いことを考えてしまう。
「盾での攻撃はダメージを与えないから、弱いモンスターでも倒さずに注意を集めることができるんすよね。俺にはそれができないんで、地道に注意を引きつけてヘイトを稼ぐしかないんすよ」
「あ、それなら暗殺者ギルドの固有必殺技を使ったほうが便利かも」
シャドウリストレイン。あれの影響範囲はラックのステータスに応じて変化をするから、金精霊の強力な強化魔法でなら、結構な範囲をカバーできるはず。
広範囲のモンスターの動きを縫い止め、魔法を連射して殲滅をする。……どこが暗殺者だよ。
「うっわ、あの拘束技っすね。あれは嫌だったなー」
「そんな嫌な必殺技なの? まぁ、他のプレイヤーの邪魔にならない程度でなら使ってもらって、手分けをして集めていく感じで」
会議を終わらせて、それぞれが持ち味を発揮できる場所を探して草原を彷徨い歩く。
二人の姿はもう見えなくなり、ちらほらと他のプレイヤーの姿を見かけるようになる。みんな夢中でモンスターを倒していて、こちらに気が付く素振りを見せない。
(広範囲に魔法をばらまくとなると、やっぱり他のプレイヤーの邪魔になりやすいか)
ある程度空いている空間を見つけたら、そこで陣取ることも考えたほうがいいかもしれない。
点在する森や林では、陰に隠れた人がいるかも知れないから、そのような場所は避けるとして……と考えると、中々に選択肢が限られていく。
乗り合い馬車を利用して街からだいぶ離れることで、理想的な場所を見つけることができた。
「群れのウルフが結構いるなぁ」
モンスターはランダム的に群れを作るエリアを持つらしくて、そのエリアを見つけられたら儲け物。私はこの日、運が良かったらしい。
これなら、『金甌無欠・コードルシフェリット』の魔法を使った回復アイテム連打のヤケクソ戦法を取らなくても、通常のサンメテオライトでも纏めて倒しやすい。
早速、『閻浮檀金』を使って自身を強化し、シャドウリストレインでウルフを拘束していく。
拘束を解こうと藻掻くウルフに、サンメテオライトを浴びせる。
ラックが高いと、三種類をいっぺんに獲得できたりはしないのだろうか。
そんな期待をしつつインベントリを確認すると、残念ながら見事な偏り。『ミルクチョコレート』、『ホワイトチョコレート』、『ココアパウダー』の三種類がドロップする筈なのだけど、十体を纏めて倒して得たものは……。
「ホワイトが九、ココアパウダーが一。だいぶ偏るなぁ」
運が良いのか悪いのか。
こういう時、倒し方によってドロップが変わるのか、なんて試してみたい欲求に駆られるのは私だけだろうか。
効率は悪いと思いながらも、刀を抜いて一匹ずつ倒してみた。
ホワイト、ホワイト、パウダー、ホワイト。ミルクを挟んでホワイト三つにパウダー二つ。
どうにも、ホワイトチョコレートがドロップしやすい傾向にあるようだ。
「ロンド、いま大丈夫?」
通信を繋げてみる。
「大丈夫ですよー。何か問題がありました?」
「妙にホワイトチョコレートがドロップする」
「あー、ロンドちゃんはココアパウダーばかりです。人によって傾向が分かれるって意見があるんですけど、現実味を帯びますよねー」
「詳しく調べたりはしていないの?」
「武器とか種族で調べみたりもしたらしいんですけど、日によっても変わるらしいんですよねぇ。日にちの違い、種族の違い。調べだしたらキリがないので、それなら無心で倒したほうが早くない? って」
みんな諦めたわけだ。
「じゃあ、交換できると嬉しいね」
「ですねー。帰ったらドロップ交換ですよ」
「それだけ聞くと、飴玉みたい」
お互いに笑ってから通信を切ると、ここからは無心で狩りをすることになる。ガイアがミルクチョコレートに偏っていれば、だいぶ効率がいい。けれど、そんな都合のいいことは早々ないか。
一体どんな結果になるのか。楽しみにしながら、私はひたすらウルフを拘束して、魔法を撃ち込んでいった。
そして帰宅。
サークルハウスに三人が集まり、クラフトルームに初めて入室をする。
そこは作業台や棚が置かれただけのシンプルなもので、ここにシンボルと呼ばれる置物を置くことで、クラフト機能にちょっとしたボーナスが発生する、という部屋らしい。
「特定のステータスが上がりやすくなったりだとか、色々とあるみたいっすね」
ガイアが窓を開けながら言う。残念ながら、隣の家の壁が見えただけだった。
「イベントのクラフトにも利用できるものがあるのかな」
「あるみたいですけど、シンボルを作るための素材集めもしないとですねー。あーあ、これを考えてモンスターを倒せばよかった」
「手持ちの素材で何とかならない?」
落ち込むロンドに言うと、彼女は首を振る。
「今の手持ちは別のことに使いたいから集めているものなんです。デッドストックもありますけど、これは一応テストでやっているわけですし、身を削るのはちょっと」
納得。
「それで、ガイアのドロップ具合はどうだった?」
「結構満遍なく揃えられましたよ。運が良かったっすねー」
その反応を見て、私はロンドと顔を見合わせた。
「ミルクチョコレート不足だ」
「三つ消費のものを作れないと、レートは結構低いんですよねぇ」
イベントアイテム交換機能も、ちょっと楽になる程度のものらしいね。




