51.お試しギルドバトル その三
もうすぐ準備期間が終わる。
準備期間と言ってみたり、準備ターンと言ってみたり。そもそも実戦ターンというのも仮の名称だ。私たちの経験が、試金石となる。そう考えると、どこか神経が尖ってくるのを感じた。
「もうすぐ始まるね」
「そだねー」
いつの流行り言葉だよ。そうやって笑いながら、その時を待つ。
結局、ロンドとはずっと一緒にいた。おそらく最初に設置した拠点は、視認不可状態関係なしに直ぐに破壊されてしまうだろう。そうなってくると、直ぐに別の場所に立て直すのが急務。
「ロンドって、どういう役割で動いてる?」
「そんなこと、言うわけないでしょうよ。でも、冥魔法が使える時点であんまり意味がないんですよねー」
「ロンドは冥魔法が使えなかったり?」
「使えません。ガイアも。攻撃に特化してますからね」
挑戦的な視線。それを知った上でどう動くの? と問いかけているのだろう。
「モカさんを一人にしたの、多分思惑がありますよ」
「感じてる。このゲームを始めてもうそろそろ一ヶ月。どこまでできるようになったんだい、って、確認したいんだと思うよ」
戦力の一つとして、ちゃんと機能できるのかどうか。一ヶ月という期間から考えても、研修期間の終わりって意味合いが強いのかもね。
「だから、私は私なりに、全力でやるつもり」
「受けて立ちますよ。幸い、モカさんが取るべき手は読めてます。後は、タイミング」
そう、タイミングだ。これが一番重要でもあって、始まってみなければ分からないところ。
フィールドの中に居れば、どこからでも見える程の巨大な時計が空中に浮かんでいる。それは、コンパスの代わりにもなっている。
そして、長針が『2』を示した。
「冥転」
ワープを使って北東、正方形の角の部分へ移動する。直後には視界いっぱいに拠点破壊の警告が表示されるのだから、やはり私の行動は筒抜けになっていて、裏でガイアが動いていたのだろう。
直ぐにその場に拠点を設置して、私はワープでその場を離れる。
拠点の位置を把握するには、モンスターの動きを見るのが近道であるのだろう。しかし、まだ積極的には探さない。
開始直後で確認して置かなければならないことが、私にはあった。
一つは、どのくらいのモンスターを倒し、どのくらいの時間で視認不可状態を脱するのか。終了時間までにそれが維持できるラインを、探っておかなくてはならない。
もう一つは視点を変えて、相手の拠点がどれくらいで視認可能になるのか。
正直、こちらに関してはあまり意識しなくてもいいのかもしれない。けれど、相手が今、どのような目的を持って行動しているのかの指針になるような気がするのだ。
視認で出来るスピードが早ければ、モンスターを倒すことを優先している。そのスピードが落ちれば、他のことを優先している。
スピードが落ちた時には、こちらの拠点防衛を意識したほうがいいかもしれない。
刀を振るってモンスターを倒していく。時計の針が進んでいく。
「冥浮」
飛行魔法によって、身体が宙に浮く。三分が経過した。
「見つけたっ!」
その言葉は、どちらが言ったのだろう。私か、それとも拠点の傍にいたロンドか。向けられた銃口は、ガトリングとは似ても似つかなかった。
(スナイパーライフルを持っていた!?)
驚きはあったが、手を打つのは私の方が早かった。
ワープを使って拠点の傍へ移動すると、直ぐに塔のようなそれを滅多打ち。破壊し、攻撃を受ける前に離脱することができた。
(三分か。戦士ギルドの特性を考えると、基準はもっと遅くなる)
その事を加味すれば、私の拠点は少なくとも、五分は視認できない状態が続くはず。
(今なら、ロンドは私がその場を離れたと思っているはず)
安心して新たな拠点の設置場所を探している頃だろうか。もしもそうして油断をしてくれているのなら、そこを突かない手はない。それに――。
(油断していなければ、それもまたよし)
不安なのはガイアの動きだけど、特にモンスターを倒しているような動きは感じられない。拠点が設置されていないのなら、モンスターを倒す意味もないのだから当然だ。
私は再びワープをして、ロンドの動きを観察する。
最初の拠点は、森を背後に背負っていた。移動し、キョロキョロと視線を彷徨わせているのは同じような場所を探しているからなのだろうか。
(……時計を確認した?)
上空の時計を確認した。確認したのは時間か、それとも。
私はワープを使ってある場所へと向かった。それは、私が最初に拠点を構えた、三方が森に囲まれた空間だった。
「ダイワームゴーレム!」
落とし穴を作る。これに引っかかれば、多少は動きを封じることができる。引っかからなくても、だ。
付近に幾つかの落とし穴を設置して、更に森や林といった障害物を探しながら、モンスターを探しながら歩いていく。
開始から七分が経過した。
その瞬間、視界に警告が入る。拠点が視認不可状態を脱したのだ。その直後、フィールドに一筋の光が走った。
「ロンドの狙撃、かな。拠点は一撃で崩壊、か」
ロンドがいればどこからでも拠点が破壊されてしまう。そう考えると、彼女が自身の拠点の傍にいたのも頷ける。
ディフェンスもオフェンスも自由自在。その分ガイアが自由に動ける。
(少し、ちょっかいをかけてみようか)
三分で拠点が姿を表す。それはロンドもしっかりと把握していることだろうから、時間の調整位はしてくるだろう。
視認不可状態を脱して、直ぐに破壊するを繰り返した時、拠点を設置できる回数は初回を除いて六回、か。しかし、それは設置する間の時間を考えていない。
もし、今このタイミングで拠点を設置したのだとしたら、回数は一つ減っているはず。
拠点を設置できる状況なのに、設置せずに終了時間を迎えたら失格となるルールがあった。抱え落ちは愚の骨頂だと、ロンドが言っていたのを覚えている。
とかく考えたところで、今は相手の出方を伺うしかないわけで。
「閻浮檀金」
強化魔法を付与して、ロンドに近寄らないように注意しつつ、フィールドを探索しながら拠点を設置。めぼしい場所に落とし穴を設置するのも忘れない。
そして、彼を見つけた。
「へぇ、モンスターを倒してる。じゃあ、拠点を設置したんだ」
「あらら、俺に接触してくるとは思わなかったっすね。てっきり拠点を意識しているのかと」
「そうしたところで、三分は無駄な時間を過ごすわけだし」
「モンスターの観察でもしたらどうっすか?」
「せっかくのギルドバトルなんだし、雑魚よりも楽しい戦いをしたくならない?」
挑発的に誘ってみる。
「そうっすね。……折角のお誘い、断るのも申し訳ないっすよねっ!」
平行に振り下ろされる二本の剣を刀で受けると、辺りに衝撃が走る。かなり重い一撃。地面がひび割れ、僅かに私の身体が沈む。
「冥転」
透かさず背後に回り、攻撃を試みるも――。
「嘘だろっ!?」
こちらを見ずに、背後に剣を回して防いでくる。
「二刀流のオートガードの対応力は、凄いっすよ?」
攻撃に特化しているとか、とんだブラフがあったものだ。




