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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
ギルドのあれこれ
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49/62

49.お試しギルドバトル その一

 バレンタインデー当日。私はクエスト斡旋所に訪れた。


 この日は特別イベントも開催されているため、普段は賑わう掲示板の周りも、疑問を尋ねるために並ぶ人の多い受付周りも、しんと静まり返るほどに閑散としている。


 受付で業務を行う人達は、メニュー画面のようなものを覗きながら、何やらキーボードを打ち込んでいる。


「あれ、何をしているの?」


 併設されているカフェにて、私は相手をしてくれているカレンに訊いた。


「あれはですね、ゲーム内で発行されている、雑誌やら書籍やらの作成です。実装されている既存の装備を使ったコーディネートだったり、この世界の世界観をモデルにした小説だったり」

「へぇ、売っているの?」

「ええ。図書館で」


 今はまだ本棚を埋めるためのイミテーションが多いらしいけれど、日々増える創作物は、いずれ図書館を埋め尽くすのだろう。


 カレンは漫画を描いているそうで、私がここを訪れた時にも、ペンを走らせていたのが見えた。


「みんな、いろんな仕事をしているんだ」

「受付は特別ですよ。どうしても空いた時間ができるので兼業です。モカさんもどうです? ミステリーとか」

「私はパス。今の仕事が手に付かないくらいに考え込んじゃいそうだし」


 そう笑って、私はふと思った。


「その仕事だけど、なんかこう……急ぎすぎじゃない? 銃の実装。ビキニみたいな鎧の実装。それで今度はギルドでしょ。これが全部二月の間の出来事って、普通のゲームでもこんなハイペースなの?」

「そう感じるのは、モカさんの頑張りのお陰ですよ」


 そう言って拍手を頂けると、なんだか照れてしまう。


「ちょっとした発想を試すだけの仕掛けに、思っていたよりも時間がかかっていたんです。砂漠を掘ろう。湖に飛び込もう」

「ゲームに慣れた人ほど、見逃しがちだったみたいだね」

「ですね。私達としては、砂漠で化石掘りなんて楽しんじゃう人がいるかも? 山からパラグライダーで発進して、湖に不時着する人もいるのでは? なんてノリでこの仕様を受け入れたんです」


 あ、湖はパラグライダーでも良かったのか。あんなに怖い思いをする必要は、なかったのかぁ。


「その結果がこれです。で、モカさんのお陰でそこを突破できたので、予てから議論されていたギルドの問題を片付けようと。銃に関してはクエスト攻略課が上手く機能するかのテストで、ビキニ風の鎧は建前」

「急いでいるように見えて、計画的なんだ」

「ですね。スケジュール的には、これで想定通りになった感じです。空の街以外の全てのエリアが開放されて、それに合わせてギルド、そしてギルドバトルの実装。それと同時に伝記集め」


 その新たなエリアの開放も、ユキ曰く想定より早くなりそう。その点においては、追加要素であるギルド、ひいてはギルドバトルの実装は急ぎたいとの考えはあるだろう。


 想定通りのスケジュールの中で、唯一のイレギュラーなのがユーザーの好み、か。

 海よりも川――淡水が好きという気持ちは、やはり私もよく分かる。木陰があるとより分かる。やはり水辺の必要性は夏になれば分かるわけで。そうなると、海はちょっと暑すぎるかな。


