50.お試しギルドバトル その二
ギルドバトルの舞台である、草原のフィールド。そこは東京ドーム四個分の広さがある。という話である。
おおよそ一辺四キロの正方形。森や林といったものが点在し、川のような水場はない。見晴らしの良さは、どちらかと言うとサバンナと言った装いだろうか。
既にモンスターがうろついているのが見られるが、こちらを襲ってくる気配はない。実戦ターンが始まるまでは、大人しいのだろう。
ウルフに、ウルフナイト。イーグルという名の鳥型のモンスターと、そのボスであるイーグルリーダー。その二種類が相手なのは、事前に把握していた。
このモンスター、厄介なのは視認不可状態の拠点でも攻撃してきてしまうことだろう。
拠点はモンスターによって破壊されることはないが、視認不可の状態でも群がられてしまえば、相手プレイヤーに拠点の位置がバレてしまう状況へと繋がる。
拠点に近寄られる前に倒さなければまならないが、拠点の近くで戦闘をしているのが見え透いてしまえば、それは自ら拠点の在処を教えているようなもので。
「なかなか難しいなぁ」
森をくり抜いたような空間を見つけ、一先ず其処に拠点を設置した。
果たして、拠点がどのくらいの高さで視認不可状態から脱するのか。それはまだ分からない。
森や林の中に、隠すように拠点を設置することはできないそうだから、その高さによっては悔しい思いをするのかもしれない。
「一人で試行錯誤をするのは楽しいけれど、会話がないのはちょっと寂しいな」
ついつい独り言が出てしまう。
拠点を離れ、私は草原を歩いていく。
ロンドとガイアは離れたところにいるのだろうか。姿を見ることが未だない。二人いるのだから、一人がこちらの動きを観察している、と考えてもいいかもしれない。
「拠点が破壊されたら、好きな場所に再配置ができる。ということは、こちらが再配置した後に相手の拠点を破壊して時間終了となれば、問答無用でこちらの勝ち、か」
問題があるとすれば、相手の方が拠点強化に必要なアイテムが多く手に入る点。つまり、拠点強化のスピードが速い。
アイテムは自動で消費されて、拠点は自動で強化されていく。タイミングを間違えれば人数でも勝る向こうが有利。
では、こちらが確実に勝てる方法は?
「視認不可状態を利用するか、終了間際に相手拠点を破壊する」
その時に、相手の拠点が視認不可だったら? その対策が絶対条件だ。
例えば、このフィールド全体を攻撃することができれば、自分の好きなタイミングで相手の拠点を破壊することができるだろう。しかし、もちろんそんな攻撃がなせる魔法も必殺技も武器もない。
仮に、高威力を誇るサンメテオライトを連射することができたとしても、四キロ四方という範囲はカバーできない。
「どこに拠点が設置されるのか。それが分かれば苦労はしないのだけど、ね」
そのために出来ることはないか、か。
「うーん、少しリフレッシュをしよう」
考えてばかりでは頭が痛くなる。少し体を動かそうと、私は刀を取り出して鞘から引き抜いた。
そして、手近なウルフに斬りかかる。
「よし、一撃で倒せる」
強化魔法は使っていない。このギルドバトルでは、プレイヤー同士の戦闘が解禁されているため、かなりシビアな展開になるだろう。
金精霊の強化魔法は、格上の相手であるロンドとガイアの二人と渡り合うには必要不可欠。しかし、減った体力で戦うには心許ないし、そこに意識を集中しすぎて、モンスターに不意打ちを食らってしまえばお仕舞いだ。
体力がゼロになると、三分間のクールタイムの後に復活。そうして、拠点が置かれていた場所にリスポーン。二十分の中の三分は、なかなか大きい。
「それを戦略に使うことは、もちろんできる」
そう呟いたものの、それはかなり卑怯な手のような。三分間を積み重ねると六回の体力ゼロで十八分。実質二分の稼働で勝負を挑むことができる。
短期決戦を挑むのなら、わざと体力を減らしておいて倒されるというのも、立派な戦略である。その頃には相手の拠点も立派に育っているだろうから、とても壊しやすいだろう。
しかし――。
「それ、面白いか?」
勝てば官軍。とも言えるだろうけれど、対戦相手が大半の時間存在しない対人戦というのも、なんだかなぁ。
「なにか、面白くないことでもありました?」
不意に背後から声をかけられる。
「っ!? びっくりしたぁ。ロンド、急に現れないでよ」
「あはは、モカさんこういうの苦手なんですね。でも、ちゃんと注意しないと尾行されちゃいますよ」
「肝に銘じとく」
ということは、先ほど設置した拠点はバレバレか。完全に後手に回ったな。
「ロンドは、さ」
「はい」
「私が自滅ばかりをして、時間を稼いだらどうする?」
「……うわぁ、そういう作戦もあったのか。金精霊の短期決戦は洒落にならないんですけど。でも、モカさんって多分、体力ゲージを確保するためにガードを上げちゃうタイプですよね?」
ギクリとしたが、顔には出さない。
「そうなってくると、モンスターの攻撃ではなかなか倒れないと思いますよ。そうなってくるとロンドちゃんやガイアに倒されるしかないんですけど、流石に何度も倒されていくのを見ていると、怪しく思えます」
あぁ、流石に怪しすぎるか。所詮は机上の空論。
「そっか。それならもう、正々堂々と臨むしかないか」
「そうですそうです。それが一番ですよ」
にこやかに笑うロンドは、私から離れるつもりはないらしい。私をマークしておいて、開始と同時にガイアが拠点を破壊しに向かうつもりか、それともほかの思惑があるのか。
「ロンドって、どっちが利き手?」
付いてくるのなら、少し話に付き合ってもらおう。
「右ですけど、どうしてです?」
「ほら、ガトリングを両手に持っていたから気になって。利き手じゃない方の照準がブレたりしない? 私は左手の鞘、扱いにくくてさ」
「あぁ、それならオートエイムがありますから。ヒューマンのマスターボーナスって、武器ごとに変わるんですよ。両手に違う武器を持てば二つのボーナス。同じ武器なら強力に」
なるほど。一足す一の二を選ぶか、二倍の効果を選ぶか。その選択が出来ると。
「汎用性がありそうだね」
「だから、比較的ヒューマンが多いのかもしれませんねー。他のは本当に特化していく感じですし」
「因みに、ワープされたらホーミングしたり?」
「ホーミングは、まだちょっと遠いかな。ワープされたらそれを追ってオートエイムが発動するので、振り回されちゃいます。……あ」
よし、これで一つ対策が取れた。
「もう、ズルいですよー。モカさんの手の内も明かしてくれないと、これからずっと、付きまとっちゃうぞー!」
「あはは、なにそれ。まぁ、天と冥を経由して金にいるってことで一つ」
「……ガイア、これはヤバい可能性が出たよ。この人、完全に自己完結型だ」
こちらの手の内も明かしたことだし、ここから先は、私が仕掛ける物が効果を発揮するか否かに懸かっている、か。




