48.世界観的ギルド
海の街は、他の街と何ら変わらない造りをしている。唯一違うところと言えば、心地のよい潮風と潮騒を感じられるところだろうか。
街の周囲は安全地帯となっているため、マリンスポーツを楽しむ人も多い。
パラセーリングだとか、沖釣りだとか。沖合に浮かぶ街だからこそ、移動のことなど考えずに遊べるのが魅力らしい。
サーフィンなどは、専ら海岸エリアか。彼処は砂浜もあるから、海水浴をするには最適――なのだけど、それよりも湖に魅力を感じる人が多かった気持ちは、私も少し解るかもしれない。
「海ってさ、緑がないんだよね」
明るすぎる、といえば良いのだろうか。もう少し落ち着いた雰囲気のほうが、気持ちが安らぐというか……。せめて夕暮れ。侘びしさが漂う時間帯が、海の本番であるように私は感じる。
「その辺に海藻でも浮いてないか?」
などと風情のない言葉を吐くユキには、私のこの感情は解らないだろう。
私とユキ、そしてロンドとガイアは、新たな仕事の説明を受けるために、クエスト斡旋所へ移動していた。
街を取り囲む堤防を離れ、ラフな格好をした人の多い通りを抜ける。遊び終えた人々が、マリーナから飲食街へ足を運んでいるのだろう。
釣りや遊泳ができるスポットは、けん玉の形をした街の左側。球の部分背負ってだ。マリーナは右側にあり、クエスト斡旋所もそちら。
新鮮な魚が入荷したと、活気溢れる広場を横目にして扉を開けた。
三階のフリースペースに幾つかある、個室の一つを借りて中に入る。長テーブルとパイプ椅子、ホワイトボードが置かれたシンプルな部屋だ。
「お、コーヒーメーカーがあるじゃん。淹れて良い?」
「ご自由に」
ホワイトボードに何かを書き始めたユキに了承を得ると、早速スイッチを押した。コンビニで売っているものを小型にしたようなもので、カップをセットしてスイッチ一つ。なかなか便利だ。
いや、……世界観どこ行った?
「他に欲しい人は?」
「あ、俺はカフェラテが欲しいっす」
「ロンドちゃんはブラックでー」
「俺もブラック」
ブラック三つとカフェラテを淹れ終わり、配膳をすれば早速本題に入る。
「では始めよう。ギルドという仕様に対して今、二つの案が持ち上がっている」
カップを傾けながら、説明に耳を傾ける。
その二つの案とは、プレイヤーが自由にギルドというものを作成して、自由なコミュニティを築くことができるという案と、既存のギルドに入ってもらう案。
「前者は、MMOでいえば一般的かもな。同じ目的同士、仲がいい同士でグループを組んで、ギルド同士の戦いやら何やらをやっていこう。という感じ」
その視線は、私が知識のないことを察しているかのようにこちらを向いている。
「で、既存のギルド。それはMMOではないRPGで――、とりわけオープンワールドのものでよくある要素だろうか」
「戦士ギルドとか、生産ギルドとか、そういったものに入ることで、特定のイベントが発生したりするんすよね」
なるほど、そういったゲームもあるのか。
「社長としては、MMOらしく前者を推したいらしい。けれど、弟さんとしてはより世界観を表現できる後者のほうが望ましい」
それで対立、ね。
「で、いつもの如く社長が譲歩して、後者の案でギルドバトルやら何やらが上手く回るのならば、そちらで実装しよう。と」
「つまり、私達はそのテスト、のようなものをすればいいわけね」
「そういうこと」
まだ本当に決まったわけではないから、なんていうんだったか。――βテスト? みたいなことはできないのだろう。
「弟さんとしては、ギルドもプレイヤーに対する強化要素の一つとして捉えているみたいだな。ギルドに所属すれば、そのギルドのテーマに沿った必殺技や魔法が使えるようになる感じで」
つまり? と話を聞けば、武器をメイン、サブともに物理に寄っていたとしても、魔法使いギルドに所属すればギルド専用の魔法が使えるようになる。とのこと。
現状だと魔法はどうしても杖、本、銃を使用しなければならない。もしくは、クエストを通じてステータスポイントを引き換えにするか。
「でも、三人だけでテストになるんですかー? それに、もう時期バレンタインデーです。ゲーム内でもイベントがあるでしょう? ロンドちゃん的にはそっちにも参加したいし、まさか被らせるなんてことはしませんよね?」
「そこは色々と考えてある」
そうして、ユキはホワイトボードにペンを走らせる。
書き出されるそれらを目で追っていくと、箇条書きでいくつかの要素が書かれているようだ。
・ギルド用の必殺技や魔法の使い心地。
・ギルドバトル案の体験。
・一人でも体験できるように。
・他のイベントと共存して行えるか。
一人でも、か。なんだろう、嫌な予感がする。
「バレンタインイベントと並行して、ギルドバトルという要素のテストをしてもらうことになった。しかし、ギルドには入ったほうがいいみたいだけど、人と一緒に何かをするのが苦手だ。そんな人も当然いるだろう。そんな人達に配慮ができているかどうかも確かめたい」
ニヤニヤとした視線に、私は眉を顰めた。
「ロンドとガイアにはペアを組んでもらって、モカ一人と対戦してもらう」
私のソロでも進められるようにって勧めたの、主にこれが要因では?




