54.新築祝い?
新たに実装予定のサークル機能。そのテストをすることになった私と、ロンドとガイア。
先導するユキの後に続いて、私達は拠点となる家の中へと踏み込んでいく。
玄関から入ってすぐ。正面には階段が見えて、右へ折れ曲がった廊下は直ぐに左へ折れ曲がり、奥へと進んでいく。
「二階に四部屋ある。階段の裏に水回り。トイレはあってないようなものだが、風呂は入られるよ。まぁ、イベント限りのモデルハウス、だけどな。一番奥にダイニングキッチン。右手にリビングとクラフトルーム」
一通り案内を受けて、リビングに集まる。
二人掛けのソファをロンドとガイアが使い、私とユキは壁際に寄せてあった四角いスツールを、ソファの前に鎮座するテーブルの近くまで運んで座る。
メニュー画面を開くと、一つ項目が増えていた。
「サークルってのがあるだろ? そこからサークルメニューに移動できて、そのなかにハウスメニューがある」
「サークルメニューでは何ができるの?」
開いてみて、表示を見ながら言葉でも確認したかった。
「サークルの結成だとか、メンバーの管理。あとはイベントアイテムのトレードなんかだな」
「メンバーの管理ってことは、辞めさせる事も可能なんだ」
「人数制限がある仕様だからな。ある程度ログインしないメンバーが現れたら、枠を潰すことになる。サークル同士で連携をとって同じ機能を共有することもできるから、罪悪感があるなら使わなくても、って感じか」
枠が減ると、それだけ効率が落ちるということになるのだろう。逆にサークルを連携させて巨大化して、それをカバーすることもできる。
次にハウスメニューを開いてみる。
「この、〈簡単模様替え〉っていうのは?」
「レイアウト画面を開いて、画面上で部屋の模様替えができる機能。自力で配置を変える事もできるけど、たぶん面倒だろ」
「どちらを使うかは任せます。ってことですね。ロンドちゃんは、自分で頑張っちゃおうかなー」
「五分で音を上げるっすね」
「五分じゃカップラーメンしか出来ないじゃない!」
「カップうどんも出来るよ」
「……モカさん、そういうことではないです」
冗談。そうやって笑ってやると、「いいですよー」と不貞腐れたように画面をいじり始めた。自力で行うのは、もう諦めたらしい。
「他にもサークルメニューには、ミッションっていう機能もある。デイリーミッションだとか、ウィークリーミッションだとか」
「お、このゲームにはなかった定番要素っすね」
「ガイア、それってどんなものなの?」
「宿題みたいなものっすよ。何回戦闘をするとか、何回クラフトをするとか。ですよね、ユキさん」
「そんな感じ。ま、それをやるためにログインしなきゃ、みたいな感じにはしたくなかったから、達成できなかったものはストックされるようにしてある」
いつでもタイミングの良いときにまとめてクリアしてね、と言った感じなのだろう。
試しに開いてみると、話に出たデイリー、ウィークリーの他にも、アチーブメントと言うものがあった。
「フライパンで料理をする、オーブンを使う、電子レンジを使う……え、世界観は?」
「クエスト斡旋所のフリースペースのように、こういう場所は治外法権なの」
兄弟の縄張り、みたいなものなのだろうか。
「まぁ、いいや。試しに料理でもしてみようかな」
よっこらせ、と立ち上がると、ロンドが目を輝かせて訊いてくる。
「何を作るんです?」
「フライパンでハンバーガー。バンズは作ってあるから、それを焼いて、挽肉はあるから成形して焼いて……って感じ」
「あ、チーズはあります? ないならあげるっすよ」
「持っているけど、ガイアってチーズが好きなんだ」
「人並みには。でも、ハンバーガーだけは絶対にチーズが必要です」
「あと、ピクルスね」笑顔のロンド。
「それは要らない」真顔のガイア。
ロンドとガイアのちょっとしたいざこざが始まる予感を感じつつ、私はリビングを後にしてダイニングキッチンへ移動する。
アイランド型のキッチンと、ダイニングテーブルを備えた空間。
「ここも、ハウスメニューで改造できる」
着いてきたユキが言う。
「見たところ家庭用ばかりだね。業務用のものとかも置けるの? 大きい寸胴とか置きたい」
「できるけど、何をする気だよ」
「ラーメンスープとか大量に作りたいじゃん。あとはチャーシューとか。似たり焼いたりしたいのよ」
「ラーメン、好きだっけ?」
「人並みに」
設備があれば、やってみようかなってだけだ。
「フライパンは、色々と種類があるね。……うん、スキレットもある。これが大事」
「ご希望に添えて嬉しい限り」
「褒めてしんぜよう」
微笑みながら、材料の準備をしていく。
といっても、フライパンでバンズに焼き目をつけて、挽肉に塩、胡椒などを入れて捏ねたら成形。パティにして焼いていく。焼いているパティにチーズを載せて、とろけてきたら取り上げてパンズの上に。
「パティの上にトマトとレタスを載せるのが好き。下に野菜だと、パンの次に野菜の味が広がるでしょ? 私は肉を感じたい」
「解る」
「ソースはケチャップがベースのものにした。丁度作り置きがあったから」
「ポテトがあったら完璧だな。ハンバーガーから漏れたソースにつけるの、良くないか?」
「解る。作り置きならあるけど、揚げたてのね」
「最高だな。コーラはたぶん、ガイアが大量に持ってるだろう」
「アルコールじゃなくていいの?」
「まだまだ仕事があるから」
話の流れで、気になっていたことを聞いてみよう。
「あんたって普段、どんな仕事をしてんの?」
「俺? 俺は、覆面警備員みたいなもんかな。ログなんかを見て迷惑行為だとか、怪しい動きをした人がいないかをチェック。現れたら実際にその行動を見てみて、問題があるようなら警告を出す」
「へぇ、そういう時は顔を隠したりすんの?」
「する。特撮みたいな感じでな」
「あははっ。昔、憧れていたやつじゃん。変身ごっことか、付き合わされたなぁ」
「最終的に、俺が悪役でお前とティアが正義のヒロインだったけどな」
そんな事もあったなぁ、と懐かしみながら、私達はお盆に載せたハンバーガーを運ぶ。
「モカさんっ! ピクルスは入れましたかっ!?」
「あ、入れてないや」
こちらの勝負、どうやらガイアに軍配が上がったらしい。




