53.諦めきれない社長
「あーっ! もう、悔しいっ!」
頭を抱えてそう喚くロンドは、椅子に座った状態で地団駄を踏んだ。
此処は草原の街のクエスト斡旋所。その三階、フリースペースにある個室。ギルドバトルの総括をしながら、次の話をしよう。ということで集まったのだ。
「山岳フィールドと海フィールドでは二人が勝ったんだからさ、そう落ち込むことはなくない?」
「そうなんだけどさぁ」
温かなコーヒーで一息つき、私は自身の勝利に終わった草原での後、場所を変えての二戦のことを思い出していた。
山岳フィールドは、文字通り山岳地帯で行われた。標高の高い岩山で、平坦な所がなく高低差が激しい。つまり、上を取ったものが有利となる構造だった。
飛行魔法があればなんとかなる、と思ったのだが、飛行魔法は使用中に魔法ゲージが消費し続けるという仕様なので、油断すると直ぐに枯渇する。
数的不利な私はあっけなく上に陣取られ、上空から振り注ぐ弾丸の嵐に耐えるしかなかった。という完敗。
続いての海フィールドは、遮るものが一切ない場所。おまけに水中での活動には呼吸ゲージという専用の要素がもともとあり、水中に潜っていると徐々に減っていくそれがゼロになると、体力ゲージもゼロになってしまう。
ならば空を飛べば――ということになり、そこでもゲージの枯渇との戦い。
身を隠す場所がないのだから、ガチンコで二人と向き合う他なく。多勢に無勢故に完敗。
「地の利を生かせる草原はソロでも通用しそう。それが分かっただけでもいい結果だろう。で、バレンタインイベント用のアイテムも結構集められたんじゃないか? モンスターを倒せばイベント専用のアイテムもドロップするようにしたから」
その問いにガイアが答える
「はい、それは結構集まりました。モンスターの集まりもいいから、普通にイベントに参加するよりも集めやすそうっすね」
同感だと頷く私も、草原フィールドでの最後の魔法連射で、相当稼がせてもらったものだ。
「モカさんはあの攻撃で、相当稼いだんじゃないです? あの攻撃、予想していたのはいいけれど、場所が悪くて抜け出せなかったんですよねー」
「左に左にって進んでたでしょ」
「え? ……え、何か細工をしてた? あの落とし穴!?」
時間が巻き戻ったかのように、ロンドは再び頭を抱えて喚き出した。私とロンド、結構相性が良いかもね。
「ま、これはテストだから、獲得したイベントアイテムは没収するけどな」
「えーっ!?」
ガイアのブーイングも、ユキは笑顔で聞き流した。
「でも、拘束しておいてイベントアイテムはなし。というのも可愛そうだから、次に試してほしいことに話を移そう」
そう言ってユキは私たちに背を向け、ホワイトボードにペンを走らせる。
最初に書き始められたのは、現在行われているバレンタインイベントの説明だった。
このイベント中、モンスターを倒すと『ミルクチョコレート』『ホワイトチョコレート』『ココアパウダー』の三つのアイテムが獲得できるようになり、それらを様々な組み合わせでクラフトすると、各種景品と交換ができるチョコレートを作り出せる。
「モカさんは初めてですよね? このイベント、ドロップするアイテムが結構偏るんですよ。だから、なるべくモンスターを倒す数を稼ぐのが大事なんです」
「あぁ、だからギルドバトルに参加したほうが有利になる」
「そうやって、参加意欲を引き出そうって魂胆なんですよ。きっと」
「こら、魂胆とか言うな」
ユキは振り向き、苦笑した顔を見せた。
「でも、偏らなかったら戦闘意欲も湧きづらいだろ? これが足りないからもう少し倒そう。あれを作りたいから頑張ろう。そうしたモチベーションを引き出したい」
「でも、それが続いたら嫌になるんじゃない?」
「そう。その懸念もあるから、新しい要素を用意しよう。というね」
ホワイトボードに、新たな文字が足された。
「『サークル』? それってあれっすか? 大学とかの集まり」
「そう。ガイアもゲーム同好会の一員だから、よく分かるだろ? つまり、ギルドという集まりは実装できないだろうから、代わりにサークルと言う名目でコミュニティを作ろう。という社長の案」
「それが、イベントとどう繋がるの?」
そう問い掛けると、ロンドが割って入った。
「あ、もしかしてサークルメンバーの間では交換とか、譲渡が出来るようにする。そういうこと?」
「そういうこと。他にも色々と機能を用意していて、三人にはその使い心地を試してもらいたい」
場所を変えよう。
個室を出ていくユキを、私達は追い掛ける。クエスト斡旋所を出て、神殿の方へ向かっている。
「街にある物件――十字の部分にあるものは買うことが出来るんだけど、なかなか費用がかかるんだよな」
「あー、そうっすよね。なかなかの値段がして、買える人もまだ少ないとか」
「ガイアも買ってないんだ」
「ないっすねー。ロンちゃんもまだっすよね?」
「お金は貯まっているけど、買って持て余しても勿体ないと思って、なかなか手が出せないんだよねー」
内装を変えたりだとか、家を持つ楽しさは色々とある。そう語るロンドだけど、それにかまけて他の進行を妨げることになったら――というのも、不安なのだろう。
「プレイヤーが好きにできるエリアにも、家を建てることができるんだが、何でもかんでも自由にさせると収拾がつかなくなるかも、だろ? だから、土地の購入制にしていて、クエスト斡旋所で審査もある」
「自由には責任がつきまとう。って感じ?」
そう言うと、三人はうんうんと頷いた。
「有志が集まってお金を出し合って、鉄道を通したりとか面白いことはしてるんですけどね」
「あ、モカさん。それロンちゃんと乗ったんすけど、面白かったっすよ。海岸線を走る鉄道で、カモメが並走してくるんすよ」
「そうそう。餌をあげたりできて、結構楽しかったなぁ」
「デート?」
二人揃って首を横に振る。
「ガイアくんは意中の女性がいますものー」
「いやいや、そういうのはないですって。ロンちゃんこそ、いるんじゃないっすか?」
「いませんー。ロンドちゃんはアイドルなので、恋愛はいたしませんー」
そんな下世話な話をしていると、神殿を迂回して背後に並ぶ建物の隙間、路地へと入っていく。
二階建てだったり、平屋だったり。様々なデザインの家が立ち並んでいて、テラスのある家もあり、カフェを営んだら繁盛しそうだと思った。
その中の一つで立ち止まる。
「とりあえず、この家を好きに使ってくれて構わない。ハウス専用のメニューがあって、好きなように弄ってくれ。バレンタインイベントを満喫しながら、な」
「隠し部屋とか、造れる?」
「お前は何をする気だ」
何もしないけど、あえて言うなら浪漫? そう答えると、ロンドとガイアが私から一歩離れた。