「それでも、川を求めて――の動きは想定外だったんでしょう? そこはちょっと申し訳なくなってきちゃうね」

「私は海派でしたので、ちょっとびっくりです。潮風って、気持ちよくないですか?」

「私は、マイナスイオンのほうが魅力的かな」

「でも、川にはサメは出ません」


 議論はそこ? ちょっと笑ってしまった。


「その話は置いておいて、専属で出来る人がいるっていうのは強い、と実感しました。ガイアくんとロンドちゃんは大学もありますからねぇ」

「あ、そうなんだ」


 てっきり大学は中退なりしてから、農業やアイドルをしているのかと思っていた。


「それもあって、いろいろと入り用らしいんです。ゲームするだけで給料が発生するなら、息抜きも兼ねて出来るって、喜んでましたから」


 愉快な人たちの裏にある苦労、か。

 それなら尚更、負けてられない。自分の夢や理想のために頑張っている人達に負けてしまったら、彼らの負担が大きくなってしまう。


 だから私は、ここで彼らよりも強くなる可能性を見せて、専属である事を誇って見せなければ。


「それを聞いたら、ギルドバトルのテストとやらも、負けてやれなくなっちゃうな。私の方が強いんだから、二人は息抜き程度でやってくれって、言ってやらなくちゃ」

「その意気です」


 目覚めし時計のような、アラーム音が耳に届く。開始の時間が迫っているようで、それを知らせるためのものだろう。


「そろそろ時間だ。……あ、そうだ。これ、バレンタインのチョコレート。折角だから作ってみたんで、良かったらみんなで」

「わぁ! ありがとうございます。順調に餌付けをされている感じですねぇ」


 紙袋をを渡して、私はメニュー画面を操作する。ギルドバトルは専用の部屋、というより、各エリアを切り取ったようなフィールドで行われるらしい。


 メールによって届いた招待状から、そこへ移動する。


 見渡す限りに広がる草原。疎らに生えた木。草原の街から見える景色に近いのだろうか。そこには既に、ガイアとロンドが立っていた。


「お待たせ」

「あ、ロンドちゃんは達もいま来たところですよー。暇つぶしにバレンタインのチョコレートをあげていました」

「え、暇つぶしなんすか?」

「あ、じゃあ私もあげる」

「暇つぶしっすかっ!?」


 日頃の感謝だよ。そう笑って二人に贈る。


 ブラウニーっすか? 普通のチョコ。ロンドちゃんもお礼をあげますー。そんなやりとりをしていると、ブザーのような音がなった。つまり、これが開始の合図だ。


「おーし、始まりっすね。先ずは十分間の準備ターンだ」

「じゃあ、ロンドちゃん達は失礼しますねー。お互い、正々堂々と」


 そう拳を向けるロンドに対し、受け入れるように拳をぶつける。


「コテンパンにしてやるから」

「そういう強気、モカさんらしいっすね」


 最近、強気と呼ばれることが多いなぁ。内面に居座るビビリな自分がそう言っているけれど、今はただ、この高揚感に身を任せておこう。


 自分が目指す方向性が決まっているからか、戦闘というものが楽しみで仕方がない。それでも、気分の高まりは油断をはらむと自分を戒める。


 ここは、ギルドバトルのルールをしっかりと思い返しておこう。


 先ず十分間の準備時間が与えられる。その間に、東京ドーム四個分あるという広いフィールドの中に拠点を築くのだ。


 ルールとしては簡単で、モンスターを倒すことで得られるアイテムを使って、塔のように育つ拠点を大きくしていく。二十分間の実戦ターンで、どれだけ大きく育てられるかを競い合って勝敗を決める、と。

 その際、相手の拠点は破壊することができる。けれど、拠点はある程度の大きさになるまでは、相手に視認されることはない。さらに、破壊された後は拠点を別の場所に移すことができる。


 頭が痛くなってきたな。このあたりは実際に体感してから考えるとしよう。


 更には所属するギルドによって特殊な効果が現れ、ロンド達の戦士ギルドは、モンスターを倒した際に得られるアイテムの増加。私が所属する暗殺者ギルドは、拠点の視認不可時間の増加。


 三対三のバトルで、今回は二対一の構図になっているのだから、この仕様は上手く使わなくては損だろう。


 草原は見晴らしが良いから、視認不可時間の増加は優位に働く――、とは思うけれど、向こうは数の優位がある。

 考えられる作戦は一人がアイテム集め、一人が拠点捜索、もしくは防衛。そんなところか。それを採用されると、いくら拠点を隠すことのできる時間が長かろうと……。


 あ、そういうことか。つまり、如何に時間ギリギリで相手の拠点を破壊できるか、が鍵になる。

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